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Far road to lord/Slayers(2)

「ここまでの話は理解できたかの」


「問題ありません」


 エリーゼはアガタの言葉に簡潔な返答をする傭兵、マックスの顔を見た。彫りが深い精悍な顔立ち。顎には無精髭が生えている。あまり似合っていない。


「要するに、彼女を領都のビアリストークまで護衛すればいいのですね」


「そうじゃ。エリーゼ様はまだ領主とは認められておらん。領主となるにはビアリストークに行かねばならぬのじゃ。どうじゃ、受けてくれるか」


「質問があります」とマックスは言った。「敵はイレナの配下の者だけでいいのですか。道中、野生動物や野盗の襲撃があるかもしれない。そういう奴らからも彼女を守るべきですか」


「当然じゃ」


「それから、イレナが他の貴族に要請して兵を送り込んでくるかもしれない。あるいは騎士や貴族本人が兵を率いてやってくるかもしれない。それらからも彼女を守るべきですか」


「そうじゃ」


 マックスは驚くぐらい細かく尋ねてくる。それらにアガタは淀みなく答えた。自分を置いて話を進める二人に、エリーゼは自分の運命が自分の手から離れていってしまったような感覚を覚える。自分のことなのに自分が関われないなんて。


「つまり、あらゆる脅威から彼女を守れと、そういうことですね」


 アガタは頷いた。


「次は護衛対象である彼女に質問したいのですが、よろしいですか」


「私、ですか」


 突然話を振られてエリーゼは慌てた。声が上ずってしまう。アガタの方を見る。彼女は「構わん」と告げるだけだった。彼は自分に、何を聞こうというのか。


「可能性の話になりますが」と前置きを言ってからマックスは続けた。「もしあなたと親しい人物――例えばここにいる大人たちがイレナからの報酬に目が眩み、直接的、あるいは間接的にあなたへ害を与えようとしたとします。その場合、あなたの安全を確保するためにそいつを排除しても構いませんか」


 その質問はエリーゼに重くのしかかった。そんなことは予想していなかった。だがあり得ない話ではないのだ。壁の前に立った大人たちの顔を見回し、そしてエリーゼはここにはいない他の村人たちの顔を思い出す。


「それは……」


 答えを出せずに戸惑っていると、アガタが代わりに言った。


「少なくともここにいる者は、全員がマルタ様とミハウ様に忠誠を誓った使用人じゃ。そのような事にはなるまい」


「あくまで、可能性の話です。それから、自分は彼女に聞いています」


 念を押すマックスにアガタの眉が顰められた。暗い沈黙が流れる。


「……分かりません」


 エリーゼは正直に言った。自分の親しい人が裏切るなどとは思えないし、そんなこと考えたくはなかった。それは現実から目を逸らす卑怯な行為だと思う。でも実際にそんなことが起こったら、自分はどうすればいいのかわからないのだ。


「その時は我々の判断に任せていただきますか」


 落ち着いた声音でマックスは問うた。


「……はい」


 それでいいのかどうか、エリーゼにはわからない。自分が死ぬのは嫌だし、自分のせいで他の人が傷つくのも嫌だ。


 誰も傷つかないですむ方法はないのか。エリーゼは考える。自分も死なず、他の誰も傷つかない方法が。


「ねえ、アガタ」


 弱弱しい声でエリーゼは言った。


「なんですか、エリーゼ様」


 優しい声音でアガタが答える。


「私、別に領主になんて、なりたくないんだけど、駄目、かな」


「そんな、何をおっしゃるのですかっ」


 アガタだけでなく、その場にいた大人たちの間にも動揺が広がった。


 ある大人が言った。


「私たちはこの日が来るまで、十四年間待ったのですぞっ」


 別の大人が言う。


「今は亡きミハウ様とマルタ様のためにも、どうか、どうか領主の座にっ」


「で、でも、私は怖いことは嫌だし、それに、いまなら、私がイレナさんに領主の座を譲るって言えば、このまま何も起こらないかもしれないし」


 エリーゼにとって大事なのはこれまでの生活が続くことであって、領主の座など、言ってしまえばどうでもよかった。父と母のために、と言われても二人の顔を見たことすらないのだ。領主になる権利を放棄して平和な人生が続くのであれば、それでいいではないか。誰も傷つかない、平和な日々。それ以上に大事なものがどこにあるのだろうか。


