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鋼鉄の夢  -Iron Dream-  作者: からす
第一章 新たな日常
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移動

 ミュータントの子供を一度頭にあずけておいて、自分は家の地下にあるガレージへ戻ってきた。先月ゴミ掃除に使って以来起動していないアースにメンテナンス用の端末を繋ぎ、チェックを開始する。ガスマスクを脱いでフィルターを交換してから端末のモニタを見るとエラーの文字が大量に。センサーにカメラに関節にモーターに……どれもパーツ交換の必要はない程度だったのは幸運だ。行って帰る位ならパーツ交換の必要もないだろう。

 端末に表示されたチェック完了のボタンに触れて、あとのシステムスキャンもプログラムにまかせておく。メンテナンスが済むまで多分もう少しかかると思うので、自分の腹ごしらえもしておく。一度生存不能地域に出たらアースからは降りられないのだし、栄養補給をするなら今しかない。空腹で注意が散漫になり死んでしまっては元も子もないのだから。

 しかし腹ごしらえといっても、糞不味くてゲロみたいに臭い上にデロっとして食感が最悪の半固形状の合成食品を、できるだけ口の中に留めずにガンガン飲み込んで腹に流し込むだけだ。ビニールのパックに入ったそれを冷蔵庫から取り出し、プラスチック製の蓋を開いて飲み口を咥えて一気に煽り、柔らかいパックを握りしめて中身を絞り出す。


 味は、甘いような酸っぱいようなしょっぱいような苦いような……味わいもせずに一気飲み干すため、これ以上詳しく表わせと言われても無理。例えるなら臭いと同じくよく冷えたゲロといったところ。あまりの不味さに吐きそうになるのをこらえて、急いで水を飲み口の中の臭みを消し去る。

いつも思うのだが、栄養ばかり詰め込んで味の優先順位を最低にした素晴らしい開発者には、これのおかげで今日を生きられるという感謝と共に鉛弾を一発くれてやりたい。


「うっ、ぐへぇ……まっずい」


 そして一本飲み終わっても腹を満たすにはまだ足りなかったので、仕方なくゲロのようにマズイ合成食品をもう一本、冷蔵庫から取り出して飲み干す。あまりのまずさにやはり吐きそうになるが、今吐いたらせっかく我慢した意味がなくなるので、喉元までせり上がってきた臭いゲル状の物体を無理矢理飲み下す。そしてダメ押しに水をもう一杯。なんとか吐くこと無く栄養補給に成功する。ここで吐いたらまたあの苦行を行わなければならないことだった。

 そして空になったパックをゴミ箱へ放り込んだところで、エラー修正完了の電子音が鳴り響く。端末に触れて装甲を開くよう命令を出し、開いたところでアースに乗り込む。エラー修正はしたが、動作確認のため手を開いて握って。腕を曲げて伸ばして。二、三歩あるいて。どうも関節が動く時にギシギシと嫌な音がする。油くらい差しておくべきだったか。しかし動くには動くので、実体ブレードを背負い、対野生動物用にマシンガンと、最悪の場合に備え対AS用の多連装ロケットランチャーを手に持ってガレージの外へ出る。ガレージのシャッターを閉めたら、ガシガシと盛大に音を立てながら街道を疾走する。サポートシステムがついているのでいくら走っても疲れない……というわけではないが、少なくとも区画1つ分走った程度では息切れもしない。

 帰りは数分で区画を分けるゲートを一つ抜けて、ガキの待つ体育館に到着した。そこで一旦アースを降り、外で警備をしている羽の一人に頼んでガキを連れてきてもらう。


「頭から伝言だ、子守なんて慣れないことさせるんじゃねえ。だとさ」

「すまん、と伝えておいてくれ。そんじゃガキ、マスクをしてついてこい」


 できるだけ早く行って帰ってこなければ夜になる。夜の生存不能地域は例えアースに乗っていようと危険極まりない地帯だ、なにせ野生動物がそこらじゅうで活発に活動しているのだし。過去にベテランの羽の連中が、夜間にデカイ熊一匹相手に全滅したって噂もあるし。整備不良ででかい音を立てて歩くアース一体なんて、いいエサに見えるだろう。だから日が暮れる前には戻りたい。そのため時間は一分でも惜しい。


「ガキじゃない。アンリよ」

「お前の名前か?」

「そうよ」


 胸を張って言うガキ改めアンリ。ガキの方が短くて呼びやすいから、やっぱりガキと呼ぼう。三文字と二文字では、口に出して呼ぶときに一文字分カロリーを多く消費する。塵も積もれば山となる。明日になったらどうせ名前なんて忘れてるだろうし、ガキでいいだろう。


「ふーん。行くぞガキ」

「アンリ!」

「些細な事だろう。それより離れるなよ。離れたらゴミどもに攫われても助けられんからな」

「えっと……攫われたら、どうなるの?」


 もし攫われた時のことを考えて怯えているのか、少し震えながら尋ねてくる。それを見て優しいことを言うか、それとも事実を言ってもっと怖がらせて、その様子を見て楽しむか。ちょっとだけ考えてみる。

 どちらを選ぶと言われたら、断然後者。その方が面白い。


「死にたくなるほど犯されてから食われるか、もしくはそのまま飯にされる。何年か前の話だが、工場の労働者の子供が行方不明になって探したら、その子供の服を着たゴミが捕まって。取り調べをしたら、柔らかくて美味かったとさ。捕まらなかったのは運が良かったな」


 ゴミの連中は何でも食う。ネズミにゴキブリに雑草に、挙句の果てには人間の死体も。汚染されていようと病気にかかっていようとおかまいなしだ。健康なミュータントの子供なんてきっと柔らかくて美味しい新鮮な肉にしか見えないだろう。

 そう笑いながら話すと、急に口を閉ざしてアースにしがみついてきた。ミュータントといっても、やはり子供は子供らしい。普通の人間と何も変わらない。これを怖がる、というか忌み嫌う支配階級の気持ちがしれない。


「ははっ、攫われないようにちゃんとついて来いよ。一度目は神様が微笑んでも、二度目はないぞ」



 しがみついているガキを引き剥がし、ガッシガッシと音を立てながら移動を再開する。それに遅れてついてくるガキ。口は悪いが、黙ってさえ居れば歳相応に可愛いものだ。このまま移動中にも黙っていてもらえればありがたい。外に出たら、会話に気を割くほどの余裕はないのだし。

 


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