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鋼鉄の夢  -Iron Dream-  作者: からす
第二章 明日への逃避
33/116

反省

2015/01/15改稿

 ここ最近、人生最悪の一日ランキングが非常に高い頻度で更新されているが、今日もまた更新されてしまった。正直、そんなランキングは更新されてほしくなかった。できればそっちよりも人生最良の一日ランキングの方をそろそろ更新したい。

 ……現実逃避はこれくらいにして。いい加減に現実と向きあおう。


「結局戻ってこれたのは三人だけか」


 外へ迎撃に出た六機の内の、三機がやられてしまった。その内にはエーヴィヒも含まれているが、あいつはコロニーに戻ればどうせ生き返ってまた俺の前に出てくるだろうから気にしない。

 だが、貴重な羽のメンバーの内二人が死亡し、アースも二機失われてしまった。この損害はスカベンジャーにとってはそこそこの痛手となる。足から人員を引っ張ってくるにも限界があるし……そういえば今回の件の責任は誰が取るんだろうか。


「そうね。私とあんたと、攻撃しようと言ってた大馬鹿野郎の三人よ。なんであんただけ生き残ったのかしらねえ」


 確かに、言われてみればそうだ。撤退を主張してた奴も死んでしまったし、エーヴィヒをレイプしようとしていた奴も死んだ。単なる偶然、こいつは運が良かったのだろうが、それでも死んだやつからすれば納得いかないだろう。

 死人が不平不満を口にするかと聞かれれば否だが。


「……すまん」


 反省はしているようだが、反省したからといって事実が消えるわけじゃない。こいつが先制攻撃しようなんて言い出して、撤退派と話し合いになって、無駄に時間を潰すことになったから、今回のように大きな被害が出た。

 その責任を取ってもらうことになるだろう。ついでに俺の分の責任も押し付けておこう。原因の一端は俺にもあるかもしれないし。


『リーダー。責任追及もいいが、これからどうするのかを決めてくれ』


 と、言うのはこの装甲車の運転手。確かにここからどうするかを早く決めてもらわないと。まっすぐコロニーに向かうのか、それとも中間地点にあるミュータントの集落へ一度立ち寄るのか。


「進路はこのままコロニーへ。でもスピードはもう少し上げて」

『タイヤが二本吹っ飛んでる、これ以上スピードは出せない』


 三人の犠牲で、装甲車への被害がタイヤ二つだけで済んだと考えるか。三人も犠牲を出しておいて

、無傷での撤退はできなかったのかと考えるか。あれだけの包囲を生きて突破できただけでもかなりの幸運なのだから、当然前者だろう。そう思わないとやってられない。


「そう」

「本当にすまない……俺のせいで、皆死んじまった」

「気にすんな。人間いつかは死ぬもんだ」


 謝られても、連中との付き合いはここ数日って浅い仲だし。あいつらの死に関しては何も思っちゃいない。それに俺の分まで責任を被ってもらうのだから、俺に謝る必要はないのだ。口に出したら目論見がバレてしまうので、何も言わないが。


『しかし、あの可愛い娘ちゃんも死んじゃったかぁ……本当、残念だなあ』

「それなら気にすんな。コロニーに戻ったらまた出てくるから」

『あん、どういうことだ?』


 そういえば、こいつらはアイツの事をほとんど知らないんだった。あいつが移動の最中に他の連中と話をしているところは見ていないし、俺も監視役としか説明していない。だから死んでも生きて戻ってくるってことを知らない。

 説明するには遅すぎるかもしれないが、一応話しておこう。


「俺も詳しいことは知らん。死んでも生き返ってまた現れるってことだけ覚えとけ」 


 どういう理屈かはどうでもいい。俺が支配階級への敵意を示さない限りは殺しに来ないということを確認して、それ以上の事を知りたいと思わなかったから、それ以上は聞いていない。もう少し深く知りたいとは思うが、地雷を踏みたくもないし。向こうが教えてくれる以上のことは知れない。


『……ってことは、犯して殺したらまた清い体のあの子が戻ってきて、何度でも処女を頂けるってことか! 羨ましいな、俺と変われよ!』


 ……他のやつの事はよく知らないから何ともいえないが、こいつだけは絶対に死んでたほうが良かった。それは間違いない。いくら俺でもそんな事を考えたことは一度もなかった。


「あの馬鹿は放っとくとして。これ以上スピードが出ないならまあそれでもいいわよね。あれから時間が経ってるけど、追撃はまだないし」

「これからも無いといいんだがな」


 今まで無かったからこれからも無いに決まってる、そんな考えはここ最近の人生最悪の日ランキング更新に伴って俺の頭の中からは完全に吹っ飛んだ。


「まあ、追撃が来たら今度こそお終いよ。その時は大人しく諦めましょ」

「俺はまだ死にたくないんだけどなあ」


 あまりの潔さに苦笑いしながら、そう返事をする。まあ、こいつの言うとおりこれほどの時間追撃に来ないのなら、敵も諦めてるって考えてもいいかもしれない。そうでなきゃとっくに追撃されてるはず。まあ、ひょっとすると敵はこっちの車に搭載してるセンサーよりも性能の良いセンサーを持ってて、それでこっちの探知範囲外から追跡してコロニーを探してるって可能性もあるが。


「……」


 そしてそれから話題が途切れ、沈黙が始まった。なんだか気まずい。


「昨日までは、こんな風に話が途切れることもなかったのにね」

「……」


 その言葉で、生き残った一人がさらに肩を落とす。その言葉がなくても反省はしていただし、そろそろフォローしてやってもいいだろう。それにこんな空気には慣れてないし、耐えられない。

 あとあまり落ち込まれて、開き直って責任転嫁でも始められたら俺の考えが台無しになる。


「仕方ないさ。こんなことになるなんて、誰も予想出来やしない」

「あんたは予想してなかったの。こんな事になるっていうのは」

「最近は予想外の事が起こりすぎててな。考えるのやめてるから、予想外もなにもない」


 まあ、そのせいで対策もできないんだが。代わりにどんな事が起きても驚かずに対処できるよう、心構えだけはしっかりとしている。予想が外れて固まってる時間はないしな。


「それはともかく、疲れたから休んでてもいいか」


 フォローもしたことだし、部屋に戻って本でも読んで暇をつぶそう。確か何冊かあったはずだ。他に人が居れば、話をして時間を潰せたんだが……ああ、でもこんなに揺れが酷いと読んでたら酔いそうだ。


「いい提案ね……死んだ人の事をいつまでも言ってても仕方がないし、そうしましょうか」

「いや、話を続けたいなら続ければいいぞ」


 寝室にまで重い雰囲気を持ち込まれたくはない。寝れば雰囲気も何も関係ないが、一日中寝続けるのもかえって疲れるし。だから本を読もうと思ったんだし、本を読んでる最中に隣で辛気臭い雰囲気を醸しだされては集中できない。


「もういいわよ。私も休みたいわ。あんたも落ち込むのは帰ってからでもいいでしょ」

「本当に、もういいのか?」

「いいって言ってるのよ。そんなに罰がほしいなら、運転手の代わりでもしてきなさい。二人交代でも疲れてるはずだから」


 何だかんだと言って、話は纏まったらしい。よかった、コロニーに帰るまでずっとこのままだと思うとこっちまで気が滅入って仕方がないところだった。

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