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A lil' less conversation

 アルマーニュ連邦共和国の首都、べアリーンは旧大陸でも有数の大都市として知られていた。


 旧大陸……近年、エレクサゴンをはじめとする大国の進出が行われている南方の新大陸と比較してそう呼ばれている土地では、複数の国が存在していた。


 すなわち、ドニの故国であるエレクサゴン共和国と、その南に位置し一神教会本部と強く結びついているロムルス共和国、ドワーフの技術力を背景に工業化を推し進めるアルマーニュ連邦共和国、エルフが支配階級として君臨するウィ・ノナ、十年前に大公国から帝国へと名を変え国内の諸部族を平定し、近隣の小国を制圧し拡張政策を続けているラッスィーヤ帝国。それとドラゴンボーンの国、ヘルヴェティア。小さな国を含めればもっとある。


 ドニはべアリーンの街並みを見上げた。一国の首都だけあって、清潔で、平和だった。道の両脇に高い建物が整然と並んでいる。商業施設らしい一際高いものには宣伝用の看板が下がっていて、文字が点滅を繰り返している。想像したこともないような光景だった。故郷の村とは大違いだ。同じ世界のものとは、とても思えない。通りの半分は車両用の道路になっていて、ときたま車が走っている。乗っているのはみんな金持ちそうな人たちだ。


「あんまりきょろきょろするなよ、変な目で見られるだろ」


 マックスに言われて、ドニははたと我に返った。通行人たちが怪訝な目で通り過ぎていく。


「気持ちはわからないでもないかな。ロムルスでもこれぐらいの規模の都市ってあんまりなかったし」


 遠まわしに弁護したのはファニアだ。ダンケは物怖じしない性格なのか、見慣れない風景でもそ知らぬ顔で尻尾を振っていた。


 アルマーニュ連邦共和国の首都、ベアリーンは首都にふさわしく、共和国内で最も発展した都市だった。自分がいるのは、その中のケペニック区という所らしい。


「んじゃ、まあとりあえず宿でも探すか。おい、ドニ、下手に離れて迷子になるなよ」とマックス。


「俺は子供じゃない」


「さっきのお前、どっからどう見ても子供だったぞ」


「うん、それについては、同意」


 小さく笑いながらファニアが言う。むぅ、ファニアめ。大人なのか、子供なのか、俺の扱いをはっきりして欲しいものだ。


 宿にあてがあるのか、マックスは迷いもせずに進んでいく。すれ違う人々の服装は小奇麗だ。野良仕事などするようには見えない。都市とはそういうものなのだろう。美しく、洗練され、脱臭された街。憧れていた場所ではあるのだが、漂う不自然さが気になるのも事実だ。


 ここは、人間が自然を征服した場所なのだ。ドニは思った。野生動物の危険もなく、自然の恵みも少ない。村で育った自分にはそれが少し息苦しかったりもする。


 それでも都市に対する興味がなくなったわけではなかった。ドニはマックスに続きながらせわしなく辺りを見回す。塀に囲われた大きな建物があった。入り口の前に人の銅像が立っている。


