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鋼鉄の夢  -Iron Dream-  作者: からす
第二章 明日への逃避
44/116

尋問

サブタイトル通り、拷問シーンです。暴力描写がありますので、ご注意下さいませ

2015/01/15改稿

 世の中には、いくらでも嫌なことや面倒な事が転がっている。道を歩けば人骨に蹴躓くように、今やっていることも、運悪く選ばれたからやっている。面倒だが、やらねばならんことだ。


「う、ぐぇぇっ、えっ……!」


 冷たいコンクリートの壁が四方を覆う部屋に、椅子に括りつけられた男の嗚咽と、その口から垂れ流される嘔吐物が床へ落ちる音が反響する。


「吐くなよ。もったいないだろ?」


 保存期限が切れ、腐敗して毒々しい色合いになった合成食料。味は最低だが、人間が生きるために必要な栄養素の詰まったそれも、腐ってしまってはただの毒の塊。それを嬉々とした表情と声色で捕虜の口に漏斗を使って流し込むトーマス。白目を剥き、涙を流し。やめてくれと懇願しても、拷問は終わらない。

 縛り付けられて碌に動かない体を必死に動かして逃れようとする捕虜の頭をしっかりと両手で抑えて動かなくする俺。かれこれ一時間ほどはこの拷問を続けている。自業自得とはいえ、少しだけ同情する。


「いいぞ、離せ」

「うい」


 しっかりと毒の塊を飲み込んだのを見届けたら、両手でがっちりと固定していた捕虜の頭を離す。それと同時に、トーマスが椅子から少しだけ遠ざかり、部屋の壁の少し手前くらいで立ち止まった。


「よく食べたな。偉いぞ、ご褒美をやらなくちゃな」

 

 またアレをするのかと思って見ていると、案の定。トーマスは軽く助走をつけ、捕虜の腹へと蹴りを叩き込んだ。床にボルトで固定されている鉄製の椅子はピクリとも動かず、その椅子にしっかりと縛り付けられている男は、蹴りの衝撃を全て自分の体で吸収することになる。

 ただでさえ不味い合成食料の、さらに腐敗した物を飲み込んだばかりの人間が、ガチガチに縛られて腹を蹴られたらどうなるか。


「ヴっ……! おぐぇ、うおえぇぇぇぇ!」


 刹那より短い溜めの後、また盛大に吐いた。白目を剥いて、背中を曲げ、口からだけでなく鼻からもゲロを垂れ流す。呼吸が出来ずに死なれては困るので、鼻にチューブを突っ込んで機械に吸い込ませる。しかし一体これで何度目の嘔吐だろうか、少なくとも十は軽く超えている。吐きすぎて喉が切れたのか、それとも繰り返される拷問で内臓を痛めたのか。吐瀉物に酸化したどす黒い血がそれなりの量混じっている。それでもまだ続く拷問。受ける側からすれば、まさに地獄だろう。


「ああ、また吐いたのか……吐くなって言っただろ? 聞いてなかったのか?」


 そしてまた罰として顔を二、三回殴られる。最初は吐く度に一本ずつ指を折っていたが、もう折る指も無いから歯を抜いて。抜き終わったから殴っている。おかげで捕虜の顔は元がどんな容貌だったかもわからないほど青く腫れ上がり、涙と鼻水、唾、そして血で彩られていて、正直見るに耐えない。


「ー……~~……」

「何言ってるんだ? もっとはっきり喋れ」


 パンパンに腫れ上がった唇がもぞもぞと動いて、よくわからない言葉を紡ぎ始めた。もう一発殴ろうと拳を大きく振りかぶられるトーマスの腕。それを掴んで止める。凶暴な笑みが俺の方を向いて、思わず怯む。それでも、この調子で放っておけば情報を引き出す前に捕虜が死んでしまう。頭の命令を忘れて、ただ自分が楽しむためだけに殴って殺すのは見過ごせない。

 もし頭の命令を遂行できなければ、こいつだけじゃなく俺まで処分される。


「頭の命令は情報を聞き出せ、だろ」 

「こいつがなかなか口を割らないからな。仕方ないだろ」


 そう言ってまた捕虜に笑顔を向けると、ビクリと捕虜の体が震えた。どうやらかなり参っているようだが……そろそろ聞き出せるんじゃないだろうか。

 さっきまではずっと黙って傍観していたが、今度は俺がトーマスを押し退けて捕虜の正面に立ち、肩に手を乗せて極力優しい印象を持たれるように、柔らかい言葉使いで話しかける。


「話せばこれ以上殴られる事はない。約束しよう」

「何でも話すから、もうやめてくれ! ……もう、嫌だあ!」


 堰を切ったように、かすれた悲痛な叫び声が尋問室に響く。効果はてきめん。さっきまで殴られ蹴られの拷問をひたすら受け続けてきたから、急に優しくされて気が抜けたのだろうか。これで多少は口も柔らかくなってくれればいいんだが。ま、散々叩かれて肉は柔らかくなってるだろうが。

