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鋼鉄の夢  -Iron Dream-  作者: からす
第二章 明日への逃避
32/116

包囲突破戦

またもや戦闘シーン。戦闘は基本的に銃撃戦です。ロボットらしい白兵戦はあまりしません。


2015/01/15改稿

 クソッタレな緊急事態の知らせがあってすぐに、俺達は全員揃ってアースの格納車両に集合して、点呼する間すら惜しいと到着した順にアースに乗り込んで準備を始める。


「システムチェックスキップ」

『スピード起動モード。起動完了』


 スピード優先で急いで機体を立ち上げがらせて、武器に弾丸を装填する。とにかく今は一秒でも惜しい。先手を打たれる前に敵をぶっ殺さないとこっちが死ぬ。しかしまったくもってついてない。なんで居心地が悪いからって逃げ込んだ先でこんな危ない目に合わないといけないのか。

 気分は最悪だが、あまり慌ててはいけない。こういう時は、落ち着きながら急がなければ。ああ、そんなのは無理だろ。矛盾してる。


『敵の数は一、二……十だ、囲まれてるから下手には動けねえな。まだ仕掛けてこないってことは、奴さんこの車を鹵獲する気だろう。好都合だ、データを送るから先にやっちまえ』


 そう言って送られてきた敵の配置図を見て、軽くめまいがした。数の優位を取られている上に、四方どころか八方を囲まれてるなんて、どう考えても手遅れだろう。どうしてこんなになるまで気が付かなかったんだ……ああ、そうか。サボってたんだな。サボってたなら納得がいく。


「サボってたな、この大馬鹿野郎」

『ひどい言いがかりだ。反応があったらアラームを鳴らすように設定してた。けどアラームが鳴った時にはもう囲まれてた』


 つまり、連中はセンサーの目があることを想定して、足並みを揃えて同時に侵入してきたと。それはつまり、敵の練度がそれなりに高いことの証明に他ならない。そして今、俺達が置かれている状況は……


「最悪極まるな」


 思わずそうぼやいた俺は悪くない。退屈な日常を求めて羽に転属してきたのに、どうしてまたこんなにも刺激の強い出来事に次々と遭遇するのか。そろそろ運が悪いの一言じゃ済ませられない事になっている。


『全ハッチ解放。降りたら弾をばらまきながら車について来い。距離があるからそこまで正確な射撃はできないはずだ』


 他人事みたいに言うが、俺達が失敗すれば自分も死ぬとわかってるはずだろうに。あいつは死ぬのを覚悟した上で言ってるのか? それともただ戦力に自信があるだけか?

 どっちにしても最悪な事態には変わりない。考えていてもこの状況が打破できるわけでもなく、ただ時間を浪費するだけなので、それについてはまた全部終わった後生きていたら聞くことにしよう。今は開いたハッチからさっさと降りて、迫り来る敵から車を守る事に集中する。


 盾を構えながらハッチから一歩外に出る。遠くで小さな光がパッと光った。そしてその直後に、アースのタックルを食らったかのような衝撃と音が装甲内に反響する。何が起きたかをすぐに理解して、未だに残る衝撃の余韻を振りきって動き出す。その後すぐに第二射が後ろでけたたましいエンジン音を上げる装甲車の表面を叩いて、火花を散らして弾かれた。


「ひぃ、こええ」


 エーヴィヒとの二度目の遭遇を思い出して、念のためにと盾を構えてて本当に良かった。でなきゃ今頃借り物の機体と一緒に腹に風穴を開けられていただろう。


 しかし。生き残ったならまず言うべきことがある。いい加減なことを言って、人を危うく殺しかけた糞野郎への文句だ。


「正確な射撃はできないって言った馬鹿は誰だ!」


 マズルフラッシュのあった方に向けて大型ライフルを適当に撃ちながら叫ぶ。距離が開いているしろくに狙っても居ない弾丸、それは奇跡でも起こらない限り当たるはずもない。

 しかし当たらない弾丸を放つことは全くの無意味でなく、もちろんちゃんと牽制の意味がある。無抵抗ならさっさと包囲の輪を絞って潰されるだけだが、抵抗の意志を見せれば少しは慎重になってくれるだろう。そうなってくれなければ困る。


『すまん俺だ』

「うるせえ馬鹿野郎! さっさと逃げろ!」

 

 あちこちから放たれる銃弾や砲弾を必死になって避けながら、ある時は防ぎながら叫ぶ。さっきからなんとか避けているが、ほとんどが近くに着弾してるせいでいつ弾に当たるかわかったものじゃない。いつまでも包囲のど真ん中に居たらその内死んでしまう。