「なあ、マックス、あれはなんだ」


 銅像を差しながらドニは言った。


「だから俺はお前のお袋かっての。あー、あれか。ペテン師の像だっけかな、確か」


 なんだかんだ言っても結局答えてしまうのは彼の人柄だろう、とドニは思う。


「なんだ、それ。なんでペテン師の銅像が建つんだ。銅像っていったら偉い人とかのものだろ、普通」


「そうよね。ロムルスでも守護聖人を象った銅像はよく見たけど、なんでペテン師が。ようするに詐欺師でしょ。悪人じゃないの」とファニアが続く。


「ちょいとまあ、ここには面白い話があってだな。記録によると旧世界の第三紀終わりから四紀初頭ごろか、当時、ここは皇帝が治める帝国だったんだ」


「ラッスィーヤみたいなのかしら」


「軍国主義って点では似たようなものだったらしいが……なぁ、ドニ。先進的な国に必要なものって、なんだかわかるか」


「えーっと、豊かさ、かな。お金とか」


「間違っちゃいないが、もっと概念的なものだ。秩序と、規律だよ。そのときの帝国も例に漏れず、秩序と規律の権化だったらしいぜ」


「それがあの銅像とどう繋がるの」


「まぁ聞けって。そんな帝国の小都市の市長が、ある日突然、軍に身柄を拘束されたんだ。兵を率いる大尉曰く、皇帝の勅命により貴様を逮捕する、ってな。大尉は市の金庫を差し押さえ、市長を帝都まで護送するよう手配した。市長が帝都につくと――何が起こったと思う」


「……何が起こったんだ」


「軍はもちろん、政府も、そして皇帝すらも、誰一人としてそんな命令のことは知らなかったんだ」


「ええっ、なにそれっ。どういうことよ」


「皇帝の名前を騙った強盗だったっていうのか」


「近いな。市長を拘束した兵士たちは紛れも泣く本物の兵士だった。だが、その指揮官である大尉は偽者だったんだ。半分は、な」


「半分偽者ってどういう意味」


「そいつが着ていた制服だけは本物だったんだよ。中身はただの靴職人。彼は古着屋で買った制服を使って大尉に成りすまし、巡回中の兵士を捕まえて偽の特命で動かしたんだ」


「いくらなんでも、そんな、制服を着ているだけで」


「そう思うだろ。だが、ちゃんとした記録に残ってる、事実なのさ。軍の制服は、それだけのことができる権威を備えていたんだ。結局、その靴職人は制服だけで市を数時間も支配下に置いて、金庫から金を抜いて逃げ去った。傑作だろ」


「それで、その人はどうなったの」


「顔をばっちり見られてたからな、当然、捕まった。だが本当に面白いのはここからだ。この件で、彼は一躍市民の人気者になった。普段自分らをふんぞり返って見下してる軍人や警察署長やらが、ただの靴職人に顎で使われてたんだからそりゃ受ける。んで、権威をコケにしたはずなのに、皇帝本人までもが気に入っちまったんだ。投獄された彼は恩赦で釈放。以後、彼はその件をもとにした回想録を出版し、その稼ぎで余生を送ったそうだ。以上、あの銅像にまつわる喜劇、おしまい」


「物知りなのね、意外と」とファニアが言った。


「お前はいっつも一言余計だよな。もっと素直に俺の一般教養を褒め称えたらどうだ」


「あなたがくだらない冗談を言うのをやめたら、考えてあげる」


「そりゃあ無理な相談だな」


 マックスは呵々と笑った。


 そんなことを話しながらドニたちは街を歩いていく。


 しばらくして首尾よく宿を見つけることができて、そこでマックスは単独行動になった。今に始まったことではないが、なにか裏があるのだろうかと勘ぐってしまう。


 宿のベッドに座ると、ドニは急に思いついた。まさか、自分に気を使っているのではなかろうか、と。ダンケと目が合う。彼はどうしたの、というように不思議そうな視線を返すだけだ。


 いやいや、まさか、まさか。彼女とはただの旅の道連れだし、そりゃあ、確かに、見てくれはいいし料理も上手いし気もまわるし……かなり良い、ではないか。いやいやいや、俺は何を考えているんだ。相手の気持ちも考えずに。自己嫌悪に陥りながらドニは、では相手の気持ちがよければどうなのだと自問してみて、それがとてつもない自分勝手な思考であることに気づきさらに自分が嫌になった。


 考えてみれば、いままで恋愛などしたことはない。故郷の村に年頃の女性がいなかったわけではないが、そうした関係になろうとは思わなかった。その理由が、いまならわかる。いつか村を出ようと思っていたからだ。危険で、しかも当てのない旅に恋人を巻き込むわけにはいかない。


 ……そんな心配をする前に、実際に自分に恋人ができたかというと話は別だが。


 ドニは物思いにふける。ふと、フルールのことを思い出した。彼女はいまどうしているだろうか。フィリアンは。残してきた家族は元気だろうかなどとそぞろに考えていると、ノックの音が聞こえた。顔を上げる。


