三ヶ月前です②
未知は騎士団ですがね。
さて行くかと呟き後ろを振り向いたら、私の向かう道の方向にいつの間にかズラリと人が並んでいた。声を上げて瞬時に後退ってしまったのは仕方ないと思う。
(はっ!?え、いや何時の間に…!?)
彼らとの距離はあっても5メートル程度だし、6人も居たら気付くはずなのだが。
正直言って逃げたい。だって威圧感半端ない。どう見たって一般市民じゃない。昔の西洋の軍人というか、Yシャツと鎧を合体させてゴツくした感じの服だ。帯剣だってしてるし。こんなのが一般ピープルとか止めて欲しいので絶対自衛団か何かだと信じる。
一番うわ背のある、30代後半くらいでオールバックのおじさんが近付いて来た。ビクッとして、また一歩後退る。
其れを見て何を思ったのか――多分怯えられて困っているのだろう――足をピタリと止めて、此方を見る。こんなに重苦しい睨めっこは初めてだ。
「…何もせんから、警戒しなくていい。俺らは騎士団だ。」
聞き覚えのない言語なのに、するりと耳に入ってきて意味が理解できる。然しいい声ですねおじさん、いやお兄さん。
お約束で、自動翻訳機でもついているんだろうか。ラッキーだ。
「騎士団…?」
言語が分かるという安心感で、少し肩の力が抜けた。それより騎士団ってなんだろう。
そんな私の様子に、どう受け取ったのかは知らないがお兄さんは私以上にホッとして歩みを進めた。
いや、騎士団に安堵したんじゃなくて騎士団が何か分からなくて純粋に聞いただけなんですけどね。どうやら警戒を少し解かれたと勘違いしてるらしい。その通りだけど。決していい声に揺らいだわけではないですよ。
「そう、町を守るための騎士団だ。嘘じゃないぞ?ほら、腕章だってあるだろう?」
そこはかとなく嬉しそうですね。感情に正直なのはとっても良い事だと思います。
腕章を向けてくるお兄さんの腕を見れば、確かに知らないが読める文字で:騎士団:と書かれている。なかなかに細かい模様で飾り立てられていて、真似は難しそうなので本物と信じてもいいだろう。
まあでも騎士団なら納得だ。素人に気配を気付かれるようなことはするまい。私が鈍いんじゃなくて良かった。
(取り敢えず、意思疎通に不便はないね!)
嬉しさで頬が緩んだ。なんとか、生きていけるかもしれない。
お兄さんは私が笑ったのにちょっと驚いたのか、目を軽く見開いたが、直ぐニシャッと笑ってくしゃくしゃと頭を撫でてきた。
…一体いくつに見られているのか聞くのが怖い。おねーさんは26歳ですよ。
「ところで。君がゲブルゥを倒したのかい?」
お兄さんと同様距離を縮めてきた他の5人の内一人が首を傾げながら聞いてきた。筋肉はあるであろうに細身に見えるとはこやつ、やりおる。さては童顔だな?
ゲブルゥとはわたしが牛羊猪と命名した奴の事だろう。知らない単語もポンと頭にイメージが湧いてくるので困ることは無さそうだ。便利すぎる。騎士団の時は浮かばなかったから私の想像しているので大体合っているということかな。
「はい。」
…此処で私は重大なことに気づいてしまった。
こいつら、いつから見てたんだ……。
疑問形で聞いちゃいるが完全に確信している顔だ。
もし初めから見てたとか言ったら騎士を名乗る事など許さん。か弱い女性を助けない騎士など居てもいなくてもそう変わるまい。男に間違われるような顔はしてないはずだから大丈夫だろう。いやでも見た限り男性でも髪は伸ばすのが主流っぽい。中性的な人もいるだろうから絶壁の私じゃ分からないかもな。…まあそれでも人助け出来ない奴なんて論外だけどな!!
取り敢えず既にYesと言ってしまったので聞く機会を逃したわけだが。
「お前すげえな!」
と、頷いた私に楽しそうな声が掛かる。童顔くんの隣の周りと比べれば小さい方である赤毛の少年だった。それでも170は有に超えている。
少年よ、私は君より年上だと思うぞ。ほんといくつだと思ってるんだ。
「はあ…ありがとう?」
一応お礼は言っておく。お礼は大切だからね。