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Blow me away(7)

 それはマックスが酒場にいるときに起こった。


 真昼間から飲んでいるドワーフの横で酒を買おうとしていたところ、突然地面が揺れた。振動で窓が割れる。外から悲鳴が聞こえてくる。


「な、なんだぁ」


 半ば酔ったまま、ドワーフが窓に寄って外を見ようとする。その頭に剣が突き刺さった。


「うおおおおおぉぉぉぉぉっ、死ねえええぇぇぇぇぇぇぇっ」


 窓から、入り口から、武装した男たちが突入してくる。呆気にとられているドワーフたちに次々と弾丸が撃ち込まれる。


 マックスは手近なテーブルを蹴倒して盾にしていた。弾丸に削り取られた木屑が舞う。


 そして、一瞬の隙を突いて反撃に転じた。身を上げて拳銃を撃つ。半身になり、顔の前で銃を保持する独特の姿勢。入り口からやってきた敵の頭に穴が開く。身体を動かして別方向の敵に対処する。窓を乗り越えようとした敵の眉間に、やはり穴が開いた。


「この国のアル中は性質が悪いな」


 微妙にずれた感想を零しながら、マックスは銃を下ろした。弾倉を振り出して再装填する。


「それとも酒代を銃弾で支払う風習でもあるのかい……あっ」


 銃を収めて振り向くと、話しかけたつもりの店主はすでに息絶えていた。カウンターの向こうで壁に寄りかかりながら白目を剥いている。胸には幾つもの赤い染みができていた。


 ため息をついて、カウンターに金を置き酒瓶を取り上げる。二本。血はかかっていない。よかった、贈り物が台無しになるところだった。頷いて雑嚢に放り込む。包装がないのはこの際諦めることにした。最後に、店主の目を閉じてやる。


 生き残ったドワーフたちはマックスの行動を呆然と眺めていた。


「さっさと逃げなよ」とマックス。「裏口からならまだ安全だと思う。多分」


 それで我に返ったように、ドワーフたちは悲鳴を上げて裏口へと殺到した。ある者は千鳥足だった。


 さて。マックスは表情を引き締める。倒した敵の装備を確認する。外装に木製部品を使った曲銃床式ライフル。実際の設計思想はライフルと短機関銃の中間のような銃だ。精度は高くないが、安く、頑丈なことで知られている。そのため、一般人や傭兵の間で人気が高い。複製品を採用している国もあるという。


 それはいいとしても、妙に装備が整いすぎている。弾倉入れがベルトに通っているし、胸には手榴弾がぶら下がっている。ただの犯罪者ではないだろう。かといって傭兵や軍隊にも見えない。となると、ポリクラブか。


 交戦するか。マックスはその思考をすぐに打ち消す。任務の範囲外だ。立場を弁えなければ。自分はただの傭兵ではないのだから、ここででしゃばるのはまずい。すでに二度、任務外で戦闘しているが、だからこそ、だ。いまのところ大きな問題になっていないとはいえ、同じ失敗を繰り返してはならない。ドラゴンボーン傭兵や自警団に任せるべきだ。


 再び、地面が揺れる。爆発音。迫撃砲の類か。マックスは様子を伺いながら酒場から出た。


 街が、燃えていた。空が夕焼けのように赤い。立ち並ぶ民家から火の手が上がっている。道路に死体がいくつか転がっているのが見えた。あちこちから聞こえる破裂音は銃声だ。悲鳴や、怒号や、断末魔の叫びがそれに混じる。


 幼子の泣き声が聞こえた。見れば、少年のドワーフが泣きじゃくりながら足から血を流している大人のドワーフを揺すっていた。父親だろう。気を失っているのか、応える様子はない。妹と思しきドワーフの少女は怯えた表情で少年にしがみついている。