「いいですか、エリーゼ様。そもそも――」


 アガタの言葉を遮るようにマックスの後ろにいた大男が手を上げた。


「えっと、自分からも、質問、いいですか」


「私に、ですか」とエリーゼは尋ね返す。


「いえ、両方、私、構いません。個人的な質問。エルフは意力使いが多いの、聞いています。この村、意力使い、どれくらい、いる」


 話の腰を折られてか、アガタは苛立たしげな顔で大男の方へ向き直った。あるいはそれは、片言で聞き取りにくいエルフ語のためだったのかもしれない。


「数十人はおるわい。ほとんどが微弱な意力しか使えぬが、それがどうかしたのか」


「悪いね、こいつはちょっと好奇心が旺盛で」とマックスが言う。


「ここにいるエルフの中にも、意力使い、いる、ですか」


 大男はさらに聞いてくる。


「そこにいるトゥハケルとビョッキ、それからその横のメンタロがそうじゃ」


 アガタは大人たちを一人一人指さしていく。


「ども、ありがと、ございます」


 そう言って顔を下げた大男の右手が素早く動き、直後に、なにかが破裂するような音がした。エリーゼの心臓が胸から飛び出しそうなほどに跳ね上がる。同時に窓が割れる音を聞いた。嗅ぎ慣れない匂いが鼻腔を突く。それが火薬のものだと気づくのにさして時間はかからなかった。


 大男は腰から銃を抜き放っていた。二つある銃口が両方とも煙を吐いている。その先にいた村長の体が吹っ飛んでいた。壁に激しくぶつかり、崩れ落ちる。一瞬遅れで悲鳴が上がった。


「うわあああああっ、撃った、撃ちやがったっ。人間がっ」


 声を上げる者、唖然としている者、そしてアガタを含む何人かは盾になるようにエリーゼの前に集まっていた。かつて兵士だったというトゥハケルは剣を抜いている。


 訳が分からない。大男が村長を、撃った。どうしてそんなことを。優しそうに見えたのに。やはり人間は野蛮で愚かな生き物なのだろうか。あるいは彼が、実はイレナからの刺客なのだろうか。だとしたら次に狙うのは私なのか。


「あ、あ……」


 エリーゼの舌が震えていた。言葉を絞り出そうとして、しかし何を言おうとしたのか自分でもわからなかった。意識しないうちに震えは全身に伝染していた。


「貴様っ、気でも違えたかっ。かような真似をしてただで済むと――」


 アガタの怒号を無視して、大男は銃に弾を込めなおしていた。と、撃たれたはずの村長が跳ね起きる。体のどこにも傷を負っていない。大男の放った散弾が意力障壁に弾かれて窓を割ったのが銃声とほぼ同時に聞いた音の正体だったが、その時のエリーゼには想像もつかないことだった。


「そいつ、意力使いっ」


 大男が叫ぶように言った。


「怪しかった。ここに来た時から、意力、見えてた。アガサさんの言葉で確信した。こいつ、敵」


「ケヒャッ」


 村長の顔をした男が奇妙な笑い声を上げた。顔が不気味に歪む。煮立った湯のように肌の表面が泡立っている。


 エリーゼにもはっきりとわかった。あれは、村長ではない。


「どうしてかは知らねえが、バレちまっちゃしょうがねえ。そうよ、俺は意力使ぶばべばっ」


 大男は彼が喋り終るのを待たずに再び発砲していた。複数の異なる銃声が重なり合い、村長の顔をした男の悲鳴を塗り潰す。


 マックスも拳銃を抜いていた。腹の前で構える独特の姿勢で。赤い髪の少女も撃っていた。彼女の手の中で銃が火を吹き、激しく揺れている。小型ながらも全自動射撃ができるものらしい。


