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鋼鉄の夢  -Iron Dream-  作者: からす
第二章 明日への逃避
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買い物 4

2015/01/15改稿

 日用品の買い出しは、エーヴィヒにあれを買えこれを買えと要求され。拒否しようとする度に脅されて、結局結構な額に。必要最低限の買い物で済ませるつもりが、予想外かつ予定以上の出費になってしまった。しかしそこまで無茶苦茶な値段の買い物にならなかったのは、不幸中の幸いか。なんとか弾薬を買う分の金は残ってくれた。多めに金を持ってきておいて正解だったか。


「いらっしゃい」


 カウンターの向こうから聞こえる店主のやる気のなさそうな声。それに返事をすること無く、目的の商品を探す。陳列する棚はあってもそこに物が置かれることはなく、ただ同じ商品を纏めて乱雑に積み上げ。それすらも崩れ混沌とした様子の通路を、買い物用の台車で弾薬箱を押し退けながら進む。

 弾薬単体で置かれずに、箱ごとに置かれているのが唯一の救いだろう。おかげで商品を見つけさえすれば必要分を確保することは容易だ。

 ただ問題は、それを見つけるまでが大変なこと。かなりの重量がある弾薬箱を押しのけて進むのはかなりの腕力と体力が要る。可能ならアースを持ってきたいくらいにキツイ作業だ。これで扱う商品がもっと多ければ、ショッピング用アースが店に必要になっていたことだろう。


 しばらく弾薬箱をかき分けながら通路ならぬ通路を進むと、ようやく床に転がる目的の物を発見した。20mm徹甲弾と、連装ロケットランチャーのHEAT弾と焼夷榴弾。セットで置いてあるのは非常に運がいい。おかげであちこち探しまわる手間が省けた。こんな混沌とした場所をあちこち探しまわるのは面倒極まる。


「よいせ……っと」


 下手をすれば腰を痛めそうなほど重い弾薬箱を全身の力を使って持ち上げて、台車の上に乗せる。あまりの重量に台車のタイヤが悲鳴を上げるが、お構いなしに次を乗せる。必要な分だけを乗せたら、重みの増した台車を力いっぱい引っ張る。油が差されていないタイヤが不安になる音を上げるが、いつものことなので無視。商品を押し退けて作った道をそのまま引き返して、レジへ持っていく。


「20mm徹甲弾に、80mmロケット弾か。うん……いつものセットをいつもの量。しかし、この前買ったばかりじゃないかね?」

「この前羽に移籍してな。噂は聞いてるだろ、弾は全部他所のコロニーの連中にくれてやった」

「……ああ、そういえばそんな話も聞いたな。ご苦労なことで」

「どうも、ありがとさん」


 成果ゼロ犠牲者多数。とてもじゃないが、労ってもらう資格なんて無い。もちろん罵られたいのかと聞かれればNOだが。


「俺にとっちゃ、羽が何人死のうが足が何人死のうが知ったことじゃ……ああ、商品を買ってくれる奴が居なくなるから死なれちゃ困るな。まあ、生きて帰ってくれただけでありがたいってことで」

「……そうかい」


 いつもと同じだけの金額を財布から取り出して、店主の油で汚れた手に直接乗せる。


「どうも。そういや噂といえば、そっちの可愛い子についてもあったな。お前さんと一緒にコロニーの外へ行ったはずなのに、お前さんが帰る前にコロニー内で目撃されたから、幽霊だとか何とか」

「……幽霊というか、ゾンビだな」


 死後蘇って人間を襲い殺す化け物といえば、それくらいだろう。創作の中に存在しないものと思っていたが、実際にそれに類する物を見ると、登場人物の心情がよくわかる。

 感情を言葉で表現するなら、不気味。あるいは恐ろしい。それに尽きる。


「死肉と一緒の扱いをされるのは不愉快です」

「そうかい」


 生き返っているのは死体ではなく、記憶を受け継いたクローンで、理性もある。正しく言えばゾンビとは違うが、それ以外に適切な表現が浮かんでくるかと言われれば否。だから撤回はせず、その考えを直接声に出して言う。


