決闘
ロボ対ロボの死闘……これが書きたかった
トラックに乗って水精製工場前に到着すると、人がゴミ捨場のゴミのように密集して蠢き、工場の騒音に勝るとも劣らない大音量で自分たちの主張を叫んでいた。叫んでる連中の顔が違うだけで、いつも見慣れた光景だ。
「今日もたくさん集まってるなー、仕事のしがいがある」
「やりすぎるなよ。工場責任者に怒られる」
「さっさと首謀者吊るしあげて終わらせて帰ろうぜ」
荷台の上から暴徒を見たスカベンジャー達の反応は三者三様。ある者はただ殺したいばかり。またある者は仕事に対し真剣に。別の者は早く帰りたいばかり。発言からそれぞれの性格が見て取れる。ちなみに俺はさっさと帰りたいので、三人目と同じような思いだ。
トラックが完全に停車したので、全員揃って荷台から立ち上がる。そして荷台の一番後ろに座っていた奴がスロープをわざと乱暴に蹴り落として、大きな音を立てる。金属と金属が衝突する甲高い音と、蹴り飛ばされたスロープが地面にあたって跳ねる音。わめき声の中でも暴徒たちにハッキリと聞こえただろうその音は、彼らの視線を一瞬でトラックに集めた。それが合図となって、他のトラックからもスロープが蹴り落とされる。
激しい主張の声が徐々に収まり、それに変わってざわめきが広がりだす。ハッキリと彼らの言っていることが聞こえる位にざわめきが大きくなると、今度は号令がかかる。
『総員降車!』
チーフからの号令が車載スピーカーから流れ、その命令に従いトラックから順番に降りていき、整列してそれぞれの武器を構える。相手から見たらかなりの威圧感だろう。だがこんな馬鹿なことをするのが悪い。
次第にざわめきも収まり、静かになっていく。このまま大人しく解散してくれれば楽でいいんだが、そうはいかないのがお決まりのパターン。
静かになった群衆の中から、銃を持った男が一人出てくる。あいつが今回のサクラだろう。
「ーーーー!!」
何かを叫んでいるようだがよく聞き取れなかった。そしてその後に銃を構えて発砲。いつもお決まりのパターンだ。拳銃弾のような豆鉄砲じゃアースはびくともしないが、発砲したという事実がまずい。殺意をもって抵抗したということで、これはもうデモ隊ではなく、暴徒すら通り越し、晴れてテロリストに格上げされてしまったというわけだ。
発砲した男が殴り飛ばされるが、あれは演技。殴られて派手に吹っ飛んだように見えるが、あれは腕の動きに合わせて自分から飛んでいるのだ。金をもらい最初に銃を撃って、殴られて死んだフリをして、残る暴徒の処理をより円滑にするための演技。いい仕事をする。
『発砲を確認。目の前の連中をテロリストと認定する。撃て』
「あいさー」
返事をしたが、俺は銃を向けるだけで撃たない。弾代は自腹だし、今朝大金が飛んでいったから節約できる分は節約しておきたいから。それに俺が撃たなくても隣のやつが高笑いしながら連射してるし。まあ撃つ撃たないは自由なので、お互いに何も言わない。
暴徒達は悲鳴を上げ、泡を食ったように逃げ惑うが、いくら逃げても銃弾からは逃れられないのだから無駄な逃走だ。アースに近い最前列に居た奴から順番に死んでいく。最前列に居た奴が全滅して死体の山ができるまでそれほどの時間はかからず、すぐに射撃が切り上げられる。
『暴徒達に警告だ。これから私が行う命令に従わなければ皆殺しにする』
一度殺しすぎて頭からお叱りを受けて以来、一度銃撃を止めて警告するのが暗黙の了解として広まっている。一度撃ってからわざわざこういた脅しめいた前置きの上で命令をするのは、「従わないと本当に撃たれる」という意識を刷り込むためだ。一部の者はストレス発散のために撃ってたりもするが。
「最初に警告すりゃいいのに、と思うのは俺だけか?」
新人なのか、まだ機体の汚れが目立たないアースが発したつぶやきをマイクが拾った。暗黙の了解を知らないからこういう事を言うのだろう。俺も最初はそうだった。一々人を殺すのにも罪悪感を感じていたあの頃は、本当に純粋だった。あの頃の気持はもう二度と取り戻せないんだろう。
