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鋼鉄の夢  -Iron Dream-  作者: からす
第二章 明日への逃避
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第100話 戦前

記念すべき第100話、第100話でございまーす。

 昼前。日が高く上り、工場の排煙にさえぎられ幾分勢いの弱くなった陽光が地面を照らす。スカベンジャーの集会所であるグラウンドには、その淡い陽を反射し鈍色に光る、出荷後間もないようなアースの群れが並んでいた。前後左右等間隔に、一列十二機が五列で計六十機。これほど多くのアースが集結するのは、数か月前にミュータントのガキがコロニー内で一人迷子になった日以来。

 あの日と違うのは、集まった機体の型番と、所属と、目的。

「どうだい。壮観だろう。全部で六十。なんとか集めた」

「……集めたのは良いが、ちゃんと動かせるのか?」

 これほど規則正しく並べるのなら、最低限の練度はあると見ていいが。しかし最低限ではまだ足りない。

「君たち熟練ほどじゃないが、貴重な資源を無駄にしない程度には動く」 

 少し考える。ここに集まった機体と、俺たちだけで、コロニーを落とせるか。俺たちほどの腕はない、この六十機でコロニーを守る部隊と戦って、勝利を収められるか。

 正面から、あるいは側面から。最低でも百は居る敵を攻めるのにこれで足りるか……否。足りない。この六十機全てがアンジー、あるいはトーマス並みの精鋭ならまだわからないが、それほどの性能でないのなら、無理だ。

「コロニーを直接叩きに行くんだ。守る側も必死になるだろう。戦力比一対一以下じゃ絶対に勝てない」

 口を開こうとしたら、トーマスが代弁してくれた。やはり同じ足、コロニーの治安維持兼防衛部隊所属だけあって、考えることは同じか。

「敵との戦いは、主に彼らが引き受ける。彼らはもともと捨て駒で、敵の目を引き付け、時間を稼がせ、敵戦力を少しでも削って死んでもらう。そのために用意したんだ」

「あいつらが戦ってる間に、俺たちが重要目標叩くと?」

「その通り。彼らが文字通り必死で敵を釘づけにしている間に、別動隊として君たちが内部へ侵入。あとは君の言った通りだ」

「無理だっての。防衛側が有利なうえに、土地勘がない場所の内部に侵入して、目標を叩け? シミュレーションもなしに? 馬鹿か、俺たちに死ねと言ってるのと同じだぞ

 ド正論をトーマスが吐き出す。

「君たちが地上を行く間、無人機を飛ばして私が指揮と案内を行う。高い確率で目標を達成できるはずだ」

「達成できたとしても、生還できる状況が全く想像できないな。どう考えても死ぬ。死亡前提の作戦は受け入れられん、再提出だアホ」

 なんてすばらしい。俺の言いたいことをトーマスが全て話してくれるおかげで、俺は何も言うことがない。ご主人様の不満も全てトーマスに向かい、俺への注意が薄まる。これで生きて帰れたら、エーヴィヒはトーマスに差し向けられる、そうなったらお礼とお詫びの意を込めて、合成食糧一か月分を送ってやろう。

「しかし、ここで君たちが行かなければ後で皆死ぬことになる。近いうちに攻め込まれ、砲撃で蹂躙され、抵抗する力を奪われ、なすすべなく殺される。皆殺しだ。工場で働く者たちも、君らの家族も、全員」

「すまんがその脅迫は無意味だ。俺たち全員家族いねえし」

 それを指摘すると、ご主人様は珍しく呆気にとられた顔をして。

「これは私としたことが、調べが不十分だった。まあ、私の援助が受けられる間に、目を潰しておくのが得策だと思うがね。死んだら英雄として後の代まで称えるよう頭の薄い彼に言っておく」

「名誉なんて糞より価値がねえ。ましてや死んだ後ならションベン以下だ」

 どんどん不機嫌になるトーマスをアンジーが無言でなだめ、その間に俺が質問をする。気になっていたことだ。

「無人機に爆弾くっつけて標的に落とせないのか?」

「それができれば前回の偵察時にしているよ。底までの積載量はない」

「出せる機体はこれで全部か」

「自宅の守りに置いてある機体を除けば、間違いなくこれで全てだ。ストックは全て吐き出した。もちろん君たちスカベンジャーからも出してくれるのならその分増えるが……治安維持と虫の監視にも人手が居るだろう。もし暴動が起きたら? もしも彼らがアースを持ち出して暴れだしたら? そういう可能性があるから、私が出したのだ。敵を倒したとしても、こちらのコロニーがなくなってしまえば意味がない」

「ごもっとも。じゃあ少し時間をくれ。あいつらと話がしたい」

 後ろのスカベンジャーの三人を指さして。

「いくらでも。納得がいくまで話せばいい」

「どうも。アンジー、トーマス、ダニエル。来い」

 ちなみにダニエルは生き残り君の名前。三人をご主人様から少し離れた場所に集めて、内容を聞かれないよう小声で話をはじめる。

「どうする。夜話した通り、あいつらぶっ殺して相手に下るか? 俺はこの数相手に大立ち回りする度胸はないぞ」

「私もパス。犬死はしたくないわ」

「……こんだけの数を出すってことは、ご主人様も本気なんだろう。捨て駒は俺たちじゃなくあの機体共らしいしな」

「何とも言えねえっす」

 多数決で、賛成三人中立一人、決定。ご主人様のところへ戻って、その旨を伝える。

「行きたくないが、行くしかない」

「結構。それではアースをバスに乗せたまえ、楽しい旅行になることを祈っているよ」

 家に帰るまでが旅行です。なんてのは、一体どこの誰が言い出したことか。きっと今回こそは生きて帰れないだろうな。これと言って未練は……うん。やっぱ人として子供は残しておきたかった。

とうとう物語も佳境でございまーす。次話から戦争がはじまりまーす。

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