 マックスは目を細めた。少年にゆっくりと歩み寄る。


 それに気づいた少年は、敵だと思ったのか、父親をかばうように両手を広げてマックスの前に立ちふさがった。少女は目をつぶってその後ろに隠れている。


 震えながら、少年は声を絞り出した。


「来るなっ、来るなよぅっ。パパも、妹も、絶対おまえなんかにやらせないんだからなっ」


 マックスは数瞬、その場に立ち尽くしていた。少年は涙のたまった目でこちらを精一杯睨んでいる。


 背後から気配が近づいてくる。マックスは振り向いた。武装した十人近いポリクラブたちだった。


 手が届く距離でポリクラブは問うた。


「人間か」


「そうだが」


 冷たい声音でマックスは答えた。


「ならば、我々にお前を害する理由はない。そこをどけ」


 マックスはポリクラブと少年の間に立っていた。背後で少年が身を竦ませる気配。


「どいたらどうする。お礼にいくらか包んでくれるのか」


「貴様、ふざけているのか」


「状況がわかってねえようだな」もう一人のポリクラブが銃を抜きながら言った。「どかなきゃ殺す、ってんだよ。お前の後ろにいるドワーフをぶち殺さなきゃならねえんだ」


「ドワーフはこの国を蝕む害虫だ。害虫は駆除しなければならない。この国は、人間のものだ。さて、もう一度言う。そこをどけ。さもなくば殺す」


「殺さなきゃいけないのか」


 鋭い風鳴りの音がした。


「なら、俺と一緒だな……俺は、お前らを、ぶち殺さなきゃいけないようだ」


 先頭のポリクラブの喉が切り開かれていた。事情を飲み込めぬまま、ポリクラブは傷を抑えながら蹲った。足元に血の池ができる。


 マックスの手は、ナイフを握っていた。速度のためか刃に血はついていない。


「う、うおおっ、てめえっ」


 撃とうとしたポリクラブの手首から先が宙を舞った。返す刃が首を切り裂く。傷口から血の噴水が高く吹き上がった。首の後ろ側の皮一枚でつながった頭がぐらりと揺れて背中に当たる。


「こいつっ、やりやがったっ」


 さらに二人が同時に襲い掛かる。右から銃床を振り上げる男。左からもう一人が剣で突きかかってくる。


 マックスの左手が剣の腹を滑るように動いた。突きの軌道を逸らし、剣を握る手に食らいついた。嫌な音と共に手が柄と一緒に握り潰される。男の悲鳴。


 剣の鍔から先が地面につく前に、もう一人の男の身体が空中で一回転した。マックスの両手が素早く男の腕に絡み、ナイフで間接を極め、投げたのだ。背中を強かに打ちつけられた男の肺から空気が押し出される。


「てめぇ、同じ人間だろうがっ」


「裏切り者がっ」


「殺せ、殺せっ」


 口々に怒声を上げながら、ポリクラブたちが各々の武器をマックスに向けた。銃が、剣が、槍が。


 マックスはポリクラブを見返した。その瞳には冷たい光が宿っていた。


 そして、敵の群れに突っ込んでいった。たった一本のナイフを頼みにして。


 戦闘は、数秒で終わった。


 恐ろしい速度で、マックスは一方的にポリクラブを殺戮した。右手のナイフで刺しながら、空いた左手で攻撃をいなし、同時に逆襲する。左拳が敵の腹に吸い込まれて破裂させる。足払いで転ばせた敵の頭を踏み潰す。両手両足がまったく異なる仕事を、流れるようにこなしていく。


 ある者は頚動脈を裂かれて血の海で溺れ、ある者は手首を落とされて失血死した。腹を横一文字に切り裂かれた男はまだ息があったが、腸が飛び出していて動けるようには見えない。一見外傷のないように見える男は、腋の下から心臓を抉り抜かれていた。顎を吹き飛ばされ、折れ曲がった首から頚骨が露出しているのは素手、あるいは柄での打撃よるものだ。