『わかってる。今動かすから轢かれるなよ、全員着いて来い!』


 エンジンがより大きな音を上げ始め、タイヤもそれに連れゆっくりと回転数を上げて、巨大な車体を少しずつ動かし始める。動き始めれば速度が出るのもまた早い。このままぶっ壊されることもなくこの死都を抜けられればいいんだが。

 いや、それ以前に自分が死なないかどうかも心配しなきゃならない。


 装甲車が動き始めので、自分も移動を足についたローラーに切り替えて高速機動に移る。バッテリーの消費が激しいし、この重量を小さなローラーで長時間支えるとパーツの劣化も激しくなるからあまり使うことのない状態だが、命がかかっている状態で使わない理由はない。

 足のローラーが一気に回転数をトップスピードまで上げたことで、移動速度が向上。それでも装甲車の全速に追いつくまでは行かないし、おまけに蛇行走行をして回避行動を取りながらだから距離が開いていく。そして俺だけ他の機体よりも速度が早いから、少しだけ孤立している。おまけに機体の外見も違うし、周りに弾除け(味方)も居ないから狙いが集中するし、弾丸が至近距離を通って行って怖い。さっきから何発か当たってるが、盾と装甲が弾いてくれるおかげでまだ生きてる。


『足に直撃を食らった、助けてくれえ!』


 スピーカー越しに耳を叩く、聞き覚えのある声。その後に砲弾が鉄板を貫通する際に聞こえる、戦場では一番聞きたくない音が。ああ、残念だけどあいつはもう助からないんだろうな、と思いながら、振り向くこと無く前へと進む。


『一人やられたぞ!』

『足を止めるな! 振り返るな! 助けてる余裕はない!』


 動き始めてすぐなのに、運の悪いやつだ。だがそんな奴とは対照的に、俺は幸いなことに、後ろは他の羽の奴らが塊になって。前方は装甲車が弾を引き受けてくれているので、自分はシールドの無い右側へ銃弾をばらまきながら、装甲車を狙う敵を警戒しながら包囲の突破を目指すことだけに集中できる。仲間の被害は気にしないようにする。これから犠牲が増えるかもしれないし、気にしていて隙を作れば自分がやられるのだし。


 そうやって動き続けているとあっという間に正面の敵、包囲の境界線との距離が近づいて、機体の容貌がハッキリと見えるほどの距離になる。

 そして前方の敵が先行する装甲車に向けてランチャーを向けているのも、よく見える。機銃の弾や狙撃砲くらいじゃびくともしない装甲でも、ロケット弾を受けたらさすがに壊れるかもしれない。


 さっきまでは適当に蛇行移動しながら右側へとばらまいていた弾丸を、今度はしっかりと前方の敵アースの胴を狙って撃つ。その弾丸は貫通こそしなかったが、狙い通りに敵のアースに着弾。装甲に弾かれ跳弾の火花を散らして、明後日の方向へと飛んで行く。だがそれでいい。敵の破壊が目的じゃない。


「そっちじゃない、こっちを見ろ!」


 もう一発、もう一発と撃ち込んで注意を強引に自分へと引っ張る。装甲車だけはなんとしても破壊されるわけにはいかない。そして相手は目論見通り、こちらへとランチャーの発射口を向ける。その間に、装甲車はまんまとその横を突破して包囲を抜け、自分はもう相手の目の前まで近寄ることができた。


「邪魔だ退け!」


 左手で抜いた実体ブレードをアースのモノアイに叩き付けて、頭部を真っ二つにしながら横を走り抜ける。これで自分も包囲を突破。振り向きながらローラーを操作してバック走行に移行、そのまま敵に向って盾を構え、離脱時と同じように弾をばらまきながら、装甲車についていくが、もう自分には弾は飛んでこない。狙いは完全に包囲の内側へ向けられている。


『おい新人! 包囲を抜けた、速度を落とすから早く乗れ!』

「了解!」


 俺から見たら後方で少し速度を落としながら走る装甲車。その後部ハッチが開いたので、ランチャーの弾丸だけ全部ばらまいてから機体の向きを変え、そのままハッチから装甲車に乗り込む。

 乗り込んだら今度は外に向かって機関砲を構えて砲弾を放ち、味方の突破を支援する。


 一体この地獄から何人生きて帰れるか。とりあえず俺は生き残れたが、他の連中はどうなることやら。

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