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鋼鉄の夢  -Iron Dream-  作者: からす
第二章 明日への逃避
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戦争第一夜 中編

 家から駈け出して、ほんの少しの間。移動距離にして区画一つと半。家の有るC3区画と、ゲートの有るE3区画。それぞれの区画を東西南北に走る幹線道路を進み続け、ちょうど中間地点のD3区画を半分ほど進んだところ。徐々に近寄ってくる炎と煙がもう目の前まで迫ってきたので、一旦脇道に逸れて路地に入る。

 それに付いて来るアースが二機。俺の機体が一番『目がいい』という理由で先頭を任されているが、敵よりも後ろから味方に撃たれないかと内心恐ろしい。二機の内片方は、口では殺すつもりは無いと言っているが元々俺を殺そうとしてきた殺し屋だ。ひょっとすると俺を殺すための隙を伺っているのかもしれない。

 この状況で俺を殺すのは理に適った行動とは思えないが、警戒しておくに越したことはない。


「アンジー、そいつが怪しい動きをしたらぶっ殺せ。俺はまだ死にたくない」

『敵に集中してたら多分わかんないわよ』

『そんなことはしませんよ』

「どうだか」


 人の言葉や行動を心から信用して後に待っているのは、足元を掬われるという悲惨な結末だけ。積み重ねた時間だけが信頼関係を構築する。ここ最近俺を殺そうとする素振りは見せないが、それだけで一度や二度ならず三度も人の命を狙ってきた人間を信用するなんてのはとても無理な話だ。

 そんな事を考えていると、道路を進む多くの反応をセンサーが捉えた。数は……大小合わせて十は居る。三対十。中身は歩兵とアースと装甲車。

 アースと歩兵だけなら奇襲でどうにかなったが、装甲車も追加されたらこの人数で挑むのは厳しいを通り越して無謀でしか無い。


『どうする?』

「それを俺に聞くか」

『先頭イコールリーダーでしょ。ならさっさと決めて』

「他の連中を待つってのは……」


 可能なら前後からの挟み撃ち、同時奇襲で叩きたい。さらに贅沢を言うなら一撃で全滅させる。

 正直、無理。


『外の音が聞こえないの? 他の区画でドンパチしてるわよ。ここで見過ごすか仕掛けるかの二択しか無いわ』


 遠くから聞こえてくる銃声や砲声はしっかりと聞こえてる。さっきから銃声の激しさが増しているのも。何の連絡もないから押しているのか押されているのか、それとも停滞状態なのかわからないが、まだ銃声が鳴り止まないってことは戦闘が継続されているんだろう。

 つまり、あっちこっちで射ち合ってるせいでここに回すだけの戦力は無いということ。


『私の粗悪品のセンサーも敵を見つけたわよ。どうするの』

「どうするのって……」


 もし俺達が敵のセンサーに掴まってたら相手も相応の対応をしてくるはずだが、まだ敵の動きに変化がないところを見るに気付いてないらしい。隊列を崩さず、まっすぐ道路を進んでいる。このまま気付かずまっすぐ進んでくれれば、先頭を進む装甲車の横っ腹を殴れる。しかし問題はその後だ。最初の一発で装甲車を潰しても残る九つの敵がこの路地になだれ込んでくる。

 そこは撃ってすぐ逃げればいいか。路地の形はこっちしか把握してない。引き込んで確個撃破すればなんとか。これでいこう。これ以外にももっといい方法があるかも知れないが、そんな案は思いつかないし考えてる時間もない。


「先制攻撃で装甲車を潰す。その後は路地に潜って……後は各自で動いてくれ。指示なんて出せん」

『普通ね』

『基本は大事ですね』

「お前らは俺に何を期待してるんだ」


 俺は元々足の仕事しかしてなかったし、その仕事もそれほど熱心にしてたわけじゃない。日々をのんびりと生きていただけだったのに、戦いについての詳しい知識なんてあるわけがない。普通の策が出ただけマシじゃないだろうか。

 そうやって話をしている間に、敵の装甲車のヘッドライトが狭い路地の出口から見えた。横っ腹に一発でかいのを叩きこむために、肩に載せた連装ランチャーのトリガー付きグリップに機体の手をかける。炎に照らされた装甲車の横っ腹が見える。が、そこに装甲の色は見えず、ゴミの死体らしいものが大量に吊るされていた……これではランチャー一発で致命傷を与えられるかどうか。後に取っておきたかったが、全弾ごちそうするか。


