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鋼鉄の夢  -Iron Dream-  作者: からす
第一章 新たな日常
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「これは……面倒な事になったな」


 ミュータントの集落とコロニーを繋ぐ道。集落へ行く時には運が良かったのか、何もなかったし何も居なかった。しかし昨日何もなかったからといって今日もそうとは限らないようで、大型の反応を三つ。アースの熱源センサーが捉えた。反応のサイズと熱量からして、反応の元は多分熊。しかも反応が三つということは、番と子供。子連れの獣は気性が荒いため大変危険だが、元々危険な動物がさらに危険になったらもうこれ以上恐ろしい物はないと言っていいくらいだ。生身なら。アースに乗っていれば、非武装でも一匹ならなんとかなるが。武装していれば二匹もいける。だが、三匹はどうだろうか。


「どうすっかねえ……」


 相手は道路の上を直進している。そしてこっちも目的地は道路の先。幸いなことにこちらが風下なため、相手はまだこっちに気づいていないようなので取れる選択肢は二つある。この道路を外れてあの熊を迂回して進むか、熊を殲滅して直進するか。気付かれていたら殲滅一択になっていたが……果たしてどちらがマシか。迂回した先にまた熊以外の野生動物の群れが居ないとも限らない。ハイエナとか。土の上なんかでうっかり転んだらそのまま獣の餌だ。

 しかしやはり三匹相手は……


「あ」


 あれこれ悩んでいる間に、その三匹がとうとうこちらに気づいたようで。非常に早い速度でこちらに反応が向かってくる。メインカメラのズーム無しで見える距離になるのに、一分とかからなかった。


「ああ畜生。本当にめんどくさいな」


 武器のロックを解除して、背中にかけていた対人用の50口径マシンガンを両手で構える。ブレードのロックも解除してあるが、それは最後の手段。使わざるを得なくなる状況に陥る前に、マシンガンだけで方を付けたいところ。威力に関しては問題ない。装甲を強化したアース相手には豆鉄砲でも、肉の塊でしか無いケダモノ相手には十分な威力。不安なのは俺の腕で不規則に動くあの熊に当てられるかどうか。当てなきゃ死ぬだけなので死ぬ気で当てなければ。

 走り寄って来るアースと同じくらいのサイズの巨大な熊。それに銃口を向け、トリガーを引く。その瞬間から鋼鉄の弾丸が吐出され、発射とほぼ同時に着弾した弾丸が熊の肉を抉り散らし、そのまま連続して弾丸が命中。身体に指令を発するための機関、脳を破壊された一頭は絶命したのか走る姿勢を崩して地面に転がり倒れる。

 しかしそれでも勢いを止めずに突進してくる二頭の熊。肩関節への負担がひどくなるのと、命中精度が低下するのを承知のうえでマシンガンを右手で片手撃ちし。左手で背中に吊るしたブレードのグリップを握る。


「ええい糞ッタレ、止まりやがれよ……」


 止まれと言って止まってくれる相手ではないのはわかっている。しかし射程範囲内にさえ入れば自分をアッサリと殺せるアースと同サイズの怪物が牙と爪をむき出しにして猛スピードで迫ってくるのは、正直言ってかなり怖い。だから寄られる前に殺してしまいたいのだが。


「ウヴォオオオオォォォォ!!」


 雄叫びに思わず怯みそうになるが、耐えて撃ち続けている内にまた一匹倒れて残るは微妙にサイズの小さい子供らしき熊一匹となった。しかし小さいからかジグザグに動いて弾が当たらず、結局マガジン一本使いきってしまった。その残りの一匹ももう目の前。本当はやりたくなかったが、弾が切れてはしかたがないので接近戦を挑む事になってしまう。


「畜生……しょうがねえ」


 そうつぶやいた瞬間に熊が鋭い爪と牙をむき出しにして飛びかかってくる。が、それをあえて足を前後に開いて腰を落とし、ブレードを腰だめに構えて正面から耐える姿勢を取る。いくら熊の爪と牙が鋭かろうと大きかろうと、所詮は自然のものでしかない。しっかりと精錬された金属製の鎧と、このアースの馬力を信じてあえて正面から受ける。


「ぬうん!!」


 まるで車がぶつかったかのような衝撃。それを耐えて、熊の腹に刺さったブレードをさらに突き込む。苦しげに熊が叫び、ギャリギャリと装甲と硬い牙、爪が擦れる嫌な音が聞こえてきた瞬間、怒声を上げながら熊の横っ面を何度も右手で殴って無理矢理に引っぺがし、熊とアースの間に少しだけ距離ができたところで思い切り前蹴りを食らわせてブレードを抜きつつ相手を転がす。仰向けに転んだ所に、腹の上へ足を振り下ろして、動きを封じる。


「この、どうだ! 死ね、死ねえ!」


 今度は口の中を狙って刃を突き刺し、左右に捻る。何度も何度も、ビクリビクリと跳ねる熊を足で押さえつけながらこれでもかという位に捻り回して、ピクリともしなくなったところで刃を抜く。

 抜き取った刃を見ると、熊の硬い頭蓋を貫いたのとその上さらに捻り回したのとでかなり刃が欠けている。これはもう、研いでも使えないだろう。アースは熊一頭分の質量を受け止めたにも関わらずエラーの表示が一つもないのに。全く、今の技術と風船がはじける前の技術は、本当に大きな差だ。


「それにしても……この前買い物したばっかなのにまた出費かよ」


 思わずため息が出る。収入は上がらないのに出費ばかりがかさんでいく……死ぬよりかはマシだが、やはり出費は痛い。スカベンジャーがこれほど割にあわない仕事だと知っていれば、今頃俺も工場で何も考えずに工業品をひたすら生産する機械の一部として働いていただろう。それと今と、果たしてどっちがマシだっただろうか。

 まあ、工場で働いてたならそれはそれで不満ばかり言ってるだろうが。


「……まあいいや。帰ろ」


 アースの中で肩を落としながら、気分はトボトボと。それでも足取りはしっかりと帰り道を進む。コロニーまでもう野生動物に合わないことを祈る。

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