謝肉祭 ※残虐な描写有り
暴力・人肉食描写が有ります
人によっては不快に感じる可能性がありますので、苦手な方は読まないでください
2015/01/15改稿
尋問とは、情報を引き出すための質問である。その目的が果たされたところで、尋問していた相手をどうするか。きちんと捕虜二人の証言に違いが無いことを確認したらもう用済み。この後は、普通なら釈放、または射殺が妥当なところ。しかし尋問をされていた奴らがしたことと言えば、貴重な装甲車を損傷させて、生存不能地域とコロニーの内側を隔てるゲートをぶっ壊して、スカベンジャーの仲間を殺して、コロニーの建物を沢山燃やした。
それだけのことをしでかしておいて、釈放は論外。しかしただ殺すだけでは腹の虫が収まらない。というのは俺を始めとするスカベンジャーの総意。そしてその方法は、エーヴィヒが提案してくれたもの。頭に話したら喜んで準備をしてくれたので、すでに処刑の舞台は整っている。屋外で食事をするのは自殺と同じなので、収容所で一番広い部屋に道具が置かれている。
ドラム缶を縦半分に割って寝かした物に炭を放り込んで、火を付けて、その上に鉄板をかぶせて。その周りに多くのスカベンジャー……否、カニバリスト達が集合して、それぞれが手に皿を持って処刑を待っている。ちなみに俺は皿は持ってきていない。人肉食は主義に反する。それでなぜこの場に居るのかと言うと、見ていろと頭に命令されたから、この場に居る。ただそれだけだ。
「晩餐会にようこそ、紳士淑女の皆様」
部屋の一番奥で車いすに乗った頭が芝居がかった口調で挨拶をすると、スカベンジャーの歓声が湧き上がる。耳が痛いし、いつもの頭との違和感がひどすぎて気持ち悪い。
「それでは、皆様お待ちかね。本日の食材の登場でございます」
バン、と勢い良く扉が開かれ、台車にロープで括りつけられ、猿轡を噛まされた全裸の捕虜二人が搬入されてくる。その体つきは、このコロニーの人間と同じように、非常に細い。他所のコロニーでもきっとここと同じように食糧事情は緊迫しているのだろう。
そして捕虜が入ってくるなり肉を見る目、敵を見る目、仇を見る目、享楽の目。様々な目が一斉に捕虜の方を向く。何をされるのかわからない恐怖で鳥肌が立って、局部も小さく縮み上がっている。逃げ出したい一心からか、細い体を必死に捩って暴れて拘束から逃れようとするが、結び目は解けず、それどころか一層肉に食い込んで締め付けを強くする。
「一人頭の取り分は少なそうだな……」
「取り合いになりそうね……」
意味深な発言が、小さな声で湧き始める。ああ、きっと惨たらしいことになるに違いない。だがこいつらはそれだけのことをしたのだから仕方ない。
哀れ。しかし同情の余地はない。
「肉を削ぎ取れ。まずは足から、少しずつ。なるべく長く生きていられるように」
そうして頭から下された非情な命令に、ナイフを持った二人のスカベンジャーが二人の捕虜に近寄る。捕虜の暴れ方が目に見えて激しくなるが、それでも縛られた体が解放されることはない。猿轡をされて、言葉にならない叫び声を上げるが、逃げることは出来ない。
男が捕虜の足を掴み、ふくらはぎの肉を摘み、摘んだ部分に刃を立てた。
「ーーーーーーーっ!!」
声にならない悲鳴が部屋に響く。猿轡をしていなかったらきっとあまりの五月蝿さに気絶していたかもしれない。それでも全く気にせずに、スカベンジャーはそのまま刃を前後させて肉を切り取った。そして、予熱された鉄板の上に血の滴る肉を乗せた。
ジュゥ、と耳に心地よい音が鳴り、その様を一部を除いてほとんどのスカベンジャーが魅入られたように見続ける。そして、色が変わったところで一斉にフォークが伸び、かち合って耳障りな音を立て、奪い合いの末に細切れになった肉がそれぞれの口へと消えていく。
醜い光景。汚染区域に住むゴミ達と何も変わらない……いや、食器を使うだけゴミ達よりも上品か。