『やるならはやくしなさい!』

「わかってる! 足の32番より本部へ、D3区画で敵を発見! 交戦する!」


 グッとトリガーを引き、ランチャーを撃つ。一発、二発、三発と次々と弾が発射され、バックブラストが路地に積もったゴミを舞い上げて視界を塞ぐが、装填された九発を全て撃ち尽くすまでトリガーから指を離さない。そして放たれた弾の全てが目標の横っ腹に直撃したのか、九つの爆発が連続で起きる。


「ランチャーパージ! 下がれ、来るぞ!」


 バガン、と小さな爆発が起きて、空っぽになったランチャーのコンテナが地面に落ちる。それと同時に、撃破したかどうかを確認もせず次の指示を出し、自分も路地の奥へと引っ込む。素早く動かないとこっちがやられる。

 そして案の定、奥へ引っ込んだ直後に銃弾と砲弾の嵐がさっきまで居た路地を破壊し尽くし、飛んできた建物の破片が装甲を叩く。


『ここからは自由行動?』

「ああ好きにやってくれ! アースの操縦は得意なんだろ!」

『もちろん、腕の見せどころね!』


 接近戦用のブレードを抜いて、複雑に入り組んだ路地の奥へと走るアンジー。それを見送りながら自分も彼女とはまた別の方向へと進む。エーヴィヒも同じく、それぞれが別々の方向へと進む。

 ここからは自分の腕が全てだ。いくら機体の性能が良くとも立ち回りを間違えれば簡単に死ねる。エーヴィヒはともかく、俺は一回死ねばそれまで。選択肢を間違えないようにしなければ。


「さて……どう出てくる。どう出るべきだ」


 大きな熱源になるランチャーを捨てたから、熱源を拾われることはない。動体センサーは、障害物だらけのここじゃ役に立たない。だが相手はさっきたっぷりと反撃に弾をぶち込んでくれたおかげで、熱源センサーにはっきりと映っている。

 先手を打つか、相手の出方を待つか。もうこちらの存在は相手に知れてしまっているから、前のような奇襲は通じない。こういう時にどうすればいいか、なんて考えても今まで無かった事例に対する答えなんて出てくるはずがない。


 どうすればいいかわからないから、とりあえずセンサーを睨んで考える。すると、答えは意外と早く出た。この路地はアースが一機通るのに、少し余裕がある程度の広さしかない。だからそこを進むには一列になる必要があり、正面からでも後ろからでも相手をするのは一機もしくは一機プラス歩兵一人だけ。

 待っていてはどうしても正面からしか攻撃できない。正面からと後ろからなら、後ろからのほうがリスクは小さいわけで。安全に行くなら、やはり自分から動くしかない、と。ひょっとしたら歩兵が音に気づくかもしれないが、歩兵が持てる程度の火器なら盾を犠牲にすれば死ぬことはない……が、もう少しリスク無く殺る方法は無いものか。


「……無いな」


 壁を抜いて射撃するにしても、威力が落ちるからアースの装甲を抜けるかどうか不安だ。それに撃った後は銃身が熱を持って敵のセンサーに捉まる。敵に自分の位置を教えてどうするのかと。ならば銃を使うのは無しだろうと、銃を腰のハンガーにつけて、ブレードを空いた右手に持つ。極力音を立てないように、ローラーは使わず歩きで、敵の塊の後ろを取れるように移動する。角を一つ曲がり。二つ曲がり。

 そして、敵の姿をモニターに映す。

 モニターの中の生身の歩兵と目があった。ローラーを最大速度で回し、盾を前面に押し出しながら突進。歩兵が狂乱状態でこちらに銃弾を放つが、背負っているランチャーならともかく手持ちの小銃では、シールドどころか装甲すら抜けない。跳弾の音を聞きながら、勢いを落とさずにブレードを突き出すとあっさり胸を貫通したが、それでもまだ勢いは止めない。さらにその後ろのアースに機体ごとぶつけるように剣先をぶつけると、火花を散らしながら刃の半分あたりまで突き刺さり、止まる。


