いざ、外へ
ハエが止まるような展開の遅さで読者の皆様方を焦らして申し訳ありません
いよいよ第二章スタートです
2014/10/22追記
ちょっとしたお知らせがあります。あとがきを御覧ください
アースを何機も収納する大型のコンテナ車両と、居住区として機能する車両をけん引する輸送車が、遠くまで響きそうな低い排気音と、燃料を燃やした結果発生した汚染された空気をまき散らしながら死の大地外とコロニー内を区切る巨大なゲートへと近づいていく。
車中の窓から眺める景色は、いつも見る景色とほとんど変わりない。変わっているところとえばそこらに漂う靄の濃さ位なもの。今日は少し東向きの風があるせいでいつもよりかは遠くまで見渡せるが、変化はたったそれだけ。それ以外は建物も、人が居ない町並みも、何もかもが変わらない。
しかしその景色もすぐに一変し、一瞬だけ鉄の色の壁が視界を過ったらそこはもうどこまでも荒れた大地が続く汚れた世界が広がる。秩序も何もなく、スカベンジャーの権力も上の支配も及ばない世界。適応種にとっては自由な世界だが、俺達旧人類からすれば掃き溜め以下。ただの地獄。それが生存不能地域。
今から俺たちはそんな地獄に繰り出して何をするかと言えば、昔の戦争でぶっ壊された都市に装甲車で突っ込んで、アースで降りてぶっ壊れた建物に潜り込む。それから物資が残っていないかを漁る。漁って何か役立つものがあれば儲けもの。戦争を終えて百年以上経ってもまだ動くような電化製品があれば最高。ぶっ壊れててもパーツを取れればベリーグッド。そんな感じで手当たり次第持って帰るのが羽のお仕事、というのが愛すべきお隣のカニバリストの説明。なんとも適当かつわかりやすい説明だ。
さて、ここで支配階級の影響下から抜けたばかりの、支配階級の犬の様子を見てみる。飼い主の手から離れた犬は、一体どんな反応をするのか。そう思って顔を窓の外に向けたまま、横目でエーヴィヒの顔を見てやる。
「外に出るのは久しぶりですね」
なんともつまらないことに、非常に落ち着いていた。しかも外に出るのは初めてじゃないようだし。こいつは本当によくわからん。年齢も、性格も、過去さえも確かな情報が存在しない。確かなのは殺しても生き返る、支配階級に飼われている殺し屋で、俺を監視、可能なら殺害するということだけ。
なんとも不気味だが、だからこそ底を知りたいような、知りたくないような。
そんな事を考えながら黙って見ていると、こちらが見ていることに気付かれた。
「何ですか?」
そのまま黙っているのも気まずいので、一つ質問することにする。
「……お前の機体、探索用じゃなく競技用だろ。外で使って大丈夫なのか」
とっさに出た質問にしては、良い質問だったと思う。競技用は確か、外地探索も想定して作られている量産品と違って稼働時間が短かったはず。燃費を犠牲にして性能を高めてあるという情報は、スカベンジャーの中ではよく知れている情報だ。問題はそれだけじゃない。外は内部と違って放射能汚染がひどい、コロニー内での活動しか想定していないのなら、放射能汚染の対策は施していないかもしれない。
それを探索に持ち出して、他の連中と足並みを揃えられるのか。稼働時間一杯を探索に注ぎ込むのなら、一機だけ先に充電に帰らなければならないことになる。もしくは一人だけ体調を崩して先に離脱することになるかもしれない。それで他のやつの迷惑にならないのかと。
「機体に大きな損傷がない限り問題ありません。調整してありますから」
そんなに簡単に調整できるものなのか。いや、調整の必要すら無く外で長い時間動かせて殺し合いにも十分使える性能の俺の――正確には借り物だが――アースに比べればまだ普通か。今のような環境で殺しあうことを想定して作ってくれた昔の人には感謝しなければ。
いやそもそも今の世界を作ったのは昔の連中だし、感謝はせずに怒るべきか。しかし死人に怒りをぶつけても仕方ないし。このクソッタレな世界に怒ったり悲しんだりせず、現状をありのままに受け入れるしかない。
「心配してくれてるんですか? だとしたら、嬉しいです」
「はいはい、そうですねーその通りですよ―」
