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鋼鉄の夢  -Iron Dream-  作者: からす
第二章 明日への逃避
43/116

朝礼

2015/01/15改稿

2015/01/19 42話と同じ文章になっていたのを修正

 弾の補給が終わってしばらく。特にやることもないので修理屋に出張依頼だけ出して待機していたら、思っていた通りスカベンジャーは集会所であるグラウンドに集まるように、と放送がかかった。歩いて行くのも、わざわざアースに乗って行くのも面倒なので、家の前を通る他のスカベンジャーのトラックを止めて、一緒に乗せて行ってもらった。

 そして車に揺られること十分ほど。すでに大勢のスカベンジャーが集合しているグラウンドへ到着した。ドライバーに感謝の言葉を送ったら、適当に並んでいるスカベンジャーの列に加わる。それからさらにしばらく。立ち続けていたせいで足が疲れてきたところで、スピーカーの甲高いテスト音が鳴った。不快な音に、思わず顔をしかめる。


『あーテス、テス……よし。おはよう糞野郎共! 昨夜はお前らが気を緩めてたせいで、危うく俺の喉元まで糞共が這いずり寄ってきたぞ! 反省しろ、このろくでなし共!!』


 年を考えさせない張りのある声で放たれる、予想通りの言葉。夜には命を張ってコロニーを守り、ゆっくり休む暇もなく朝一番から出てきた忠誠心あふれる部下達への第一声が糞野郎とは、相変わらずひどい上司だ。

 事態の大きさにさえ目を瞑ればいつものことなので、文句を口に出してまで言う人間は誰も居ない。皆ただ黙って、早く終わらないかという顔をして突っ立っている。


『返事がねえな。まあいい、今回の襲撃でお前らに新しく仕事が増えたからよく聞け。まずゲートを大砲で吹っ飛ばされて、外からの土や野生動物が入り放題だからこれをなんとかしなけりゃいかん。これの修理は働き蜂共にやらせるが、また他のコロニーの糞共が襲ってきたら不味い。よって羽はしばらく外地探索を中止。一部を除き、ゲート外周の見回りを任せる。足は工場の監視を半分に減らせ。残りは連中の残党が居ないかコロニー中を虱潰しに探せ。最後に腹は、戦闘区域に散らばってるアースの残骸回収。死体は数えるだけでいい、肉はどうせゴミ共が食うからな。担当は各自で決めろ』


 羽は外の警備に、足は中の捜索。腹は、いつもとは少し違う仕事で掃除か。てっきり殴られた分の礼をしに行けと言われるかと思ったが、礼をする相手の家も、警備体制もわからないんじゃ行けないか。


『トーマスとクロードは前へ来い。別個で頼みたいことがある。それ以外は解散していい』

「……は?」


 どうしてこんなタイミングで俺に声をかけるのか。トーマスと一緒に頼みたいこととは一体何だろうか。

 わからん。わからんが、厄介なことを押し付けられるのは間違いない。行きたくない。行きたくないが、所詮下っ端でしか無い俺に拒否権など無いのだ。腹を括って行こう。

 列を抜けだして、間を通って前へと進む。嫌でも注目を浴びるが、どこかの殺し屋のせいで最近注目を浴びるのには事欠かない。あれだけの視線を受け続ければ、嫌でも慣れる。いや、諦めて受け入れられるようになる。下を向いてひたすら人の隙間を進み、車椅子に座って腕を組み、堂々としている頭の前へと出る。少し待つと、ガスマスクをした誰かが俺と同じように人ごみの中から前へ出てきた。


「よく来た。で、どっちがトーマスでどっちがクロードだ。マスク被ってたら誰が誰かわからん」

「俺がトーマスだ」

「じゃあそっちはクロードか」


 黙って頷く。


「頼みたいことってのは、昨夜とっ捕まえた奴の尋問だ。どんな方法を使ってもいいから連中のコロニーの位置、戦力、取ってきたルートを聞き出せ」

「どっちか一人で十分じゃないですかね」

「同感だ」

「敵を一番多く殺した奴と、支配階級の居場所につながる農場ゲート入口を守り切った奴。そんな二人へのご褒美みたいなもんだ。めんどくさい雑用するより、糞共を痛めつけるほうが楽しいだろう?」


 どうやら頭は俺のことを他人を痛めつけて楽しむサディストだと勘違いしているらしい。トーマスはともかく、俺はそこまでじゃない。確かにエーヴィヒが苦しむ所を見てスカッとしたことはあるが、あれは個人的な恨みと図々しさに腹が立ったからで。

 今回の件と比べたら……状況は似てるか。人の事を殺そうとしたのと、人の家に勝手に入り込んだのと。だが気分が乗らない。多分、疲れてるからだろう。死都の探索と撤退で殺しあって、三日ほど装甲車に揺られて、復讐心よりも睡眠欲が優っているからだ。


「……了解」


 ただ、そんな主張をしたところで、だからどうしたと一蹴されるのが目に見えている。さっきも言った通り俺ごとき下っ端に拒否権なんて無いのだ。


「喜んで引き受けよう」


 そんな俺とは正反対に、景気のいい返事をするトーマス。仕事熱心な奴だ、素晴らしい。


「クロードと違っていい返事だな」

「上司の頼みを笑ってこなすのがいい部下だろ」


 見習いたくはないが、素晴らしい精神だ。今の言葉が本心からのものだとすれば、俺はきっとこいつの事を尊敬してやまないだろう。まあそんな殊勝な性格じゃないことはわかってるから、単に人を痛めつけるのが楽しみなだけだと思う。それか昨日散々な目に遭わせてくれたクソどもにお礼をしたいのか。

 どっちでも、やることは多分変わらない。蹴って殴って情報を吐かせるだけだ。


「いい心がけだ。じゃあA3区画の収容所に行ってこい。警備してる奴には、俺から尋問を任されたって言えば通れるはずだ」

「へーい」

「行くぞクロード。楽しい拷問タイムが俺たちを待ってる」


 肩を落として、大人しく受け入れる。ああ、面倒くさい。全部こいつに丸投げして、俺は後ろで見てるだけってのはできないだろうか。向こうについたら頼んでみよう。そう思って、振り返ると。ちょうどいい仕事熱心な奴が居た。


「さっきは何を話していたんですか?」

「ああ、寝る前に襲ってきた糞共を捕まえてるから、なんとしても情報を吐かせろって言われたんだよ。代わりにやってくれ」

「私の仕事ではありません」

「居候させてやってるだろ」

「あなたの監視が私の仕事です」

「……」


 体を差し出してもいいと言っても、仕事を押し付けられるのは嫌らしい。やはり手を出さないでいたのは正解だったらしい。体を差し出していいなら、こんなちょっとした雑用をする位どうでもいいはずだ。それを嫌というのなら、体を差し出すのも嫌なのだろう。

 まあ、嫌なら仕方ない。当初の予定通り、頭に任された仕事をやるしかないだろう。ああ、面倒だ。

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