 ナイフを持った手を自然に垂らしながら、マックスはその場に佇んでいた。着ている濃緑色のロングコートの裾に、返り血で奇妙な模様が出来上がっていた。


 氷の眼差しに射抜かれて、ただ一人の生き残り、マックスに投げられた男は短い悲鳴を漏らした。投げられたときに肋骨が折れたのか、脇腹をかばっている。


「ひっ、助け、降伏する、降伏するからっ」


 這いつくばったまま武器を捨てて、男は懇願した。


「聞きたいことがある」


 抑揚のない声で、マックスは言った。


「これだけの規模だ。仕切っている奴がいるだろう。そいつはどこにいる」


「ま、街の中央広場だ。そこで指揮を執っているはず」


 男はあっさりと口を割った。


「そうか」


「な、なぁ、喋ったんだから、殺さないでくれよな、この通りだから――」


「さっき言っただろ。俺は、お前らを、ぶち殺さなくちゃいけない」


 男の顔が泣きそうに歪んだ。


 直後に、マックスの足が霞んだ。


 蹴り上げられ、胴から千切れ飛んだ生首が高く、高く、民家の屋根を越えるほどに打ち上がった。やがて鈍い音を立てて、潰れた果実のようなそれが地面に転がった。


 その様子を、ドワーフの少年は唖然とした表情で眺めていた。


 マックスが振り向くと、ドワーフの少女が悲鳴を上げた。


「いやっ、助けてっ」


「大丈夫だ、大丈夫だから」


 少年は少女の肩を抱き、自らも震えていたが、それでも落ち着かせようと諭していた。


「安心してくれ、お前たちに危害を加えるつもりはない」


 その言葉に、二人は顔を上げた。マックスの瞳に、先ほどまでの冷々とした光はなかった。


「お父さんを運ぶぞ」


 マックスは倒れていたドワーフを抱きかかえると、近くの民家に下ろした。少年たちも、おびえた表情でついてくる。


「う……あんた、は……」


 気がついたドワーフが、苦しげな表情で言った。


「喋らなくていい」とマックス。「じきに助けがくる。それまで絶対に、ここから出るな」


 ドワーフたちは怪訝な顔で、それでも小さく頷いた。


 マックスは民家から出ようとする。その直前に、肩越しにドワーフたちを見て、また前を向いた。瞳に凍てつくような光が再び宿り、いまは存在しない相手に密やかに告げた。


「父さん、母さん、俺は、やるよ」


 マックスはゴーグルをかけ、口元を布で隠した。


 瞬間、眼鏡をかけた少女の、悲しげな顔を思い出した。


 胸が、ちくりと、痛んだ。



 ポリクラブの意力使い、ヒンケル・クレンペラー率いる部隊は自治領居住区への攻撃を続けていた。中央広場に布陣した本隊の火力支援の下、とにかく派手に暴れまわることが彼らに課せられた任務だった。


 煉瓦で舗装された道路を踏み砕きながら、ヒンケルは大剣を振った。遥か手前を通り過ぎるはずの剣先が伸びて、ドワーフの太い胴がまとめて両断された。腹から真っ二つにされた肉塊が内臓を零しながら転がっていく。


 これでこの区域の敵はほとんどいなくなった。乏しい抵抗が続いているが、それもすぐに終わるだろう。


「行け、殺せ」


 重い声で、ヒンケルは部下に指示を出した。雄叫びを上げながら兵隊たちが銃を乱射し突っ込んでいく。


 つまらない戦いだ。ヒンケルは大剣についた血糊を吹き飛ばしながら思った。ドワーフも、ドラゴンボーンも、大半がマンデインだ。たまにやってくる意力使いもたいしたことはない。


 あるいは、アデプト級でもいれば少しは違っただろうに。


 ヒンケル・クレンペラーは元・アルマーニュ陸軍所属の腕利きの戦士だった。アデプト級の戦士として、様々な作戦に関わってきた。


 彼の得物は一見、鉄板と見紛うほどの無骨で巨大な剣だった。それを振るう彼自身も、常人よりも頭二つ分は抜けている巨漢だ。規格外の大剣を軽々と扱う姿を見れば、誰もが畏怖を覚えるだろう。


 岩のように角ばったヒンケルの顔に、額から右頬にかけて古い傷痕が走っている。軍人時代に影の兵とやりあったときのものだ。敵は意力使いだった。もちろん、一瞬後にはその傷を負わせた影の兵の首を刎ねてやったが。


 ヒンケルの目指すものは究極の強さだった。いまでは時代遅れになっている剣を主な武器として使うのも、それが理由だ。武器の利便性に頼っていては自分の力を証明できない。いや、装備で勝る相手を倒してこそ真に強いと言えるのだ。そう考えている。彼が使う大剣は他人の意力加工が施されていない、ただの鉄でできていた。


 軍を辞めてポリクラブについたのは、命令に従って殺戮をこなすことに飽きたからだ。ポリクラブならば軍よりも自由に殺せる。ただ、それだけだ。人を、ドワーフやらエルフやらをぶち殺すことのどこが悪いというのか。どうせ自分がやらずともそこらじゅうで死にまくっているのだから。