 無数の弾丸で意力障壁を突破され、村長の顔をした男は穴だらけになった。胸や手足に赤黒い染みが浮かび、額をぶち抜かれて、彼は名乗りすら上げられずに死んだ。後頭部が大きく爆ぜて、彼の背後の壁に脳漿がべったりとくっついている。


 マックスたち以外の全員が、呆けたように口を開けていた。


「どうやら顔だけじゃなく、匂いやらなんやらも誤魔化せる意力作用らしいな」とマックスが再装填しながら言った。「ダンケが気づかないはずだ」


 マックスの足元で犬が銃声に驚いた風もなく、役立てなかったことが恥ずかしいのかしゅんとしている。


「うん、すっごく気持ち悪い顔してた」と赤髪の少女が若干場違いな感想を漏らした。


 銃を収めてからマックスはエリーゼの方に向き直った。


「契約成立前だが、いまのはサービスだ」


 つい今しがた人を殺しておいて、マックスは平然としていた。大男も、赤髪の少女も、別段動揺した様子はない。犬は相変わらず舌を出しながら尻尾を振っている。彼らは人の命をなんとも思っていないのだろうか。だが、不吉な感じはしなかった。村長に化けていた男は声音からも邪悪さが滲んでいたというのに。


「こ、これは……」


 呪縛から解放されたアガタがやっとという具合で声を絞り出した。


「大方、イレナとやらが雇った暗殺者だろう。化けられた方はすでに死んでいるだろうな」マックスは軽くため息をついた。「しかし手が早いことだな。おかげでただ働きだ」


 その言葉を聞いて、エリーゼの中の恐怖が膨れ上がった。恐れていたことが現実になってしまった。本当に、私を殺しに来たのだ。どうしてどうして。私は何も悪いことはしていないのに。領主の座なんて、欲しければあげるから。だからどこかへ行ってほしい。私に関わらないでほしい。私はただ、平穏な日々があればそれでいいのだから。いや彼女の仲間を殺してしまったからもう許してくれないかも。いや金で雇っただけの関係ならまだ大丈夫、かも。そうであって欲しかった。


「エリーゼ、大丈夫か」


「いまの銃声は――うっ」


 二人の少年が血相を変えて転がり込んできていた。一人はピッチフォークを持ち、もう一人は鎧姿だった。エリーゼの友人、カミルとユリアンだ。


 鎧姿の青年、ユリアンはマックスたちと、そして穴だらけになった村長の姿をした男を認めると剣を抜いた。


「お、お前らがっ、イレナとかいう奴の刺客かっ」


 緊張を吹き飛ばそうとするかのように、ユリアンが叫んだ。


「いや、待って。様子がおかしい」


 ひょろ長い体躯のカミルがユリアンを諌めた。声音は比較的落ち着いている。


「えっと、この人たちは私を守ってくれる傭兵さんで、この村長は実は村長じゃなくって……」


 何とか場を収めようとエリーゼは口を開いた、のだが、言葉が所々支離滅裂になっている。


「彼らはわしが呼んだ傭兵じゃ。そこの死体は、暗殺者が村長に化けておったんじゃよ。わかったら少し落ち着かんか」


 アガタが一喝すると、ユリアンは剣を収めた。だがそれだけでは終わらない。彼は険のある顔でマックスの方へと歩み寄っていった。二人が並ぶと、身長の差はほとんどない。


「護衛だと。人間じゃないか」


「やめなよ、ユリアン」


 侮蔑の視線を投げかけるユリアンを、カミルが制止する。


「すいません、ユリアンはなんていうか、ちょっと気が立ってるだけなんです」


「いや、構わない」とマックスは謝罪の言葉を受け流した。「それよりまだ契約交渉の途中でね。話はそのあとにして欲しい」


 別段気を悪くした様子もなく、カミルはユリアンを引っ張って下がった。ユリアンの方はまだ憮然とした顔をしていたが。エリーゼの周りにいた大人たちも、ようやく警戒を解いている。


