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短編小説

とある一週間。

作者: うわの空

 とある月曜日。

 とある人間は、一週間の長さに絶望していた。

 月曜日という一日すら長いのに、一週間はあと6日もある。

 絶望したその人間は、白線の外側に飛び込んだ。


 とある月曜日。

 とある人間は、新しい一週間を迎えられたことに感謝していた。

 余命半年と言われたあの日から、もうすぐ十か月。

 支えてくれた世界のみんなに、その人間は感謝した。




 とある火曜日。

 とある人間は、昨日の失敗を引きずっていた。

 もしかしたら、一生この鬱々とした気分のままかもしれない。

 途方に暮れたその人間は、黒いベルトを首に巻いた。


 とある火曜日。

 とある人間は、咲き誇っている花を見て目を細めていた。

 去年は失敗したけれど、今年は綺麗に咲いてくれた。

 じょうろを持ったその人間は、指先で真っ白な花びらに触れた。




 とある水曜日。

 とある人間は、不採用と書かれた紙を握りしめていた。

 いつまで経っても、この社会に自分の居場所は作れない。

 諦めきったその人間は、ふわりと浮かんで落下した。


 とある水曜日。

 とある人間は、泣きながら金魚に土をかけていた。

 出目金なんて可愛くもない、そう思ったのは二十年前だったはずである。

 私も長生きするからねと、その人間は約束をした。


 


 とある木曜日。

 とある人間は、落選という事実に愕然としていた。

 小説家を目指して三十四年。もう、芽が出ることはないのか。

 失望したその人間は、大量の薬で眠りについた。


 とある木曜日。

 とある人間は、落選という事実に頷いていた。

 小説家を目指して四十年。だが、自分の『最高』はここではないのだ。

 改めて希望を目にしたその人間は、にこやかに筆を執った。




 とある金曜日。

 とある人間は、孤独という言葉に酔っていた。

 金曜の夜だというのに、気軽に飲みに行ける相手もいない。

 ひとりに怯えたその人間は、手首に刃物を押しあてた。


 とある金曜日。

 とある人間は、孤独という言葉におののいていた。

 そこから助けてもらうには、自分が行動しなければならない。

 ひとりに怯えたその人間は旧友へ、「飲みに行こう」とメールした。




 とある土曜日。

 とある人間は、自分がいかに受動的なのかを思い知っていた。

 仕事の日はいいが、休日になった途端、するべきことが何もない。

 空白に耐えきれなくなったその人間は、海の底へと沈んでいった。


 とある土曜日。

 とある人間は、海と空を眺めに来ていた。

 特別なことは何もない。ただ、海と空が広がっていればいい。

 十年ぶりに部屋の外へと出たその人間は、世界の広さを見つめていた。





 とある日曜日。

 とある人間が、自殺を図った。

 救急車で運ばれた結果、自殺は未遂に終わり、後遺症も残らなかった。


 ただ、搬送先の病院で検査を受けた結果、違う病気を患っていることが判明した。


「あと半年です」と、医師は冷酷に告げた。

 あなたの望み通り死ねますよと、嘲笑うかのように。



 とある日曜日。

 とある人間は一時退院し、公園のベンチに座っていた。

 周囲を走り回る子供たちも、それをたしなめる親の姿も、見慣れた光景。

 足元に咲いている見知らぬ花は、かつてなら通り過ぎただけの情景。

 うんざりしていたはずの世界で、その人間は呟いた。


「――……死にたくない……死にたくない……!」




 とある月曜日。

 とある人間は、




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― 新着の感想 ―
[一言] 上は悪い方。 下は良い方。 って感じですか? 下の人はいい人って感じですかね? 生きたいと思っている、みたいな。 上の人は、逆に死にたがってる人ですよね。 この人たちって、全くつな…
[一言] ループというか繋がっているわけですね! 暗い人と明るい人、別の人かと思ったら、気持ちの持ちようの違いなんですね。 生きている人は、死にたくて。 死にそうな人は、生きたい。 とても面白かった…
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