 その能力を見入られてポリクラブではそこそこの地位にあったが、ヒンケルにとってはどうでもいいことだ。自分より弱い者、特にマンデインなど塵芥以下だと思っている。逆に自分より強い者には羨望と、嫉妬を向けた。ウィ・ノナで無敗の騎士と呼ばれているウルリックや、アルビオン合衆王国アントリウム領が持つという最強の殺し屋部隊などがその対象だった。エレクサゴンの聖霊騎士団や教会の鋼鉄騎士団も腕利き揃いだと聞く。自分を差し置いて最強の名をほしいままにする連中がいることが、許せなかった。


 一応は仲間である、ポリクラブの意力使いも嫉妬の対象だった。ギュンターは嫌いだ。自分よりずっと若いが、強力な意力使いであることは認めている。やりあえば自分が勝つだろうが。殺しを楽しむ性質は自分と同じだが、奴には美しさがない。それでいて自分がポリクラブ最強だと思っているところがまた気に障る。あまつさえ、夢は政治家になることだと言いくさる。ただの馬鹿だ。それが彼に対するヒンケルの評価だった。


 それよりも気になるのがアンドリューだった。軍事顧問という奇妙な立場の男。強者であることは間違いないのだが、得体が知れない。不気味な雰囲気を持っている。妙な訛りから外国人だとわかるが奴は一体何者なのか。いや、無駄なことはよそう。自分が望むのは殺戮であって、他人の詮索ではないのだから。


 硝子が割れる鋭い音がした。兵隊どもが商店から略奪しているのだ。ヒンケルは無視した。兵隊などどうでもいい。略奪だろうがなんだろうが好きにやっていればいい。彼にとって兵隊は、殺戮に勝手についてきているだけのゴミクズに過ぎない。街を焼くのには役立つが。仲間の死体を無慈悲に踏みつけて、新たな敵を求めて駆ける。


 家屋に火をかけようとしていたポリクラブたちの頭が、爆ぜた。銃声がした方向へ視線を走らせる。二区画ほど先に、深緑色のコートを着た男がいた。膝立ちに構えたライフルが火を吹く度にポリクラブが倒れていく。兵隊が反撃する前にするりと射線から逃れる。手練の動きだと一目でわかった。おそらくは意力使いだろう。


 銃の腕はいいようだが、果たして。ヒンケルは口元に期待の笑みを湛えて、速度を上げた。一直線に突進する。


 銃口がこちらを向いた。分厚い鉄板様の剣を身体の前に翳して盾にする。一発目が意力障壁を貫通し、剣の腹を叩いた。意力が乗った銃弾だ。硬度強化もされているらしい。続けざまに撃ち込まれる弾丸が剣に弾かれる。


 ヒンケルの笑みが深まっていく。自分の意力障壁を一撃で突破するとは。相手にとって不足なし。


 敵は弾切れになったのか、膝射姿勢から魔性の速度で突撃に転じた。こちらに向かってくる。進路上のポリクラブたちを行きがけの駄賃とばかりに切り殺しながら。敵のライフルは着剣されていた。面白い。同じように、通り道にいた仲間を跳ね飛ばしてヒンケルは真正面から突っ込んでいく。


「かああっ」


 全身の血を熱く燃やし、勢いをそのままに大剣を振りかぶる。視界が開けた。十数歩ばかり先に敵の姿がある。通常ならばまだ剣の間合いではない、はずだった。


 横一文字に振る。鉄塊を。遠心力につられるかのように、剣の切っ先が伸びていく。自らの得物の射程距離を延長する、ヒンケルの意力作用。切っ先が伸びたぶん厚みは失われているが、それでも意力強化された刃は岩を切り裂くだけの破壊力を秘めている。いままで何人もの意力使いがこれで間合いを狂わされ、真っ二つにされてきたのだ。


 剣から伝わってきたのは、肉を裂き、骨を断つ感触ではなかった。硬い物にぶつかったように手が痺れる。剣の重さが失われる。


 ヒンケルは目を見開いた。


 敵は、ライフルで剣を受け止めていた。木製の被筒部分に当たった刃はまったく食い込みもせず、逆に半ばから折れたのだ。それを成したのは武器を握る者の意力の差だった。くるくると回転しながら剣身が真上へとすっ飛んでいく。