そしてこの新人も、きっと今の心を煤で真っ黒に汚して俺と同じようになるのだろう。
「いいんだよこれで。こうやって沢山殺しとけばしばらく暴動が起きないから」
「……それもそうか」
『今から一分以内に今回の暴動の主導者を出せ。そうすればこれで終わりにしてやる』
一分も猶予を与えるとは今日のチーフはずいぶんと優しい。殺し過ぎも良くないが、優しすぎるのもどうかと思う。
そして一分もしない内に警告に従った連中が、主導者らしき男を連れて人混みの中から現れる。男は精一杯抵抗しているようだが、何人もの人間に拘束されていては逃げるのはムリだろう。そのままチーフの前に押し出され、跪かされる。
『無駄に治安を乱し、工場の生産を止めた罪は重い』
情を一切含まない冷徹な声で罪状が告げられ、必死の形相で弁明を図る男の前で鉄製のブレードがゆっくり振りかぶられる。まるで旧世界より昔にあった断頭台のように、刃が少しずつ上がっていき、それが頂点に達したところで一度停止する。
『死刑だ』
そのブレードは死刑宣告と共に振り下ろされて、ひざまずく男の身体を二つに裂いた。いつも通りのあっけなく、そして血なまぐさい幕引きだが、何事も変化がないのが一番だ。あとは生き残った連中に掃除をさせて業務を再開させれば、また明日からいつも通りの日常に戻る。
いつもならそうなるはずだった。
しかし今回に限ってはそうはいかないようだ。人混みが再びざわめきだしたと思うと、それが二つに割れて谷のようになり、間から一機のアースが堂々と歩を進めてきた。それも量産機じゃなく、俺を二度も襲った因縁の赤いアース。瞬時に膝を落とし、盾を構え、二十ミリ機関砲の照準を定める。他の奴らは状況が掴めていないようだが、それでもあのアースの目的が同じだということはわかる。しかしあの機体のパイロットは潰したはずだが、中身を入れ替えたのだろうか。
そう思った直後に、スピーカーからそこそこの音量で聞き覚えのある声が流れる。
『聞こえますか。スカベンジャーの皆さん』
どういう事か知らないが、中身は変わっていないらしい。別人と思いたいが、いくらなんでも昼間に聞いたばかりの声を忘れるわけがない。
『私はそこの一体だけ外見の違うアースに用がありますので、手を出さなければあなた方に危害を加えるつもりはございません』
「……ああ、今日はなんてクソッタレな日だ」
昼間から殺すと脅されるし、夕方には修理費で金をむしり取られるし、夜には殺したはずのガキが生き返って俺に用があるなんて言ってきやがる。今まで生きてきた中で最高に最悪な日だ。しかもわざわざ群衆の中から出てくるってことは、この暴動はこいつが仕組んだのか? 俺一人のために? ……そうだとしても、そうでなくとも。どちらにせよ面倒なことをしてくれる。
「あれが噂のやつか」
「そうだよ、あいつが上の犬だ。クソッタレなことにどうも熱狂的な俺のファンらしい」
命を狙うほどに好かれてる、というわけじゃない。単に命令に従って行動しているだけなんだろう。俺達と同じように、ただ自分の仕事をこなしているだけ。殺されても殺そうとしてくる。まるで怪物だ。
恐ろしいが、同時に怒りをぶつける相手が再び現れてくれたおかげで気が昂ぶる。だが怒りに飲まれてすぐには行動せず、まずは警戒を最大限に引き揚げて様子を見る。
「……そうか。俺達は手を出さんからな。上と関わってもろくな事がない」
「薄情だな。まあ気持ちはわかる」
実際一度関わったからこうして厄介な事になってるのだし。こいつらも俺の苦労がわかるだけに、面倒事に巻き込まれたくはないだろう。立場が逆なら俺だってそうしてたはずだ。
『まあ頑張れ。俺達は見守っててやる』
「おう」
俺以外の皆が後ろに下がり、観客となる。そして向こうの赤い機体は死体の山を踏み越えてさらに赤くなり、地獄からの使者を思わせるほど禍々しい色に染まる。だが、どれだけ外の皮が禍々しくとも、どれだけ高性能な鎧に身を包もうとも中身は小さな子供。撃てば死ぬ人間。