「記憶を受け継いで生き返るんだから、ゾンビとは違うって? 不気味なことに変わりはないだろ」

「……確かに」


 店主も俺と同じ考えなんだろう。視線が子供を見るものから、不気味なものを見る目に変わった。


「しかし上の連中、そんな技術まで持ってるなんてな。ひょっとして連中子供を作らずに、その技術を使って生き続けてるんじゃ?」

「有りえるが、どうでもいい事じゃないか?」

「確かにな。上の奴らがそうだったとしても、俺達の生活に何か影響があるわけじゃない」

「それを知ったから殺される、何てことも無いだろうしな」


 もしそうだとしたら、俺はとっくの昔に殺されてる。いや、以前から殺されかけてはいるが。もしさっき俺が言ったとおりなら、今すぐにでも、この殺し屋が何らかの方法で俺を殺そうとしてくるだろう。だからきっと、こうやって人と話す程度なら問題はないはずだ。


「そうだろう、エーヴィヒ」

「ご主人様についてのことはお答えできかねますが、そういった話をするだけで殺害対象になることはありません」

「ってことだ」


 上の連中がどうか、というのは教えられない情報に引っかかるらしい。今度どういうことが教えられない情報なのか、教えてもらうとしよう。いちいち話をする度に「それは教えられません」と言われては話す気力も失せる。どれほど嫌いな相手とでも、うわさ話と会話ほど暇つぶしに適した行為はないのだし。会話は長く続けたい。


「そうか。なら遠慮無く噂を広めさせてもらおう」

「しっかり広めといてくれよ。俺の不名誉な噂が消えるくらいに」


 予定よりも大分早く戻ってきてしまったから、噂は鎮まり切ってない。実際、ショッピングモールの中で買い物していたら嘲笑の声が聞こえてきたし。


「ああ、忘れてた。そういえばそんな噂もあったな、それもしっかり掘り返しとく」

「おいふざけんな」

「言わなきゃ忘れてたままだったのに」

「……くっ」


 墓穴を掘ったか。だが、一度に二つ以上の噂はそうそう流れない。古い噂よりも、新しいうわさ話に皆は飛びつくだろうし。そう考えれば、別に問題はないはずだ。そう、何も問題はない。恥ずかしがるから面白がって噂を流されるんだ、堂々としていればいい。堂々としよう。


「まあいい。それじゃ、買ったものはいつもの場所に持ってきてくれ」

「お前の家に、だな。わかった、お楽しみの最中に届くかもしれんが許せよ」

「俺にそんな趣味はない」

「じゃあホモか」

「はは、面白い冗談だな。ここで死ぬか?」


 さすがに今の発言は見過ごせないので、護身用の拳銃を抜いて店主に向ける。流石にマズイと思ったのか店主の顔にも焦りの表情が浮かぶ。その顔を見て少しだけ胸がすっとしたので、通報される前に銃をしまう。治安を守るためのスカベンジャーが、治安を乱して捕まるなんて笑い話にしても面白く無い。


「冗談ってわかってるならムキになんなよ」

「じゃあ相手を怒らせるような事を言うなよ。場合によっちゃ冗談じゃすまんぞ」


 今回は優しい俺だから脅すだけで済んだが。これがアンジーやチーフだったら頭に穴が一つ増えるかケツの穴が裂けるところだ。もしかすると、そうなりたいからさっきみたいな冗談を言ったのかもしれないが、さっきの冗談で怒った通り俺にそんな趣味はない。


「じゃあな。俺達はこれで帰る」

「失礼します」


 別れの挨拶をして店から出て行く。帰ったら今日の出費を記録しておこう。それで、生活費を節約できるところは節約して。今後のために、貯蓄ができるような生活設計をしなければ。

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