ほんのり赤く染まった頬に両手を当て、伏し目がちにしてこちらを見るエーヴィヒの嫌がらせを受け流す。車中の視線が彼女と俺に一気に向く。ちなみに俺への視線に込められた意図は嫉妬やら羨望やら色々。しかしもう気にしない。気になるが気にしないように努力する。狭い車内だからこういう話があればすぐにこうなるし、それを見越してこいつも似たようなことをこれからも仕掛けてくるのは予想できる。だが、同じようなことが何度もあれば皆も飽きてくるだろう。それまでの我慢だ。
「こんなにいい女が隣に住んでるのに手出ししないと思ったら、あなたやっぱりそういう趣味だったの」
そこでアンジーからのひどい誤解を招きそうな発言。本当にそんな趣味はないので、周りに誤解されない内に撤回を求めておく。コロニーの中にはすでに変な噂が蔓延しているから、すでに手遅れかもしれないが。
「いいかアンジー。俺はそういう趣味じゃないし、お前に手出ししないのはお前の主義の問題。カニバリストなんて金を払われてもお断りだ」
「じゃあその娘に頼まれたら?」
「断るに決まってるだろ馬鹿かお前は」
「残念です」
眉間に手を当て、呆れながら答える。頼まれたからってホイホイ抱いたら殺されるに決まってる。絶対に殺されないという前提があるなら考えなくもないが、それは言えない。既にズタボロにされた名誉を気にしているわけではない、それを口にしたらエーヴィヒが誘ってくるのが容易に想像できるからだ。
「……ふーん、まあいいんじゃないかしら? その娘の歳でも子供は産めるだろうし。人口増加に貢献するなら誰も文句は言わないわよ」
「人の話聞けよ」
「嫉妬してるわけじゃないわよ」
それは嫉妬してる奴が言うセリフだ。嫉妬してない奴はそんな事を言わない。嫉妬してなかったら食い物を見るような目でエーヴィヒを睨んだりしない。
「おい、誰かこいつをどうにかしてくれ」
事態を笑ったり歯を食いしばったりしながら見守る他の羽に助けを求める。俺一人じゃどうしようもなくても、普段接している時間が長いこいつらならなんとかできるだろう。そんな都合のいい幻想を信じてみるが……
「モテる男は敵だ」
「やー、新人が入るとやっぱ新鮮でいいなぁ。クソつまらん旅も面白くなりそうだ」
「どこでそんな可愛い娘と知り合った! 言え! 俺にも紹介しろ!」
残念。どうやらこの場に俺の味方は居ないらしい。どうやらまた諦めるしかないようだ。この反応も、きっとしばらく耐えれば普通のものになるはず。それまでは、やはり我慢。ここ最近は我慢しなければならないことがどうも増えてきたが、いずれは我慢しなくてもよくなる。だから、それまでの我慢。
『お客さんよ、あんまり騒ぐと切り離すぜ』
耐えるしか無い、と思っていたら遠く離れた運転席に味方が居た。この居住区にあたる車両に味方が居ないのは悲しいが、それでも一人でも自分に友好的な人間が居るというのはとても心強い。安心感がある。
『あと新入りの男の方。話は聞いてる。俺は車長のマーク、同じ趣味を持つ者同士仲良くしよう。ヤる時には俺も混ぜてくれ』
ああ、前言は撤回しなければならないようだ。どうも羽に転属したのは誤った判断だったかもしれない。まさか羽の連中がこれほどまでに、常識から外れた奴ばかりだとは思わなかった。いや考えてもみれば、この時代にまともと呼べる奴は居るはずがないし、ここに居るのはわざわざ安全な生活圏から出て危険な汚染地帯に出て行く飛び級にいかれた奴らだ。この程度のことは、想定しておくべきだった。
ロリコンだということはこいつらの中じゃもう確定してるようだし、これは飽きられても俺への扱いは変わらないかもしれない。
大人しく諦めよう。
本当は一章で10万字使い切りたかった。しかし流石に私も書いてて引き伸ばしもそろそろ限界と感じ、第二章スタートに踏み切りましたとさ。
2014/10/22追記
本作品の一章を改稿しました。伏線を追加してたりはしないので、読み直さなくても問題はありませんが、できれば読んでいただければ嬉しいです。
改稿前の物も『鋼鉄の夢(未改稿版)』として比較用に新規投稿してあります。時間があれば、是非どこがどう変わったのかを比較してみてください。
2015・01・16追記
第二章も改稿しました。一部例外を除き、前回の改稿と同じくそれほど大きな変化はございません。例外の部分は、変更点を前書きに書きます。




