Stop this train(1)
シュダーガート駅長はけたたましい汽笛を上げて出発する列車を、駅のホームで見送っていた。
「やあ、まさか本当にやってくれるとは思ってませんでした」と隣に控えるグラスランナーが言った。「かなり若そうに見えるのに、ポリクラブのアジトからボスを引っ張ってきちまうなんて――」
駅長が咎めるような視線を送ると、グラスランナーは慌てて口をつぐんだ。列車が走る音にかき消されて誰にも聞こえなかったかもしれないが、秘密は秘密だ。
遠ざかる列車を見ながら、不思議なこともあるものだ、と駅長は思う。
二日前、ドワーフ自治領から『お前に接触してくる傭兵がいるから、そいつにマルティン捕獲を依頼しろ』という指示が届いたときはなんの冗談かと訝ったものだ。しかし実際に傭兵たちはやってきて、不審に思いながらも依頼してみると本当にやってのけてしまったのだから驚きと言うほかない。
彼らは一体何者なのだろうか。流れの傭兵だと言っていたが、男二人に女一人というのは、少し珍しい組み合わせのような気がしないでもない。帰ってきたときには犬まで連れていた。それはともかくとして、彼らと自治領にはどのような繋がりがあるのだろう。自治領が外部の傭兵組織と関係しているなど、聞いたことがない。
そんなことを考えながら、グラスランナーと一緒に駅長室へ戻る。これでシュダーガート周辺のポリクラブは勢いを失うかもしれない。公聴会で反ドワーフ派議員をあぶりだすこともきっと、できるだろう。それでなにか変わるのだろうか。ドワーフを取り巻く環境はよいものになるのか。ポリクラブを壊滅させても差別がなくなるとは限らないのだ。いや、考えなくていい。いまは自分の職務を全うしなくては。
しばらく自分の机で書類束に目を通していると、ドワーフの職員がやってきた。
「駅長にお話があるという方が来ています」
「私に? 誰だね」
「中央政府の者だと言っていました。人間が二人です。貨物列車の運用本数について話したいことがある、と。緊急のことだそうです」
嘘だな。そう直感する。駅長はソファに腰掛けていたグラスランナーに目配せした。彼は小さく頷く。駅員の方も事情を察したのか、表情が強張っていた。
「部屋にお呼びしなさい」
「わかりました、駅長」
駅員がドアを閉めてから、机の引き出しを開ける。鈍い光を放つ大口径の拳銃を手に取り弾倉を確認する頃には、グラスランナーはナイフを抜いて扉の横に張り付いていた。
やがて、扉が開いた。
「こちらです、どうぞ」
駅員が促すまま、二人の男が入室した。
その刹那、男たちの背後で動きが起こった。駅員が男の一人を後ろから蹴倒そうとしたのだ。ほぼ同時に、グラスランナーがもう一人へナイフを翳して襲い掛かる。
男たちの反応は早かった。蹴りこもうとした足を一人が掴んで引き倒し、部屋の中へ放り込む。そのついでとばかりにドアを閉める。
もう一人がグラスランナーの攻撃に対処、ナイフを持った手を受け止め、捻り上げる。骨が軋み、ナイフが床に落ちて硬質な音を立てた。
ここまでがほぼ一瞬の出来事だった。
「そこまでだ、動くな」
椅子に腰掛けたまま、駅長は銃を構えた。素人でも当たる距離だ。
グラスランナーを捻り上げていた男は彼を床に投げ出し、駅長に目を向けた。中肉中背で、服装は小奇麗だ。しかし双眸には野性的を通り越したある種獰猛な輝きを湛えており、隠しきれない凶暴性が滲み出ていた。口の周りには短く髭が生えていたことも合わせて、まるで肉食獣のような面構えだ。
「ご厚い歓迎をありがとう、駅長さん」ともう一人の男が言った。
もう一人の男は、髪を短く刈り込んでいた。見ようによっては精悍な顔つきかもしれないが、顔に張り付いた邪悪な笑みが全てを台無しにしている。笑みを浮かべたまま、男は部屋に引き込んだ駅員の顔を激しく蹴りつけた。折れた歯が床に転がる。
「ギュンター」肉食獣のような男が言った。訛りが入っている。「ドワーフというのは、みんなこんな馬鹿なのか。あんな銃一丁で俺たちをどうにかできると思うほどの」
「そうですよ、アンド……アンドリューさん」と邪悪な笑みを消して、もう一人が答えた。「一目見て、俺たちがどういう人種なのかわからないらしい」
「フム、どうしようもないな。奴隷がお似合いだという君らの主張もむべなるかな、といったところか」
「黙れ」と駅長は震えを抑えながら銃を構えなおす。
アンドリューは歯をむいて笑った。肉食獣のような顔だが、牙までは生えていない。
「撃ってみるかね。試してみたまえ。ただ、銃声を聞きつけて誰かが来る、などとは考えない方がいい。すでにこの部屋は空間的に遮断した。音が漏れることはないし、ドアを開けても入ることはできない。それに――」
こいつは、意力使いか。反射的に、駅長は引き金を引こうとする。この口径なら数発で意力障壁を抜けるはずだ。