 そもそも拷問が始まってから未だ質問の一つもしていないから、口が堅いか緩いかもわからないのだが。


「だそうだ」

「俺たちを油断させる演技かもしれないぞ」


 なんとも疑り深い男だ。しかしその位疑り深い方が、生きていくにはちょうどいいのかもしれない。

 あるいは、単に殴り足りないだけか。拷問大好きなこいつの事だ、きっと殴り足りないんだろう。


「この状態で演技をできるなら、逆に尊敬するよ」


 これだけの拷問を受け続けて、それでも弱ったふりができるなんて、誰にでもできることじゃない。そんな事を思う俺は、もう少しトーマスを見習うべきかもしれない。


「嘘を言うかもしれない。もう少し痛めつけよう」

「嘘をついてもどうせ後でわかる。もう一人、捕虜は居るからな」


 大体、嘘でもいいから何か情報を聞き出さなければ始まらない。その前に殺してしまっては、元も子もないだろう。


「もし嘘を付いたら……」

「嘘は言わない! 信じてくれ!!」


 トーマスがセリフを言い切る前に、また耳が痛くなるような叫びを上げた。これほど必死なら、真実を言ってくれるに違いない。


「じゃあまずは最初の質問だ。お前たちのコロニーは、ここから見てどの方角に、何日進んだところにある?」

「西だ……西に装甲車で十日……」

「西? 西っていったら、確かお客様の集落があったよな」

「ああ、あったな。おい糞野郎、道中に小さな集落がなかったか」


 もしもお客様の集落が襲われていたら、困るどころの騒ぎじゃない。生存不能地域で一切の制限なく、生身で動き回れるミュータントの能力がなければ、今後掘り出し物の捜索は全てコロニーの人間が行わなければならない。


「し、知らない……」

「ホントだな?」

「本当だ! 嘘は言ってない!!」


 ……知らないか。まあ小さな集落だし、気付かずに通り過ぎてても不思議じゃない。不思議じゃないが、一応後で頭に言っておこう。嘘かどうかは、後でもう一人に確認すればわかる。


「じゃあ次の質問だ。お前たちのコロニーの戦力は、今回襲ってきたのを除けばどのくらい残ってる」

「ま、まともに戦える奴らは俺たちだけだ……後は全部、ろくに戦えない奴らばかりだ!」

「もっと具体的に。装甲車、アース、大砲、歩兵。そういう物の数を教えろ」

「そんな細かい数なんて覚えてねえよ!」

「覚えてる限りでいい。大体の数を教えろ」

「あ、アースが……たしか十機も残ってねえ……装甲車は、ここに来たので全部……歩兵の数はわかんねえ……大砲とかは、確かない……」


 覚えてないって言っときながらしっかり覚えてるじゃないか。まあ、それは別にどうでもいい。問題はこれが本当か、急かされたから適当にでっち上げた嘘か、だが。それはもう一人に聞けばわかることだ。もし違っていたら、どちらが嘘を付いているのかまた尋問すればいい。


「しっかり覚えてるじゃねえか。殴っていいか?」

「ひぃっ!」


 トーマスが手のひらを拳で叩くと、また一つ大きく震える。見れば股間が吐瀉物とはまた違う液体で濡れているし。後でこの部屋を掃除する奴らから苦情が来ないか、少しだけ心配だ。


「殴りたいならもう一人の方を殴れ。これ以上殴ったら、こいつ多分死ぬぞ」

「ッチ」


 舌打ちするトーマスを連れ部屋を出て、万が一捕虜の拘束が解けたとしても、逃げられないようにしっかりと外から鍵をかけさらに閂もしておく。


「嘘をついてるってわかったら、殴り殺せばいい」

「嘘をついてなかったらどうする」

「どっちにせよ終点は変わらんさ」


 どうせ死ぬのは決定事項だ。あれだけ好き放題やってくれたんだから、殺す以外の処分方法があるはずがない。


「どう殺す」

「考えてないが、できるだけ酷くやった方がいいだろうな」


 連中がもたらした被害は、工場の労働者たちがちょっと仕事をサボるのとは規模がはるかに違う。暴徒ですら結構惨たらしい殺し方をしたのに、ただ殺すだけでは皆納得がいかないだろう。スカベンジャー全体の怒りを鎮めるための生贄として、派手に死んでもらわないと。


「そうだな。あれだけ好き放題やってくれたんだ。相応の方法で殺さないと。で、どう殺す」

「どう殺す、って言われてもな」


 磔にして銃殺、は普通すぎる。コロニー中を引きずり回してからリンチして殺す。これも普通すぎる。できるだけひどく殺すというのは決まっても、いざどうやるか、と聞かれれば案外浮かんでこないものだ。


「生きたまま人に食わせる、というのはどうでしょう」


 と、ここで今まで空気のように黙っていた第三者が声を上げた。さすが今まで何度も死を経験してきた人間だ。発想が違う。


「ずいぶんと酷い案だな」

「だがクソッタレ共にはいい殺し方だ。後で参加希望者を募ろう」

「おい、こいつの話を聞くのか?」

「俺にはとても思いつかない殺し方だしな。で、クロード。お前こいつと知り合いみたいだが、どうしてこんな嬢ちゃんがこんな場所に居る」

「そいつは支配階級の殺し屋だ。俺が支配階級様に歯向かわないように、ずっと見張ってるんだとよ」


 何もこんな所に付いてこなくてもと思うんだが、付いて来るなら仕方ない。どうせ家の中まで入られているんだし。トイレやシャワーにまで入ってこないだけまだいいだろう。


「はぁ……お前みたいな弱い奴に?」

「単に強いやつの監視をするなら、まず真っ先にお前に監視役がついてるはずだがそうじゃない。頭の頼みで、お客様を集落に送り届けたんで、ミュータントに味方する奴は許せん。殺してやれ! と支配階級に命令されたんだろ」

「その通りです」


 あの時、欲を出して引き受けなければ。こんな事にもならなかっただろう。今になって後悔しても、もう遅いが。


「そりゃぁ……災難というか、なんというか。まあ、次のやつを拷問しようぜ。殴って忘れよう」

「殴るのはあんまり好きじゃないんだがなあ……まあ、そうするか」


 今はそれ以外に現実逃避する方法もない。今は、トーマスの言うとおり。そうするしかないだろう

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