「フゥッ、フゥッ、フゥッ!」
荒い息。目には涙を浮かべ、肉を削がれた部分からは血を流す捕虜。散々殴られ蹴られ、情報を無理やり食わされた腐った合成食料と一緒に吐かされ、用済みになれば皆の晩御飯。生き残ったばかりに、生きたまま肉を削がれて、目の前でその肉を焼かれ、食べられる光景を見させられるのだから、つくづく運が無い。戦いの中で殺されていた方がまだ楽に死ねただろうに。
「ククっ、どんどん焼け。でないと皆待ちきれずにそいつに襲いかかっちまう」
「あいさー」
くつくつと、愉快そうに笑う頭からの指示で、また名も知らぬスカベンジャーが肉をそぎ取る。さっきと同じく、ふくらはぎから肉を摘み、切り取って、焼く。食欲を唆る脂の臭いが部屋に立ち上る。
「ヴっンンーーー!!」
捕虜を見れば、足から流れる血の量はそれほど多くない。できるだけ長く苦しめるための心遣いとして、血管を避けて切っているんだろう。捕虜は大暴れしているというのに、器用な事をする。
ブツリ、ジュゥ、ブツリ、ジュッ、一定のリズムを取って肉が切り取られ、鉄板に乗せられていく。焼けた端からフォークが伸びて、奪い合いの末に細切れになった人肉が人の口の中へと消えていく。骨が見えるまで肉を切り取られると悲鳴は聞こえなくなった。死んだのかと思って捕虜の顔を見る。白目を剥いて、口から泡を吹いて動かなくなっていた。
「なんだもう死んだのか?」
「このくらいじゃ死なんだろ。水をかけたら起きる」
そう言ってバケツに入った水を盛大に顔にかけられると、気を失っていた捕虜が目を覚まし、痛みでまた暴れ始める。それもお構いなしに、肉を切って、焼いて、食べられて。また気絶したら、水をかけて起こされて。それを見続けていると、段々その光景が酷い物と思わなくなってきた。きっと感覚が麻痺しているんだろう。
「……」
それどころか肉の焼ける臭いで腹が減ってきた。ここで一人家に帰っても何も問題はないだろうし、帰って家で一人糞不味い合成食料でも食べよう。いつまでもここに居たら、お前も食えと押し付けられるかもしれないし……まあ、焼けた端から人の口に消えていってるし、捕虜の二人はどう見てもここにいる全員の腹を満たすだけの肉はついてないからそれはないだろうが。
それでも見ていて気分が良いものじゃないから、さっさとここからおさらばしたいだけなのかもしれない。
狭い部屋の中にみっちりと詰まった人の群れをかき分けて、頭の元へ。
「頭、腹が減ったんで帰ります」
そうとだけ伝えて、また人の中を進もうと振り返る。が、腕を掴んで止められた。
「食い物ならそこにあるだろう。一番多く敵を殺した奴が食いたいと言えば、皆譲るぞ」
「気持ちはありがたいですけど、俺は人肉は食わない主義なんで」
掴まれた腕を振り払い、自分の主義を伝える。自分が人間として最低だとはわかっているが、人を食ったら最低のさらに底に沈んでしまう。人間でなくなり、汚染地帯で蛆虫のように蠢くゴミと同列になってしまう。それだけは、食わなければ死ぬという位まで追い詰められない限りは御免だ。
「付き合いが悪いな。まあいい、お前が食わなかった分、他の奴らの食い扶持も増えるしな」
「すんません」
スカベンジャーの中でいくら出世したからといって、無汚染地帯に住めるわけじゃなし。毎日天然食品が食えるわけでもなし。出世しても、少しの給料と仕事が増えるだけ。たったそれだけのことに主義を曲げる位なら、今のままでいい。毎日ひぃひぃ言いながら生活できる程度で十分。
「それじゃ失礼します」
今度こそ人の群れをかき分けて、部屋の外へ出て行く。血と脂の臭いの充満した空気から、トラックの排ガス臭い空気に変わる。どちらも臭いが、果たしてどちらがマシか。どちらも嫌な気分になるから、甲乙付けがたい。
カーニバルダヨッ!