 しかし、そこまでしても相手の腕が動いて、大型ライフルの銃口が装甲を叩く音がした。

 

「っ!」


 地面を蹴ってさらにブレードを押し込むと、刀身が根本まで突き刺さり、結局銃弾が放たれることはなかった。


「……はっ」


  そして、一瞬の放心。自分がまだ死んでいないことに安堵する。その直後、恐怖が裏返り、そのまま敵への怒りとなって自身を突き動かす。残りの一機がこちらに振り向いて大型ライフルの銃口を向け発砲してくるが、剣を突き刺したままのアースが盾になって自分には当たらない。さらにローラーで前進。そのまま『盾』を押し出してぶつけて、転ばせる。


「っくぅ……」


 装甲越しの衝撃と衝突音に一瞬怯むが、目論見は成功して見事最後の一機も地面に転がってくれた。しかも味方のアースの下敷きになって動けていない。これを見逃す手はないと、敵アースに突き刺さったままのブレードを、動かなくなった敵に足をかけて抜き取る。ギリギリ、と鉄と鉄が擦れ合う音がして鳥肌が立つが、なんとか抜け切った。歩兵の死体は抜け落ちなかったが、どうせアースをもう一機刺すのだし問題ない。

 血とオイルで赤黒く汚れたブレードの柄を逆手に持って、下敷きになった一機に近寄る。そして一番装甲が薄いであろう首元に剣先を向ける。すると命乞いをするように、あるいは抵抗するように自由に動く左腕をバタバタと動かすが、肩に何度か足を振り下ろし関節を完全に踏みつぶして動きを止め。そのまま首に汚れた剣を突き下ろす。

 

「ふぅ……」


 そして、一息ついてからさっきと同じように抜き、ついでに刺さったままの死体も地面に振り落とす。べちゃり、と滑稽な音を立てて地面に落ちた死体の頭に足を踏み下ろし、確実に止めを刺しておく。

 足をあげると、少し粘着く何かが離れていく音がしたが気にしないでおこう。


「……他に、敵は」


 センサーを見ると、動いている熱源は二つしかない。が、残念ながらそれが誰のものかまではわからないので短距離通信で生存確認をする。これで返事がなければ、返事がなかった分敵が残っていることになる。そうなると面倒だが、どうだろうか。


「アンジー、エーヴィヒ。生きてるか」

『もちろん無事よ。敵は全員ぶっ殺してやったわ。そっちは』

『左腕に被弾しましたが、まだ動けます』


 どうやら二人共生きているらしい。エーヴィヒは動ける位の損傷と。実際どの程度の損傷かは見てみないとわからないが、動けるなら問題ないだろう。


「ああ、全員ぶっ殺した」

『最初は厳しいかもと思ってたけど、案外どうにかなるものね。で、どうするこれから』

「どうするって……」


 まだ遠くから銃声が聞こえてくるし、戦いは続いてるんだろうが、手助けする必要なく終わるのなら行きたくない。だが必要性の有無は俺にはわからない。わからなければ聞くしか無いだろう。

 というわけで通信を情報を統括する腹の本部へつなぐ。


『どうしました』

「足の32番より本部。敵を排除した。他の区画の状況が知りたい」

『現在戦闘中の区域は、D2とD4……D2の敵は殲滅した、とトーマスさんから報告がありました。D4区画の状況は不明』


 さすが、


「……じゃあD4に行けばいいんだな」

『お願いします』


 銃声はまだ鳴り止んでないから、まだどちらかが全滅したということはない。どっちが優勢かわからないが、それは行けばわかるか。


「表通りに一旦集合。それからD4区画に行くぞ」

『はい了解』

『わかりました』


 一度路地から表通りに出て、二人を待つ間に黒焦げになり動かなくなった装甲車を眺める。死体を積んでロケットランチャーへの盾にしていたようだが、同じ場所に何発も打ち込まれたら盾の意味も無いらしい。大穴が空いていて、中を覗けば装甲と同じ色に焦げた、ガスマスクを付けた死体がいくつも。

 見ていて気分のいい物でもないので、装甲車に背を預け。まだ路地から出てこない二人をのんびりと待つことにする。

ジャンル別日間3位とかありがとうございます。

本当に、ありがとうという言葉以外に何も浮かびません。


(正直あまり現実味がない人)


2015/01/15改稿

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