「ドーニー。夜まで暇だし、その辺観光していこうよ」


 ファニアの声がした。いまの精神状態では絶対に意識してしまうだろう。かといって、せっかく誘ってくれたのだし、実際、することもないのだ。


「うん、行こう」


 床に伏せていたダンケが素早く身を起こす。外に出たいようだ。そういえばお前も一緒か。二人きりではないのが残念なような、助かったような、複雑な心境でドニはベッドから腰を上げた。



 当てが、外れた。


 夜になって宿に戻ってきたとき、ドニは満身創痍の状態だった。


 最初は良かった。ダンケがいたから。それがいつの間にかいなくなっていて結局二人きりになってしまった。あちこち回ったはずなのだがどこをどう見て、何を話したのかよく覚えていない。


 ファニアの方を見てみる。ランプのオレンジ色の光に照らされて、頬と髪がとても綺麗に映る。表情はいつも通りだ。おかしなことを言ったりやったりしてはいないようだ。とりあえず、よかった。


 いつものように宿の一階で食事をとる。ついたテーブルに料理が並ぶ。パンと鶏肉の揚げ物がメインだ。この揚げ物なのだが、表面はカリカリで中に香草を練りこんだバターが入っておりなかなか美味い。


「この国の鶏肉料理ってローストか炒め物ぐらいしかないと思ってたんだけど、なかなか手が込んでいるじゃない」とファニアは感心していた。


 他にも、キュウリやニンジン、葉物野菜の漬物はよく漬かっていて味わい深い。酒が好きならつまみとしてもいけるだろう。


 スープの主な具材は玉ねぎとジャガイモだ。この国の食事にはジャガイモがよく出てくる。それと、豚肉の腸詰。茹でられてパンパンに張ったそれに噛り付いてみると、小気味よい歯ごたえとともに肉汁と辛味があふれてくる。どうやら香辛料も混ぜ込んであるようだ。


「そういえばダンケ、帰ってこないね」とファニアが言った。


「お腹が空けば帰ってくるんじゃないかな」


 ドニは答えた。普通に話せる。なんとか落ち着いたようだ。


「だと、いいんだけど。ちょっと心配」


「犬さらい、なんてのはいないか。まあそのうち戻ってくるよ」


 なんだかんだ言っても、彼はずっと自分たちについてきてくれたのだ。ここで離れる理由もないだろうし。


「そういえば、マックスも戻ってきてないな」


「あいつは……いいんじゃないの、大抵のことは自分でどうにかするだろうし」


 その通りなのだが、心配度合いとしては犬以下か。それはそれで少しかわいそうな気もする。ドニはマックスを憐れんだ。


「おい、お前ら二人してかなり失礼なこと考えてないか」


 いつの間にか、憮然とした表情のマックスがテーブルのそばまで来ていた。そのまま空いている椅子に座り、給仕に注文を出す。


「俺がいない間にまあ仲良くやってたみたいだな。羨ましいこって」


「勝手にいなくなったのはあんたじゃないの。毎度毎度なにやってるのか知らないけど」とファニア。


「そりゃあもちろん、女の子を探しに」


 やってきた料理をつつきながら、マックスは答える。


「その割にはいつも一人で戻ってくるよね」とドニは言った。


 マックスは一瞬だけ、痛いところを突かれたというように渋い顔になる。ファニアの目が光った。


「そんなこと言っちゃ悪いわよ、ドニ。大方振られに振られまくってきたところなんだから」


「し、失敬な」マックスは狼狽えている。「す、すす、凄かったんだぞー。それはもう群がる女の子をちぎっては投げちぎっては投げ」


「じゃあなんでこの時間に一人で戻ってくるわけ」


「それはだな、みなさん門限があって……それにお前らが心配してないかなーって……」


 実際はこれっぽっちも心配していなかったのだが。それはともかく、狼狽えまくっているマックスを見ているのが楽しすぎる。ドニはこっそりと笑った。その横でファニアが決定的な質問を突き付けようとしていた。


