第111話 殴り込み
またしても短いですが。明日もまた書くので許してください。明日か、明後日で完結になります。
計画ともいえないような粗末な計画では、まず、俺とエーヴィヒだけで無汚染区域へ乗り込むことになっている。というわけで、アースに乗ったまま壁の前、無汚染区域の玄関に立つ。以前はここに立つだけで開いたのだが、今日はなぜだか開かない。
完全武装のアースが居るから警戒しているのか。そこはエーヴィヒが上手く話を通してくれていると思っていたのだが。「片側の目と腕を失ったあの人は、武器を持っていないと不安で仕方がないんです」という感じで。少し無理がある設定だったか。説得力はあると思ったんだが。
『あー、聞こえるかい? よくこちら側に来てくれる気になったね。今開ける』
失敗、という言葉が頭をよぎったが早いか、灰塵で黒く汚れた壁からスピーカーが伸びて、ご主人様の声が聞こえ、黒い壁の一部が割れる。そして、開ききれば、その先には光が差す。明るい。一歩、二歩と踏み出す。
さて、トーマスはうまくやってくれるだろうか。下手をすれば俺も死んでしまうが。
『CAUTION《警告》』
音響センサーが、反応を拾う。動体センサーも次いで。踵を鳴らして機体のローラーを操作して振り返れば、トラックが一台、猛スピードで突っ込んでくるのがモニターに映る。運転席に人は乗っておらず、無人。遠隔操作か、それともハンドルを固定して真っすぐ突っ込ませているだけか。
何にせよ、やることは変わらない。
『急いで中に入りたまえ』
予定通り、警告に従ってバックするスピードを上げ、盾を向け、ロケットランチャーを構え、門を通過後すぐに発射。噴煙が尾を引いて飛び、突っ込んでくるトラックに着弾。炸裂。その場所は、丁度閉じ行く門の間。
炎上するトラック、一瞬遅れて、轟音と共にさらに巨大な火の玉が門を覆い隠す。あの型のトラックの積載量は、確か三百。無理やり載せれば倍の六百はいくだろうか。盾とアースの装甲を隔てているのに、ビリビリと残響がする辺り、それよりもさらに多い可能性もある。
まあ、要はそれだけのでかい爆弾だ。厚さ一メートルのコンクリ壁を外からぶち壊すにはそれでも足りないが、門の間に挟んで爆破すれば、大穴が空くだろう。
爆発で舞い上がった土煙が晴れるよりも前に、もう一機、重武装のアースが無汚染区域に侵入を果たした。
有り余るスピードをドリフトで殺し、地面との摩擦音を立てて、俺の前で停止する。
『待たせたな』
「待ってない。茶番はいいから急ぐぞトーマス」
『言ってみたかったんだよ』
「敵地の真ん中でふざけるとは余裕だな。先に行くか?」
『ああ、すまんすまん。俺が悪かった。先導頼むぜ』
「それはもうすぐ来る」
新しく現れた反応。機体後部のサブカメラで確認すると、何度も見たあの赤い競技用アースが一機、こちらに接近してきていた。相変わらず足の速い機体だ。結構な距離を、あっという間に詰めてきた。
『お待たせしました。さあ、案内します。急がないと、私たちがあなたたちを殺してしまいますよ』
別に死ぬのは構わんのだが、ここまで来て失敗したら他に迷惑がかかる。いや、迷惑をかけること自体は別にいいのだ、どうせ成功しても混乱が起きるのは免れないし。
これまで散々スカベンジャーのために働いてきたのだから、今度はスカベンジャーを俺のために働かせる、ということで、まぁ。
エーヴィヒが反転し、前進。遠くへ見えるご主人様の住処に向かい、銃を向ける。明確な反逆行為。常にご主人様の側にあり続けた彼女が、今、反旗を翻した。
彼女が今までどれほどの苦しみを負って来たかは知らないし、知りたくもないが、それだけ腹に据えかねていたのだろう。
そして、忠犬と思っていた相手に手を噛まれることになったご主人様の心境は、いかなるものか。
俺がこんなザマになっている理由を一つ一つ遡ればご主人様にたどり着くのだし、意趣返しも兼ねて面を拝んで、盛大にあざ笑ってやりたいものだ。ざまあみろ、と。