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鋼鉄の夢  -Iron Dream-  作者: からす
第一章 新たな日常
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蹂躙

ちょっとした下ネタ注意

 捜査は足が基本である。足の役割は捜査が基本である。もう少し細かいことを言うと、デモあるいは暴動の鎮圧及びその首謀者の捜査、粛清である。

 もちろん今回の件もその延長だ。調べる相手がちょっと変わっただけだが、面倒さは段違い。暴動の鎮圧ならかたっぱしからアースで殴り倒して縛り上げて、一人一人尋問して首謀者を吐かせてぶっ殺すだけで済むんだが、スカベンジャーの愉快でやさしい仲間たちを相手にそんな事をするわけにはいかない。だからものすごく面倒くさい。

 とりあえず『最近変な行動してる奴居ないか?』と、一人一人地道に聞いていくのがたった一つの方法だ。そうやって地道に聞いていけば噂が立って、それが犯人の耳に入れば必ず証拠隠滅を図る。誰だって死にたくはない。そこが最大のチャンスで、同時に最後のチャンス。証拠の隠滅を許してしまえばもう捕まえられない。だがそうならないために休暇中の羽の連中も動員した。監視と目と捜査の手を増やして、網を広くしている今なら見逃すことはない。きっとうまくいくだろう。


 ……うまくいくはずだった。


「……それがどうしてこうなった」


 調査を始めてから三日。アンジーから裏切り者を特定したという報告を受けて来てみたら、事務処理が仕事のはずの腹の奴が『何故か』競技用のアースに乗っていて。『何故か』足の連中のアースが二機、胴体を真っ二つに切断されたスクラップになって地面に転がっている。地面に水たまりを作っているのはアースのオイルかそれともパイロットの血か。

 先に向かわせた足の連中は『腹の奴なんて事務処理が仕事でアースなんて上等なもの持っちゃいないだろ。特定してアースで包囲すれば抵抗できずに投降するはずだ』とでも思って、功を焦った連中が先に仕掛けたんだろうか。

 ……もしかすると、責任を取らされる可能性もあるな。これは。


『なんで腹のやつが競技用なんて持ってんだよ! 馬鹿か! 死ね!』

『引け! ランチャーは当たらん! 引きながら弾を浴びせてやれ!』

『フハハハハ! 遅い、遅すぎる!』


 少し離れたところからカメラのズーム機能を使って眺めていたら、スクラップがもう二機追加された。完全に包囲しておいてこのザマとは全くだらしない……と思ったら、連中の武器はロケットランチャーと対人用マシンガンか。ランチャーは威力は高くても連射がきかないし発射前の隙もでかいから当てにくい。マシンガンはあたっても対人弾じゃ威力が低くて装甲が薄いところでないと致命傷は与えられない。

 対人弾は当たっても貫通しないことをいい事に、近寄ってブレードを振りぬいて、一応は鉄の塊であるはずのアースを真っ二つ。機体と武器の性能がいいのもあるだろうが、あの動きは裏切り者ながらセンスがいい。殺すのが勿体無いくらいだ。


 まあ、殺すけどな。裏切り者には死を。それが(かしら)の命令だし、あいつに俺への責任の一切を押し付けて殺せば命令遂行と責任逃れができて一石二鳥。できれば命乞いをする奴からマスクを剥ぎとって外に放り出して、苦しんで死ぬ様子を眺めてやりたいと思ってたんだが。アースに乗ってるんじゃ引きずり出すのも面倒だ。


「完全に調子に乗ってるな」

「対人弾だからあたっても死なないだけなのにねぇ……これ以上被害が出る前に殺っちゃいましょう」

「オウ。殺っちまおう」


 家に引きこもられた時に家ごと蜂の巣にするつもりで持ってきた、両肩に背負った20mm連装機関砲2基4門。片膝をつき、背中から空に突き出るように伸びた砲身を掴んで下ろして砲の角度を水平にすると、ロックがかかる。そのまま砲身から下に突き出るグリップを握る。すると目の前のカメラに表示される映像に、予測弾道とその誤差、目標との距離が追加された。まあ連射するもんだし、多少の誤差は気にしない。


「吹っ飛びな!」


 ということで、2人並んで仲良く発射。誤射を気にする必要はない、誤射されて怒る仲間はもう死んでるし。死体が文句を言うわけがないので、遠慮なく一門につき秒間一発。四門装備のアースが二機で、秒間八発のレートで発射される徹甲弾を浴びせてやる。ドコドコと腹に響く心地よい重低音と、相手の手の届かないところから一方的に撃ち殺すというシチュエーションに思わず股ぐらがいきり立つ。つい昨日逆のシチュエーションを味わったばかりなので、より一層心地よい。思わずイッちまいそうになる……うっ……ふぅ。早すぎるぜ……

 

 とりあえず、十秒間ほど掃射をしてから発砲を止める。着弾の衝撃で舞い上がった砂煙で敵の機体が見えないが、煙幕の向こう側で何かが動く様子もない。油断なく機関銃を構えたまま、煙幕が収まるのを待つ。

 しばらく根気よく待って煙が晴れたら、そこには跡形もなく破壊された競技用アースの破片と中身とが混ざった物が飛び散っていた。慣れてるから気にしない。


「ヒュー……ミンチよりひでぇよ」

「あれじゃいくらなんでも食べらんないわね。勿体無い」


 隣で危険な発言をするお姉さんには触れないでおく。いつものことだし。最初は人肉なんて悪趣味なもの食ってるから髪が白いんじゃないかと思ったりもしたが、何年も付き合ってれば慣れる。食べきれないからと人肉料理をおすそ分けに来るのは本当にやめてもらいたいが。


「ずいぶんあっさり終わったわね。もう少し抵抗するかと思ったのに」

「足を四人も殺してどこがあっさりだ……十分抵抗してるだろ。それに、いくら競技用でも20mm砲の掃射を食らったらこんなもんだ」


 いくら撃たれても壊れない重防御と、高い機動力を両立させる。なんて戦前のフィクションじゃあるまいし。そんなもんがあったらとっくの昔に発掘されて話題になってるはずだ。


「いやー、競技用なら徹甲弾にも耐えてくれるかなってね」

「バカ言え。耐えられたら俺達もあそこで転がってる連中の仲間入りしてたぞ」

 

 あの性能で、あの威力のブレード。おまけに20mm弾をものともしない装甲を持つ、さっき言ったフィクションの中に出てくるような化け物と殺し合いになれば、俺達の勝ちはまずなかった。


「私はそれでも良かったわよ。どうせ生きてても病気で苦しんで、やせ細りながらじわじわ死んでいくだけだし。それよりは戦ってパーっと死んだほうが楽でしょう。そう思わない?」

「……俺はそうは思わんな」


 アンジーの考えも一理ある。だが頭という例もある。あれほど元気に長生きするのは極めて稀な例だが、できればアレくらい生きたい。まあその前に死ぬだろうが。


「そういう考えもあるってことよ。それじゃ、私は帰るわ」

「あいあい。おつかれさん。俺は(かしら)に報告してくる」


 その後は街の工場に行って、新しいブレードを発注して。消費した弾薬を補充して。この前買った合成食料の消費期限もそろそろ迫ってるし、また補充しとく必要がある。ああ、そういえば水道のフィルターもだ……ついでに色々と買い物しておこう。

 あとは頭から『ご褒美』をもらわないと。ここまで働いたんだから、『やっぱり無し』ということは流石にないだろう。

前半蹂躙されるモブ。後半蹂躙する主人公

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