「っていうか実際さ、あなたいままで何人の女の子と付き合ったのよ」


「そりゃあお前、あれだ、その……沢山だっ」


「ふぅん、たくさん、ねぇ」


「何が言いたい」


 杯を傾けながら怪訝な顔でマックスは問うた。


「じゃあさあ、その恋愛経験を使ってさ、ほら、あそこにいる女の人、落としてきてみてよ」


 嘲弄するように言うファニアが指す先には、一人で食事をとっている妙齢の女性の姿があった。なかなかの美人だ。


「悪いが俺の好みじゃ」


「逃げるんだ」


 マックスの顔が引きつる。


「まー別にあの人じゃなくってもいいのよ。他にもいっぱいいるし」


 フロアを見回せば、女性客はそれなりに見受けられた。やはりなかなかの美人ばかりだ。ドニはさすが首都だけあるな、などと考える。


「まさか普段からあんなことを言ってるマックスさんが、美人を前にして逃げ帰るなんて、ないわよねえ」


「……そこまで言われたら仕方がない」


 杯を置いて、マックスは席を立った。


「見せてやろう、本当の男というものをっ」


 決意を口に出し、足を踏み出した。


「マックス、そっちは出口」


 呼び止められてマックスは動きを止めた。ゆっくりと向きを変える。


「……見せてやろう、本当の男というものをっ」


「いいからさっさと行きなさいよ」


 すごすごとマックスは手近なテーブルの女性に近づいていく。軽く声をかけて、向かい合うように座った。なにやら話しているようだが、店内の喧騒にまぎれてドニたちには聞こえない。


「あら、意外といい感じ、かな」


 それなりに会話は弾んでいる様子だ。女性側にも笑顔が見られる。と、笑顔のまま女性はグラスを手に取り、中身をマックスの顔にぶちまけた。勢いよく席を立ち、店から出ていく。


 顔面を濡らしたままのマックスが戻ってくる。


「まあざっとこんなもんかな」


「……駄目じゃないの」とあきれ顔でファニア。


「なんて言ったの」とドニは聞いてみる。


「仕事は何をしてるのかって聞かれたから、銃口向けられるたびに5マーク貰ってたら大金持ちになれる仕事って言ってやったのさ」


「馬鹿じゃないの、あんた。それがカッコいいと思ってるの」


「駄目なのか」


 真顔でマックスは問い返した。意外とこういうことに関しては哀れな男みたいだ、とドニは思う。言ってることはあながち間違いではないのだが。


 その後も、ファニアにたきつけられてマックスは女性に声をかけていく、のだがどれも残念な結果に終わった。悄然とした面持ちの彼を見ているとなんだか悲しくなってくるドニだった。


「ねえマックス、あなた本当は女の子と付き合ったことないんじゃないの」


 観念しろとでも言いたげにファニアが聞く。


「そ、そんなわけねーし……今日は調子悪いだけだし……」


「じゃあ改めて聞くけど、あんた今までに何人とその、したこと、あるのよ」


 妙に濁した言い方で、顔を赤くしながらファニアがさらに聞いた。


「するって、何を」


「それは、その、ほら、あれよ、なんていうか……」


 ファニアはもじもじしている。


「あー」なんとなく意味を察したのか、マックスは答えた。「あのなあ、普通そういうことは結婚してから―――あっ」


「えっ」


 二人の声が重なった。


「もしかして」とドニが遠慮がちに口を開く。「まさか、童て―――」


「言うなっ」


 マックスが語気を荒げた。


「っていうかお前らもそうだろーが。二人して言えた口かっ」


「はぁっ、なんでそんなこと知ってるのよっ」


 ファニアがテーブルを叩いて飛び上がる。それを見てマックスは口角を釣り上げた。


「適当に言ってみただけなんだけど、本当にそうだったんだ」


「……あーっ」


 言葉の意味に気づき、ファニアはさらに顔を赤くしてコップを掴んだ。中身をマックスの顔面にぶちまける。


「ぶへっ、うはは、ざまーみろっ」


「馬鹿っ、アホっ、そんなんだからモテないのよっ」


 楽しそうだなあ、やっぱり旅に出てよかったと思いながらドニはただ一人、周囲からの冷たい視線を受け流していた。



 朝になって、ドニたちは宿を出た。ダンケはまだ戻ってきていない。ファニアはさすがに不安そうで、あたりを見回している。まさかなにか妙なことに巻き込まれている、なんてことはないだろうが。