「依頼についてですが、アガタ」とマックスは向き直った。「期限はいつまでにしますか。永遠に護衛することはできません。ビアリストークに着くまでか、それとも、着いてから先も彼女を守るべきですか」


「彼女が正式に領主と認められるまでお願いしたい」


「本当にそれでいいのですか」マックスは念を押すように言った。「彼女が領主になったところで、イレナの脅威が消えるとは思えません。おそらく奴は彼女を暗殺し、その後釜になることを考えるでしょう。我々は彼女が領主になった後のことは関知しない、ということでいいのですか」


 むぅ、とアガタは唸った。


 マックスは続けた。「我々はイレナの積極的な排除を提案しますが、いかがですか」


「そんなことが、できるのか。相手は曲がりなりにも貴族なんじゃぞ。護衛の騎士もきっと手練れ揃いじゃ。それを殺すなど」


「できるかどうかは別として、依頼であれば我々は全力でそれを実行します」


 集まっている大人たちも、アガタですらも息を飲んだ。マックスが大言を吐いているようには見えない。だが彼は、貴族を始末すると言っているのだ。意力使いとはいえ、人間が。


 しばらく無言の状態が続くと、マックスはそれを了解と受け取ったのか、事務的な口調で言った。


「では正確な依頼内容は、彼女の物理的、肉体的な保護。および貴族擁護委員、イレナの積極的な排除、ということでよろしいですか」


「う、うむ。では、引き受けてくれるのじゃな」


「条件があります。我々は彼女の精神的な被害までは責任を持てません。それから、彼女が自傷ないしは自殺を図った場合も、依頼の対象外とさせていただきます。それでいいですか」


「……まぁ、いいじゃろう」


「それから」と言ってからマックスは彼の仲間を指した。「自分が依頼を果たせなくなった場合、彼らが

その後を引き継ぐか否かは、彼らの好きにさせてやってください」


「どういうことじゃ、それは。彼奴らはお主の部下ではないのか」


「非正規雇用ですので」


 アガタが鼻白んだ様子で口を噤んだ。大男はどういうわけか苦笑している。


「一応、護衛対象にも確認をとりたいのですが、いいですか」


 マックスの視線を感じて、エリーゼは顔を上げた。


「あ、あああ、あのっ、私、私はっ」


 声が震えた。混乱しているのだ。人が死んだ。イレナの仲間を殺してしまった。関わりたくなんかないのに。先ほどからずっと、エリーゼの頭の中で思考がぐるぐる回っている。それでもなんとか深呼吸して心を落ち着けてから、エリーゼは少し早口になって、言った。


「さっきも言ったように、私は、領主なんかになりたくありませんっ。仲間を殺してしまったのは謝るから、イレナさんに領主の座を譲るように言って、それでなんとか収まりませんかっ」


「僭越ながら申し上げますと、それは無理かと存じます」


 慇懃無礼な口調で、マックスが返してくる。


「いくらあなたが領主の座を譲ると言っても、相手がそれを信じることはないでしょう。というより、後顧の憂いを断つために始末しようとするでしょう」


「どこかに逃げる、とかは」


「論外です。厳しいことを言うようですが、あなたは自分の立場をわかっておられないようですね。王族と関わりのある貴族の少女がどこへ逃げるというのですか。隣のアルマーニュにでも亡命しますか。仇敵の、しかも貴族を受け入れるとは思えませんが。よしんばそれが成ったとしても、きっとアルマーニュの政治家たちはあなたを利用するでしょう。ウィ・ノナを疲弊させるために、継承権を持つあなたを担ぎ上げて内戦の火種を作る程度のことはやるかと思います」


