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鋼鉄の夢  -Iron Dream-  作者: からす
第二章 明日への逃避
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戦争第一夜 前編

 ドォォン、と。まだ日の昇っていない夜遅く。家の外、遠くから聞こえてきた、耳慣れない異音で目が覚めた。


「……」


 ドォォンと。また聞こえてきた、耳の奥にこびりつくような音。体の奥底を揺らすような振動。工場から出る騒音とは全く異なるが、聞いたことが無いかと言われればそうでもない。雷に似ているが、微妙に異なる音の質。ついこの前死都探索の最中に起きた戦いで聞いた音を、もっと低く。もっと強くしたような感じだ。

 その時の記憶を掘り起こされ、ぼんやりとしていた脳が迫り来る命の危険を認識して覚醒する。顔を叩いて視界もハッキリとさせて、自分の記憶に従って部屋の電気をつける。するともう一人の同居人も起きて、何事かと言いたげな視線をこちらに向けてきた。


 そして遅れて聞こえてきたサイレン。これまで生きてきた中で一度も聞いたことがない警報音が、工場の騒音などとは比べ物にならない音量でコロニー中に響き渡る。警戒の度合いが最大に引き上がり、命の安全を確保するために何をすべきかを考え、すぐに出てきた答えに従う。ガスマスクを壁から取って歩きながら顔につけ、階段を降りて地下のガレージへ向かう。その後ろを、同じように同居人が付いて来る。


 ガレージの扉を開いて、待機状態のアースに駆け寄り装甲を開く。中身の入っていない空っぽの器に体を投げ入れようとして、一瞬だけ泊まる。寝間着から着替えるべきか一瞬悩んだが、どうせこれを降りるのは戦いが終わった時か、あるいは死んだ時だけなので別にいいだろうと思いそのまま乗り込んで装甲をバタンと閉じる。


 袖に腕を通すように自然な動きで機体に乗り込んだら、今度は機体のチェックを始める。急いで起動させなければならない気もするが、これから生きるための殺し合いをしに行くというのだ。途中で動けなくなって死んでしまっては元も子もないし、今回ばかりはしっかりとチェックしておく。


「システムチェック」


 機体の中でクッションが膨らみきったら、機体に命令を実行させる。


『チェック開始』


 直後、目の前のモニターに大量の文字の羅列が表示され、水のように上から下へと流れていく。エラーがあれば赤い字が出るはずだが、今のところは出てこない。良し。


『……チェック終了。異常ありません』


 モニターに表示される機体の色は、案内の音声が示す通り全て緑。警告文は大気汚染の物しか表示されていないので、いつも通り警告をオフにする。


「よし、起動」


 機体を立ち上がらせて、近くに置いてあった手持ちの武装を拾って装備する。出撃の装備はいつもと同じ、シールド、ブレード二種、対人機銃、機関砲、ランチャーという死都探索と、機銃以外は同じ装備。それに少し遅れ、隣に置かれていた赤い機体も立ち上がって同じように装備を拾う。それを見届けたら、ガレージのシャッターを開いてスロープを登り、外へ出る。


「オーイ……予感的中かよ」


 ゲートの方向から上がる赤く大きな炎が夜空を照らし、その炎の中で煙が揺らめいて、天へと登っていく。さらにそこからタタタン、タタタンと断続的な発砲音が聞こえてきて……いつもの平和なコロニーはどこかへ消え、ただの戦場に変わっていた。

 死都の探索からコロニーに帰ってくる時に、もしかしたら追跡されているかもとは思ってはいたが。まさかそれが当たるなんて思ってもみなかった。まだ連中と決まったわけではないし証拠もないが、タイミング的にそれ以外は考えられない。

 どうやら嫌な予感ほどよく当たる、ということらしい。本当に、最近はクソッタレな事ばかり起きてくれる。そう苛立つが、それをぶつける相手はここには居ない

『あら、やっと起きたの。遅かったわね』


 スピーカー越しに聞こえる、ノイズ混じりの聞き慣れた声。


「アンジーか。どこだ」

『左よ』


 言われた通りに左を向くと、そこには俺とほぼ同じ装備のアースが一機立っていた。俺達が出てくるのを少しの間待っていたのか、肩には僅かな量の灰が積もっている。


「ずいぶんと用意が早いな」

『丁度機体の整備をしてたところで、サイレンが聞こえたからそのまま出てきたのよ』

『緊急事態発生! E3区画のゲートが突破されました! 確認できた敵の数は装甲車が五台、アース、歩兵が多数! 戦闘可能なスカベンジャーは直ちにE3区画へ向かい、敵を迎撃してください! 繰り返します! ……』


 先ほどのサイレンと同程度の音量で流される指示と敵の情報。それを聞いてまず馬鹿げた数だ、という感想が頭に浮かんだ。もしも連中が俺たちと同じサイズの装甲車を使っているなら、装甲車一台につきアースを最大で六機。それが五台なら三十機も運べる。歩兵も居るなら、もう少し数は減るかもしれないが。

 ただ、それでも誤差の範囲だろう。最低でも二十は居ると考えられる。このコロニー内の全戦力には及ばないが、それでもかなりの数には違いない。ゴミが死ぬのは当然として、スカベンジャー、下手をすれば働き蜂にも結構な数の死人が出るかもしれない。頭の頭痛の種がまた増えてしまう。それだけじゃなく、撃退した後の俺達の生活にも直接影響が出る。


 未来の事を考えるのもいいが、迫ってきているであろう敵を退けなければ明日もないか。誰かに押し付けたいが、俺がやらなければ誰もしないだろう。


「急がないとダメだよなぁ」

『はい。早く終わらせて早く寝ましょう』

『……そんなにすぐには終われないでしょうね』


 アンジーの言うとおり、何しろ敵の数が数だ。それにもしも今日の奴らが死都探索の時に襲ってきた連中と同じコロニーから出てきたのなら、足並みをピタリと揃えて包囲できる位には練度も高い。となればいくら数の差があっても、いくら地の利があっても苦戦は必至。

 本当に面倒なことになった。正直行きたくない。行きたくないが、行かねば自分の生活もメチャクチャになってしまう。どうして俺はこうも運がないのかとため息をつくが、その間にも爆発音と発砲音は少しずつ近づいている。ローラーで機体を動かし、道路を走る。待っていればトラックがやって来て運んでいってくれるかもしれないが、それでも待っている時間が惜しい。先に行って、追いつかれたら乗せて行ってもらおう。


『全速で進まれたら私ついて行けないわよ。少しスピード落として』

「あいあい」


 言われた通りにスピードを少し落として進む。追いつかれたら、足並みを合わせて進める位に速度を戻して。センサーに注意しながら、燃えている区画に向って進んでいく。

 さて、今日は果たして生きて朝日を拝めるだろうか。

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