そして俺にも古いとはいえ現行の量産品よりもずっと性能の良いアースがある。前と違って逃げ場はなし、だがハンデもなしの一騎打ち。望んでも居ない散財をさせられた怒りを存分にぶつけてやる。
『こんばんは。宣言通り殺しに来ました』
機関砲と盾を構えて出方を伺う俺に対抗して、向こうも大口径のライフルと大型のブレードを構えて対峙する。
「どういうトリックかは知らんが、今度こそ息の根を止めてやるよ! このクソガキが!」
互いに開戦の口上を述べ終わった直後、彼女のライフルと俺の機関砲が同時に火を噴く。彼女の放ったライフルはシールドに弾かれ、こちらの機関砲は相変わらずデタラメな機動力で避けられる。機動性はこちらより上で、やはり思った通り不意打ちでない限り機関砲は当たらない。となれば持っていても無駄なだけ。
「パージ!」
音声操作でデッドウェイトとなる物はすぐに切り捨てて転がり、盾の防御範囲外となる側面に回りこんでくるアースからの銃撃をかわす。そして起きてすぐに、盾を向けながら機銃を横になぎ払うように撃つ。対人用なので当たってもダメージにはならないが、頭部センサーに直撃すれば目を潰せる。目を潰せば自慢の機動性能も十分に活かせない。
『その銃、鬱陶しいですね』
そんな甘い考えを見越したように、弾幕に一切怯まず突っ込んできたアースはあっという間に距離を詰めて、いつの間にか抜いていたブレードで機銃を切り落とし、返す刀で胴を狙ってきた。斬り殺されてはたまらないので、シールドを構えたまま前進して体当りして、切られる前に突き飛ばす。パワーと重量はこちらの方が上だったようだ。その際に運良く相手の持っていた銃も吹き飛び、観戦している外野から大きな歓声が上がる。
一瞬の判断だったが、迷っていてはあの銃と同じく真っ二つにされていたかもしれない。冷や汗をかきながら呼吸を整えて、相手に話しかける。会話で動揺を誘えればいいが、まあ無理だろうから落ち着くまでの時間を稼げれば。
「いい切れ味だな、そのブレード。何か細工でもしてあるのか」
話をしながら一度下がり、近くに居た観客のアースからブレードを拝借する。抗議されたが、奥の手は最後まで隠しておきたいので仕方がない。壊れたら後で新品を買ってやるからと言って、借り物のブレードを構える。
『これから死ぬのに知る必要が?』
「ハン、ガキなんかに殺されてたまるかよ」
相手もこっちも銃を持っておらず、相手にはやたらと切れ味の良いブレードが一本。腕には俺のレーザーブレードみたいなものは何もついていないから、武装はきっとそれだけ。対してこちらには役に立つかわからないシールドと、実体ブレード一本レーザーブレード一本。最初に機体性能は同じと言ったが、相手のほうがスピードは格段に上。しかしこっちには隠してある手と、盾がある点で優っている。技量の点はわからない。状況は五分、だろうか。
大きく息を吸って、覚悟を決める。
「野郎ぶっ殺してやらあぁァァァあああ!!」
『うりゃああああ!!』
お互いに叫び声を上げながら、ブレードを叩きつけ合う。そのまま押し合いになるが、サイズ、重量、パワー共にこちらの方が大きく、少しだけ相手が押される。このまま押し切らせてくれれば楽に済むのだが、そうはいかず。うまく受け方をずらされて、シールドのない右側に抜けられる。現行の量産品ならすぐには対応できずにこのままやられていただろうが、そこは戦前の高性能機体。人間の動きをラグなしに、かつ正確にトレースできる追従能力で、切られる前に相手を蹴り飛ばせた。そのまま姿勢を戻して蹴り飛ばした相手にブレードを叩きつけるように振り下ろすが、すぐに起き上がって逃げられた。
「……クソがあ!」
仕留め損ねたと焦りが募る。だが焦っては相手の思うつぼだと頭を冷やして状況を分析する。アースは戦闘用の機械だ、ちょいと蹴ったくらいじゃびくともしない。中身も一回殺してもピンピンして殺しにかかってくるような奴だし、ダメージは期待できない。お次は叩きつけあったブレードを見てみるが、まあなんとも。相手の武器がインチキなのか、借りたブレードが不良品なのか。叩きつけたところが刀身の半分まで切れ込みが入っている。これじゃシールドで受けるのは厳しいか。
