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鋼鉄の夢  -Iron Dream-  作者: からす
第二章 明日への逃避
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第107話 帰還

 コロニーに帰ってからは、すぐに華々しく迎えられた。と言っても、花なんてものはなく、ただスカベンジャー達が仕事の手を止め、道の左右に並んで拍手で出迎えてくれただけだが。何も得るものはなく、失うだけの戦いをしてきた、それだけだというのに。一体ご主人様と頭は彼らにどういう説明をしたのだろう。

 まさか、コロニーの危機を叩き潰してきた英雄とでも……ありえないことは無いが、そうだとしたら迷惑な話だ。持ち上げられて注目されて、体に欠損があると広く知れ渡ったら、強盗に美味しい獲物としてマークされてしまうではないか。

 装甲車の窓からの眺めは、以前見たときよりかは、いくらか片付いていた。復興も大分進んだものだ。一時は瓦礫の山だけがあちらこちらに積み上げられて、もうこのコロニーもお終いかと思っていたものだが、案外どうにかなった。なってしまった。人間案外しぶといものだ。腕切り落としても生きてられるし。

「まさか生きて帰れるなんてなぁ……五体満足で、とはいかんかったが」

「そう言うな。死体でさえ戻れなかった奴もいるんだから」

「死人のことは口に出すな」

 今回の遠征で取るに足らないクズが六十一と、大事な仲間が一人死んだが、それを言ってしまえば、さらに前にもっと大量に死んでいる。そんなものをいちいち思い出していてはキリがないし、先に楽になった同胞たちも望まないだろう。

 この先に待つであろう苦労を考えると、俺もあちら側へ行っていた方がよかったかもしれない。などと考えてはいるが、自殺は選択肢にない。修羅場をくぐって残った命を捨てるのはもったいない、と思ってしまうからだ。最も楽な道を自ら遠ざけるとは、愚かだ。

「そうだな。すまん」

 そこから頭の待つ集会所までは一言も話さず。エンジン音だけを聞きながら、停車したら降りて。建物に入る。



 そして、面を見るなり一番に、頭とご主人様がそろって、笑顔と拍手で迎えてくれた。両方ともに、人の苦労も苦悩も知らない能天気な面で、思わず反吐がでそうになる。

 それでも実際に吐くことはせず、不快感を全力で露わにするだけで抑える。

「おかえりなさい。よく生きて戻ってこれたね」

「ああ、自分でも驚いてる。こんなありさまだが、生きていられるなんてな」

 しつこいようだが、あの作戦はまず全滅するだろうと思っていた。ただでさえ左眼を喪った状態の、極めて危険な状態での戦闘を、友人と腕一本を犠牲にするだけで勝利して。

 生きてはいるが、死体同然。動いているから死体とは違うが、これで一人外を歩けば何分であちら側へ旅立たされることやら。行きつく果ては、ゴミかカニバリストの朝飯か、昼食か、晩餐かの三択。胃の中に納まる、であれば一択だ。

 一旦思考は隅に置いて、目の前の相手に意識を向ける。一仕事済ませてきたのだから、何かしらの報酬はあって然るべきだろう。

「そんで、せっせと健気に働いてきた俺たちへのご褒美は?」

「さっさと貰うものもらって、家に帰りたくてな。ガタガタ揺れないベッドが恋しいんだ」

 やはり、こいつと俺は感覚が似ているのか。それとも戦うことしか能がない単純馬鹿だから、どうあっても考えが似るのか。どちらかは定かではない。

「労うのは当然だから、いっそ不要と。せっかちだねぇ、君たちは」

「まあそう言うな。こいつらはお前と違って先が短いんだ。何事も急ぎ足になるさ。俺は十分生きたから、急ぐと言ったら後継者探しくらいしかねえがな」

 ご主人様を頭が一言たしなめて、それもそうかと頷いた。

 この二人が仲良く並んで会話をしているのはなかなか珍しいが、スカベンジャーがよそのコロニーから殴り込みをかけられたり、逆に殴り込みをかけるほどではない。あれがあればこれもある。人生とはそういうものだと、最近悟ってしまった。

「では報酬だ。生還した両名には、特別に無汚染区への移住を許す。クロード君には、もう一つオマケをつける。エーヴィヒの所有権をあげよう。亡くした片腕の代わりに使ってくれたまえ」

「俺からの報酬は、トーマス。お前には羽と足の最高位を兼任させる」

「いらねえよ」

 それは報酬ではない。昇進の体を装った厄介ごとの押し付けだ。アンジーが死んで空位になったからって、足と兼任させるなんて、非道に過ぎる。治安維持と外地探索の兼任なんて体が二つないかぎりは不可能だろうに。

「クロードは、頭の後継者候補の第一位として指名する」

「ご褒美じゃなくて罰則の間違いじゃないかね」

「千切れるのが腕じゃなくて、その舌なら減らず口も聞かずに済んだんだがな。残念だ」

「俺以外を指名して死ね、老害」

「めんどくせえよ」

 そのめんどくさい仕事を人に押し付けようとするか、なんて奴だ。

「んで、ご主人様よ。悪いが俺はそっちへ移り住むつもりはない」

「ああ、やはりかい」

「前にも話をしただろう。お前の犬に成り下がるつもりはないと。それは今も同じだ……が、気が変われば行こう。だがエーヴィヒはもらうぞ。腕の代わりがないと不便だからな」

 ご主人様に答えると、エーヴィヒが視界の隅で笑ったように見えた。きっと気のせいだ。何度も殺された相手に引き取られて喜ぶはずがない。俺が彼女なら、喜ぶどころか怒り狂って殺しにかかる。

「クロードがいかないなら、俺も。一人で言ってもつまらんだろう」

 普段通りにふるまう。いや、普段通りを装っている。表情と声色は本当に、いつもと全く変わらない。だがほんのわずかに、声色にほつれがあった。アンジー以外では、俺にしかわからないであろう小さな演技のボロ。

 後で話を聞いてやろう。きっとこいつも無理をしている。一人になった親友を、ゼロ人にはしたくない。

「それからもう一つ。お前たち二人にはしばらく休暇を与える。ゆっくり休んで、傷を癒せ」

「たまにはいいことするじゃねえか。老害の癖に」

「ありがたくもらっとく……で、解散しても?」

「おう、もういいぞ」

「私からも、最後に一言。お疲れさま。君たちのおかげで目下最大の脅威は――」

 ご主人様が言い切る前に背を向け、マスクを片手で付け直して外へと出ていく。

 片腕しかなくても、マスクの着脱程度ならどうにかなるものだ。

「待っ、話は最後まで聞いてくれないのか」

 俺たちの人生はこの先短いのだ。無駄に浪費することはできない。だから、やりたいことをする。やりたいようにするのだ。

待 た せ た な!!

いやほんと、一か月近くお待たせしました。ほんとすみません。投稿が遅れた理由? 

遊んでました、許してください。FGOが面白いのがいけないんです。

でも完結までの下書きはできていますから、これから毎日完結するまで更新したいです。

連載開始二周年に間に合わせるとかしたいです。(できればいいな)

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