 アガタの背中が震えているのに気づく。ずけずけと言うマックスに怒りを溜め込みつつも、しかし発言そのものは正しいために何も言えずにいるのだ。


「じゃ、じゃあ、どうすれば」


「イレナを始末するしかありません。あるいは、あなたが自殺するか」


 やはり、そうなるのか。


「……わかり、ました。あなたに、私の護衛を、お願いします」


 渋々と、ある種の諦念を抱きながらエリーゼは言った。


 死ぬのは嫌だ。だからこうするしか他はないのだ。エリーゼは頭ではわかっていても、感情がついてこないままだった。これは夢ではないのか。夢だったら早く覚めてほしい。いや夢ではない。あの銃声も、村長の顔をした男の死も、すべて現実だ。そう、だから、きっと現実とは、人生とはそんなものなのだ。


「では、護衛するにあたって名前を教えて頂きたい」


 エリーゼの思考をよそに、マックスは淡々と告げた。


「はい……私は、エリーゼといいます。エリーゼ・グラボフスカが正式な名前になります」


 マックスは一瞬、少しだけ驚いたような表情を見せた。さっきとは違う風に、雰囲気が変わったような気がした。感じていた視線が強くなっている。村の人たちからは、今思えば家臣としてのおべっかなのかもしれないけれど、数年したら大層美人になるとさんざん言われてきた。だがそういう意味で彼は自分を見ているのではない、とエリーゼにはわかった。彼の灰色の瞳には真摯な光が宿っている。


「読み書きはできますか。あなたの名前の綴りは」


「えっと、E、L、I、S、Eで、エリーゼです」


 やや戸惑いながらも、エリーゼは答えた。


「あの、それがどうされましたか」


「いいえ、なんでもありません」


 雰囲気はすぐ元に戻った。彼は何を気にしていたのだろう。


「気はすんだか」


 怒気を押し殺したような声音で、アガタが聞いた。


「はい。内容がまとまったところで言っておきます。我々は依頼を果たすために全力を尽くしますが、万が一ご期待に添えない場合、報酬はいりません。完了できない依頼の報酬をいただくわけにはいきませんから。後払いで結構です」


 依頼が失敗したら、つまり自分が死んだら報酬はいらないと言っている。だがエリーゼは、自分が死ぬ前に彼のほうが先に死んでいるだろうと思った。先ほどの雰囲気にはそう感じさせる何かがあった。


「報酬はいくら払えばよい」とアガタ。


「失礼を承知で伺いますが、いかほど出せますか」


 逆にマックスは問うた。


「いま出せるのは四十万グローシュが精一杯じゃ。だがエリーゼ様が領主になればその十倍、いや百倍は――」


「必要経費分として、四十万グローシュだけ頂ければ結構です」


 四十万グローシュと言えば、都市に住む下級役人の四、五か月分の給金だ。たった、それだけでいいのか。エリーゼは少し不安になる。貴族の争いに、自分の命にそれだけの価値しか感じていないということではないだろうか。だが彼は、どうやら本気で依頼を遂行する気らしかった。


 マックスは続けた。


「ただ、それに加えて、他に頂きたいものがございます」


「なんじゃ、それは。言うてみよ」


 その時、マックスがちらりと自分を見たような気がした。


「……後ほど申し上げます。大したものではありませんので」


 言いながら、マックスは左肩に括り付けられたナイフに手を伸ばしていた。


「それに、これから仕事になりますから」


 マックスが後ろを向いた。ユリアンたちが入ってきてから開きっぱなしになっていた扉の先に、奇妙な人物が立っているのに気づいた。右手に握った剣からは血が滴り、左手にはどす黒い塊のようなものを引きずっている。エリーゼは最初、それが何なのかわからなかった。いや、認めたくなかった。両手両足を切り落とされた、見覚えのある服を着た少女だということを。


「フレコ……」


 エリーゼは同い年の少女の名を呟いた。


「ほう、それがこの子の名前か」


 奇妙な人物が入ってきた。色白で痩せぎすの、エルフ。黒衣に黒い胸当てをつけ、無造作に垂らした長い黒髪で顔のほとんどが隠れていた。髪の間から妙にぎらついた目がこちらを見ている。絡みつくような視線にエリーゼは身震いする。その場の村人たちも、異様な男の登場に凍りついていた。

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