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鋼鉄の夢  -Iron Dream-  作者: からす
第一章 新たな日常
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会話

またせておいて短いです。すんません。次回はもっと長くなる予定です。少なくとも、これよりは。

「クロードさん。ところで私のアースはどうしました」


 頭の住む場所から帰る道中。エーヴィヒから突然そんな事を聞かれた。そういえば名前を呼ばれたのは初めてな気がする。そういえば名前を教えてなかったし、名前で呼ばない、というよりは呼べなかったのか。


「家のガレージにあるぞ」


 隠すようなことでもないので正直に答えてやる。ただしあれをどうするかはもう決めてある。こいつが原因で飛んでいった金を取り戻すために、修理屋へ売り払うつもりだ。支配階級の作った機体で、しかも性能も普通の量産品より遥かに高い。希少価値と実用的な価値。機体に少し穴が空いているとはいえ、性能を損なうほどじゃない。きっと良い値段で売れることだろう。


「では、それを」


 返してください。と言葉が続くのだろうが、それを遮って発言する。


「返すつもりはないぞ」

「……そうですか」

「ひどい出費があったからな。その穴を埋めるのに使わせてもらう」


 普通の7倍の修理費と、砲弾をはじき返した時に折れたブレードが一本。この前の決闘の時に折ったブレードがさらに二本。あとは弾薬費が少々。纏めたら札束一個が余裕で飛んで行く額になる。出費の原因は元を辿ればすべてこいつなので、その一部は文字通りこいつの身体を売って埋めさせてもらったが、それでもまだ足りない。その足りない分を、戦利品を使って穴埋めしようという発想に行き着くのは自然なことだ。

 もし返してくれというのなら、黒字になる位の額を要求してやるつもりだが、さて。どう出てくるか。


「ではその機体は差し上げます。売るなり捨てるなりご自由にどうぞ。戻れば機体の予備もありますから」


 やはり一機くらいは予備があるか。これはコロシアムに出場して優勝して、無汚染地帯の居住権を獲得するという夢は完全に諦めるべきだな。命をドブに捨てるよりは、このまま腐って死んでいくほうがマシだ。


「くれぐれも、私が取ってくる間に妙なことを考えないように」

「帰ってそのまま永久に引きこもってくれれば助かるんだが」


 そうすればいつもの退屈な生活に戻れて、こいつも自分の仕事がなくなってのんびり過ごせる。お互いに得しか無いはずだ。もしこいつが退屈を嫌うのなら、互いに得しか無いというのは嘘になるが。


「あなたが嫌がることをするのが私の仕事です」

「ガキのくせに性格悪いな」

「子供だと思うのなら、是非そう思っていてください」


 子供だと思うなら、か。そういえば頭とも知り合いだったみたいだし、もしかすると見た目通りの年齢じゃないのかもしれない。いやむしろその可能性のほうが高い。入れ物が死んでも中身は生き続けるのだから、いくつも肉体を用意して、入れ物が寿命を迎える度に新たな若い入れ物に中身を移し替えればいつまでも生き続けられる。しかも外見は若いまま。

 まるで風船がはじける前に書かれていたサイエンス・フィクションみたいな話だ。いや、フィクションは正しくない。今現実に自分の真横で、歩調を合わせながら進んでいるのだから、フィクションじゃなくサイエンス・ノンフィクションが正しいか。

 となるとまた気になる事が一つ。


「お前、何歳だ?」

「女性に歳を尋ねるのは失礼ですよ」

「正論だが、人の命を狙うやつに失礼とは言われたくないな」


 歳を気にするということは、やはり中身はそれなりの年齢なんだろう。もし見た目通りの中身なら年齢を気にするはずもない。勝手な予想にぎないが、中身は見た目の三倍以上の歳は生きてるんじゃないだろうか。


「私は貴方達と同じ仕事をしているだけです。監視対象、殺害対象が違うだけで、私はあなた方と同じ。ただ役割をこなすことに、失礼も何もないでしょう」

「そうかい」


 それ以降会話が途切れ、二人で黙って並んで歩く。遠い工場地帯から流れてくる騒音が足音をかき消してくれる。さっきまで会話をしていたせいで、突然訪れた沈黙を気まずく感じる。

 さらにそれからしばらく歩いて、区画の東西南北に道路が走る交差点に到着すると、エーヴィヒが突然足を止めて、俺の家とは別の方向に向いた。


「今日はここでお別れです。また明日、お会いしましょう」


 さっき話をしていた予備の機体を取りに行くんだろう。たった一人で、ここから支配階級の住む無汚染地帯まで、徒歩でどれだけ歩くのやら。


「俺は会いたくないけどな」


 そして、俺の言葉を無視して彼女は進みだす。その後ろ姿を一分間ほど見続けていると、早速どこからともなく銃声が聞こえて彼女が地面に倒れた。その後ガスマスクを付けた誰かがどこからともなく現れて、倒れたエーヴィヒを担いでどこかへ連れ去っていった。何のために連れ去るかは、まあ今更言うまでもないだろう。


「……帰るか」


 今のは見なかったことにして、自分の家に続く道を歩き始める。家に帰ったらアンジーに羽として外で活動するなら何が必要かを聞いて、市場まで行って足りないものを買い揃えて。修理屋に機体を売り払って。それで今日は終わりになるか。

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