相手の攻撃を一切受けずに、一方的に相手を殺す……無茶な話だ。対アースの戦闘訓練もやってないことはないが、そこまで優秀なわけじゃないからいつも被弾してたし。格闘戦もそこまで得意じゃない。だが殺らなきゃ殺られる。
「なら、やるしかねえ……」
シールドをつけた左側を前にし、実体剣を握った右腕は後ろに伸ばす。いくら相手の動きが早くとも見えないほどじゃない、ちゃんと反応が間に合う程度のスピードだ。間合いに入ったらブレードを大きく振って叩きつけるふりをして、避けるか受けるか、あるいは突っ込んできたところを奥の手で。これで行こう。
『意外と反応が良いですね』
「褒めるくらいなら見逃してくれよ」
『申し訳ありませんがそれはできません。私も仕事なので』
そう言って、今度は一歩ずつ歩み寄る。一手失敗すれば死ぬという恐怖と緊張感で足が重い。心臓が早鐘を打つ。それに釣られるように呼吸が荒くなる。
恐怖から解放されるためには、恐怖に立ち向かって叩き伏せなければならない。殺るしかない。
相手との距離がとてつもなく長く感じられる。極度の緊張で視界が白くなっていく。敵以外の全てが消えてゆく。
一歩、また一歩と近づいていく。ほんの僅かな距離が果てしなく長く感じる。
だが一歩ずつ確実に、お互いの距離が近づいていく。果てしなく遠く感じるくせに、目の前に映る数値にはハッキリと、決して遠くない距離が表示されている。
息を一つ、大きく吸い込む。一歩踏み込む。剣を振り上げる。相手も剣を横に寝かせる。緊張が最大にまで膨れ上がる。さらに一歩。やがて訪れる、一刀一足の間合。
さらにもう一歩。
「ッ!!」
ブレードを一閃。下から打ち上げる刃と、上から叩きつける刃。二つの刃の軌道が重なり、装甲越しに激しい衝撃と衝突音が響く。その結果は、もちろんこちらの剣が折れた。それはそうだ、半分まで断ち切られた剣で打ち合えばこうもなる。当然これは想定内。
こちらの剣を断ち切った剣は一度動きを止め、俺をアースごと斬り殺そうと、打ち上げられる時と全く同じ軌道をなぞって振り下ろされる。
その刃が自身に当たるよりも前に、折れた剣を手放し。ブレードの攻撃範囲からさらに一歩踏み込み相手に体当たりを仕掛け、左手を装甲の一番薄い脇腹へ当て、切り札を使う。
『何を!』
「このまま、死ねえ!」
装甲が焼ける音が聞こえて、一度相手の機体が跳ねた。それを突き飛ばして無理矢理に引き剥がすと、制御する者の命が絶えた機体は、人の死体と同じように力を失って倒れた。
「……やったか」
地面に横たわる赤い機体。片手にあの異常な切れ味のブレードが握られ、もう片方の手にはアース基準だが小さなナイフのような刃物が握られていて、抱きつかれたところで背中を刺そうとしていたのが見て取れる。手間取っていれば死んでたかもしれない。だが、もう動く気配はないので少しだけ安心し、脱力する。
『ウオオオォォォォ!!』
「へあ!?」
脱力した所に突然響いた歓声に驚き、情けない声が出てしまった。
「おめでとう!」
「よく勝った!!」
「やるじゃねえかおい!」
次々と寄ってきたギャラリーの突撃を受けて、装甲がガンガンと喧しく鳴りまくる。悪意がなくても鉄と鉄が擦れたら傷がつく、新品同然の機体だし、借り物だし、おまけに無傷で勝てた機体をできれば汚したくないのだ。
「やめろ馬鹿! 傷がつくだろ!」
寄ってくるアースの波を一機ずつ馬力の差で引き剥がし。なんとか全員を押しのけることに成功した。娯楽が少ないからこういうアクシデントに興奮するのはわかるが、いくらなんでも興奮しすぎじゃないだろうか。
「はぁ……」
いつも通り暴徒の鎮圧をしに来ただけなのに、どうしてこうなったのやら。まあ一先ず危機は去ったし、このクソッタレのアースを家に持って帰ってバラして、中身はほしがる奴に。部品は修理屋に売りつけて修理代を回収しよう。黒字にはならなくても、赤字は解消できるだろう。
全くとんだ災難だった……