 馬鹿な。


 深緑の男はすでにヒンケルの眼前に迫っていた。かわすことも声を上げる暇もなく、胸に熱い痛みが生まれた。銃剣が深々と突き立てられる。心臓を、やられた……


 刺さった銃剣が抉るように回転した。上を向いた刃が滑らかにヒンケルの身体を切り進んでいく。首を通って顎へ。さらにその上へと。熱が頭頂部を走り抜けた。


 後ろ側だけで繋がったヒンケルの顔が、ぱっくりと裂けた。自分の意思を無視して下がっていく視界の中に深緑の男を認める。ゴーグルの下の目元は、歳若い者のそれだった。


 畜生。こんな若造に、この俺が。残された最後の脳機能がどす黒い嫉妬に染め上げられる。まだ二十にも達していないだろうに、これだけの意力を有するとは信じられない。俺が今まで積み上げてきたものは一体なんだったのか。気が狂いそうになる。畜生。畜生。


 深緑の男は滑るようにヒンケルの横を通り過ぎていった。背後から兵隊たちの断末魔が響く。続いて聞こえてくるのは首や手足が落ちる音だ。マンデインでは束になってもこいつには敵わないだろう。音の発生源が次第に遠ざかっていく。


 なんなんだ、こいつは。ポリクラブ部隊を皆殺しにでもするつもりか。


 いや、それくらいのことはやってもらわねば。自分を殺したのだから。あの得体の知れない軍事顧問に勝てるかどうかはわからないが、できるのならやって欲しいものだ。割れたヒンケルの顔が苦笑を作った。完敗だ、畜生。脳味噌が零れ、湿った音を立てて崩れる前に彼の意識は消失した。



 燃える街をマックスは駆けていた。地面を踏みつけ、建物を飛び越えながら中央広場への最短進路を選択する。遭遇した敵は片っ端から射殺し、撲殺し、あるいは突き殺していく。


 目標は敵の首魁だ。頭を潰せば組織的戦闘能力を奪うことができるだろう。民家の壁を蹴る。爆発したかのような粉塵を残して飛ぶ。壁から壁へと。


 広場手前の区画に到着すると、自治領の兵力とポリクラブが戦闘を繰り広げていた。道に死体が散乱し、まだ生きているものは必死の形相で発砲していた。優勢な敵部隊の存在に確信が強まった。敵の頭は、ここだ。


 面倒だ、強行突破する。


 壁を一際強く蹴った。堅牢なはずのドワーフ風建築が轟音を立てて崩れた。破片が舞う。その下で迫撃砲弾と勘違いしたドワーフ兵が頭を抱えて蹲った。


 瓦礫の裏で乱射していたポリクラブに弾丸のように迫り、ライフルを棍棒代わりに叩きつける。銃床がめり込む。鈍い感触。一撃でポリクラブの頭が陥没した。眼窩から視神経が絡んだ目玉が飛び出し、鼻と口と耳から血が噴き出す。突然の闖入者に驚きながらも、ポリクラブたちは無数の弾丸を撃ち込んでくる。


 だが、マックスのほうが速かった。引き金が引かれる前に道路脇の荷車の後ろに転がりこむ。弾が空気を切り裂く甲高い音。


 素早く腰を落とし、片膝をつく。逆側の足を前へ。上体を倒しこんで荷車の下から敵を狙う。連射。狙い過たず放たれた銃弾が、地面の間を通ってポリクラブの大腿動脈を裂いた。足首を貫かれて転げまわる者もいた。複数の悲鳴が同時に上がる。


 敵の応射が荷車に集中した。複数の軽機関銃とライフルと短機関銃が火を吹いた。木製の荷車があっさりと貫通される。だがマックスはすでにそこにはいなかった。別の遮蔽に滑り込み、再射撃。顔と銃だけを出していた兵隊が撃たれて即死する。


 前進する。走りながら銃を顔の前へ。手首を返して遠心力で弾倉を排出し、新たな弾倉を叩き込む。銃が息を吹き返した。


 死を撒き散らしながら、唖然とする自治領の兵士たちを尻目にマックスは敵中を突き進んでいった。銃剣で敵の腹を身体ごと突き上げる。返り血が服にかかった。


 銃剣を振る。突き刺さったままの死体を敵に投げつける。死体がまだ生きている肉体を潰した。さらに銃剣を振る。血の糸を引いて腕が飛んだ。胸を刺す痛みをこらえながら、マックスは殺戮を続けた。

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