 前を行くマックスは特に気にした様子もない。駅に向かっているようだが、さて、次はどこに行くつもりなのだろう。


「今度はどこへ行くんだい。このところずっと東へ進んでたけど、次も同じか」


「そうだ」とマックスは振り返らずに答えた。「仕事が入ったんでな」


 傭兵の仕事か。ドニは彼の職業を思い出す。自称傭兵だが、やはりそれらしいことはしているのだ。


 マックスは続けた。


「昨日、俺が所属している傭兵のネットワークを通して依頼が来た。アルマーニュの東、ウィ・ノナで少人数の意力使いが必要になった、とな」


 ウィ・ノナ、エルフの王国。その内部は閉鎖的で、他国との接触は必要最小限に抑えられていると聞く。そんな所からの依頼を持ってくるとは、どういう人脈なのだろうかとドニは不思議に思う。彼の正体と関係があるのだろうか。


 いや、そんなことはどうでもいいだろう。正体が何であれ、彼はいい奴だ。


「で、質問だ」


 マックスは振り返った。


「今回のヤマはかなり危険なことになる。俺でも生き残れるかわからん。悪いことは言わないから、ここでおさらばってことにしないか」


 意外な言葉に、ドニはマックスの顔を見返す。本気の顔だ。危険な目には何度もあったが、それ以上のものが待っていると言っているようだった。


「あんたでも危ない相手っていうの、逆に見てみたい気もするんだけど」とファニアが言った。


「詳しいことは言えないが、正直、巻き込みたくない」


 何度も何度も巻き込んでおいていまさらその言い草はないだろう。いや、正確には自分から好き好んで首を突っ込んでいったようなものだが。さて、どう言ってやろうか。


「報酬は山分け、でいいのかな」


「は」


「俺はお前の荷物持ちだろ。それぐらいの権利はあってもいいんじゃないかな」


 ぽかんと口を開けるマックスに、ファニアが畳みかけた。


「私も一口乗りたいな。なーんて。ウィ・ノナって一度行ってみたかったのよね。あそこは教会の手があまり入ってないからいい遺跡がありそうで」


 開けていた口を閉じて、それからマックスは大きく息を吸い込んでため息をついた。


「……死にそうになっても助けないからな」


「おかしいな、俺をかばってくれた人が同じ台詞を前に言ってた気がするんだけど」


 精一杯の、ドニの皮肉だった。マックスは苦笑する。


「じゃ、まずは列車に乗って国境を目指そうか」


「列車、ねえ」


 ファニアは微妙な表情になる。以前、列車に乗って襲われたことを思い出しているのだろう。


「そんなに距離はないから大丈夫だろ、たぶん。この辺は治安もいいことだし……おっ」


 マックスの視線を追うと、人ごみの中に一匹の犬が見えた。違う、一匹ではない。その後ろに四匹いる。ダンケの後を、知らない犬たちがついてきているのだった。人々の何人かはちょっと意外そうに、あるいは面白いものを見たというように片眉を上げたりしている。


 ダンケはドニたちの前まで来てから、ついてきている犬たちを振り返った。全員、メスのようだ。彼女たちは順番に名残惜しそうな顔でダンケの顔を舐めたり、額を擦り付けたりした。くぅん、くぅん、と寂しげな鳴き声。


 別れのあいさつを済ませたダンケはドニたちに向き直った。ワフ、と力強く吠える。さあ行くぞ、と言っているようだ。その背後で、彼の恋人たちはまだ別れを惜しんでいた。


「……お前、モテるんだな」


 敗北感を露わにしながら、マックスが言った。

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