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三ヶ月前です①



仕事に忙殺される日々。久々にあった休みを有効活用しようと消耗品の買いだめをして、趣味で続けている弓道を近所のおじじに見てもらうべく道場に足を踏み入れようとした時だった。

足元が、カッと目を焦がす勢いで光り出したかと思うと、気がついたら何故か見知らぬ土地に立っていた。

何処を向いても真っ平らな茶色い地面と所々にある岩岩が広がるばかり。上を見あげれば青い太陽が見えた。



―――異世界トリップ―――



そんな言葉が瞬時に浮かんだ。あれですね、ヲタク道もまっしぐらだった私の知識も無駄ではなかったんですね。うん、ウレシイナー。

けど、どう考えてもいい状況ではないわけで。

誰も何もない所に弓持った女が一人。どんな鬼畜プレイだよ畜生。

目を凝らせば、多分町だろう所が見えなくもないがそれも遥遠方に霞んで見える。私のコンパスでは5,6時間はかかるんじゃないだろうか。


普通トリップと言えば勇者だの巫女だのゲームの中だのとあるのがセオリーじゃなかろうか。

何が楽しくてこんな働き盛りの女が来ることになったのやら理解が出来ない。

というかまず女学生にしろよ若くてピチピチな子たちでいいじゃん誰が得すんのさ捕まえんなら美人にしろこの野郎。


そんな事を思いながら取り敢えず町らしき所に向かって歩き出した。幸いにして、最近のストレスもあり体を動かすことは好きだった。靴だって履き慣れたスニーカーだから歩き易い。

少しだけ希望っぽいものが見えた気がして、意気揚々とは行かないまでも軽い足取りになった。


体内時計じゃよく分からないが、多分2時間半程歩いたところだった。

足音が近づいてくることに気付いたのは。

どう聞いても人間のものとは思えない。


警戒して音のする後方を振り返ると、牛と羊と猪を足して3で割ったような珍妙な動物が此方に向かって来ているではないか。

一直線に向かって来ることといい、体から黒い煙を吹き出していることといい、どうも普通の生き物ではなさそうだ。異様なくらいの殺気も可怪しい。


(この世界って、魔物とかいたりするんかね?)


可能性は、高い。

直ぐ様弓を構えて魔物らしきもの(的)に標準を合わせる。

奴は遠い。だが、当てられないほどではない。

スッと、動く的だけに集中する。

周りの音が無くなった様な感覚に陥り、自分の心臓の音ばかりが身体中に響く。

キリリとした、的と私だけの空間。心地良い緊張感。

後1メートル。

50センチ。

20センチ。




今。




ピュッと弓を射た時独特の音がして、的に向かって矢は迷いなく飛んでいく。

まるで的に吸い込まれるかのように矢は、見事命中。

実際的のど真ん中を射た時のような快感にもにた達成感と、アレは食えるのかという事が頭に浮かぶ。

命を奪った限り、それを私の血肉にすることが精一杯の礼儀だと加害者の気持ちで思っている。

何の意味もなく、殺したわけではないことだけは確かだ。


やられるまえにやれ。


道場のおじじもとい師範と共に、山に篭った時の言葉だった。小学生の私は一体何を目指していたのか今でも分からない。


その時のお陰で、動物の血には一応耐性がついた。矢を受けた方とは反対側に横倒れになった牛羊猪ぎゅうういの(勝手に命名)に近付く。

手負いの獣程恐ろしいものはないから、何時でも打てるように弓は軽く構えておく。

五歩くらい間を開けて、牛羊猪をじっと見る。

…こいつ、こんなちっちゃかったけ。つかだんだん縮んでね?


矢の二倍程の背丈だったはずだが、何時の間にやら矢よりも小さくなって今じゃ瓜坊サイズだ。シュウシュウと音を立てて黒い煙が大量に出て行っているのが原因だろう。血は一滴も見当たらない。

ひよこサイズまでいくと最後っ屁のように体全体が大量の煙に包まれ跡形もなくなっていた。


「…こりゃ魔物で決定だね。この調子でいくと魔法もありっぽいなあ。」


飛ばした矢を、少し戸惑ったものの拾っておく。魔物が出るとなるとどう考えても武器は多いほうが得策だ。

すまん牛羊猪。この世界で初めて狩ったお前のことは忘れない。



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