「黙って撃たれるつもりもないんでね」
撃鉄が落ちる前に、駅長の手首から先が飛んだ。断面から噴き出る血が空中で軌跡を描く。
「う、ぐ、むむぅ」
手首を押さえて、駅長は呻いた。押さえた手がさらに吹き飛ぶ。代わりに、手首からの激しい出血が止まった。見えない何かで蓋をされているように。
「すぐ死なれても困るからな。止血させてもらった。下手に動かなければもう片方の手も無事だったろうに。ああ、礼には及ばんよ。言う気もないだろうしな」
「お前らは、やはり、ポリクラブか」
床に引き倒されていたドワーフが立ち上がりながら言った。
「正解。そら、ご褒美だ」
また顔に蹴りを入れた。嫌な音がした。駅員はたまらず蹲る。今度は鼻が折れたのかもしれない。溢れる血が髭から滴り落ちている。
「アンドリューさん、このドワーフは始末しちまっていいですか」
「構わん」
「ありがてえ」
ギュンターはおもむろにナイフを拾った。切っ先を駅員に向ける。
「ばきゅーん」
刃が破裂した。金属片が礫となって駅員の顔を刺し貫いていく。顔面と後頭部に赤い点がいくつも描かれていく。鉄片が頭蓋骨を貫通した証拠だ。やがて赤い点が盛り上がって玉となり、そして幾筋も流れていく。脳を破壊された駅員は即死だったろう、断末魔を上げることもなく樽のような身体がくずおれる。
「う、ううっ」
グラスランナーは尻餅をついた姿勢のまま目を見開いた。突然訪れた理不尽な死に対する恐怖。
「なにが、目的だ。なんのためにこんなことを」
出血ではない、別の理由で駅長の顔は青ざめていた。報復の可能性は考えていたが、意力使いをよこしてくるとは思っていなかった。後悔しても遅い。どうにか切り抜けなくては。
「昨日、どこかの誰かさんのおかげで、支部が一つ大打撃を受けてな」とアンドリューが吊り上がった眉を動かしながら言った。「おまけに支部長も拉致されたときたもんだ。この辺での活動に支障が出る。その報復だ」
アンドリューが続ける。
「ついでに情報収集だ。あんたが自治領と深い関係にあることは知っている。出先機関的な役割を果たしていたんだろう。今回の件は、自治領の指示だな。実際に手を出したのは人間だったそうだが、そいつは何者だ。自治領は人間の手下を抱えているのか。意力使いだったとも聞いているが、同じような奴が他にもいるのか。それから、マルティンをどこへやった。どういう経路で、どれだけの護衛をつけて、どこへ向かっている。教えろ」
「なんのことだか、さっぱりだな。わたしはただの駅長だ」
「ふざけるな」
素早く滑り寄ったアンドリューが駅長の髭を掴んだ。頭ががくりと揺れる。刺すような痛み。髭が何本か引き抜かれたらしい。
「仮に知っていたとしても、教えるつもりはないな」
それでも、駅長は毅然とした態度を崩さない。
「ギュンター」
「はい」
言われて、ギュンターはグラスランナーへ歩み寄る。そして足を持ち上げて向こう脛を踏みつけた。骨があっけなく折れて、骨折部が肉と皮膚を突き破って露出する。
「あぎいいいいいいいぃぃっ」
悲鳴が響いた。仲間を傷つけられて、駅長は胸の奥を引っかかれたように感じる。駅員を殺され、今度はグラスランナーを。同時に、熱い怒りが。人間の、薄汚いクズが。
「かわいそうに。お前が黙っていると、もっとひどいことになるぞ」
「……知らん。本当に知らんのだ。だから――」
「そうですか」
アンドリューの後ろで、グラスランナーの腹につま先が突き刺さった。ギュンターが面白がっているような顔で蹴りつけている。五発目でグラスランナーが吐血した。
「ワオ、大変だなあ。胃が破れたかな。それとも他の内臓かな。優しくない上司を持つと苦労するよな。肋骨も何本か折っとくか」
「やめろ。もう、もういいだろう」
駅長の悲痛な叫びは、しかし二人の魔人には届かない。
「では喋ってもらわないとな」と冷淡な口調でアンドリュー。
「だから、知らないと言っている」
「強情な人だ。ああ、人ではなかったな」
髭が、皮膚ごと引き剥がされた。焼け付くような痛みに駅長は苦悶の声を上げる。アンドリューが思い切り髭を引っ張ったのだ。むしりとられた肌の下から血が滲む。
「まだ続けるか。髭がなくなれば今度は頭髪をむしるぞ。ああ、ギュンター、そっちもまだ殺すなよ」
「わかってますよ、アンドリューさん。すぐ殺しちまったら面白くないですからね」
いまやギュンターは、グラスランナーの頭を踏むように蹴っていた。グラスランナーの口の周りは血でべっとりと汚れている。鼻血も出ている。右目の上が大きく腫れあがってもいた。
こいつらは、自分らが知っていようといまいと、最初から痛めつける気だったのだ。残虐な方法で、思い切り。駅長はそれを理解する。殺しだって平気でやってのけるだろう。そういう目をしている。
「やめろ……やるなら、わたしをやればいい」
「自己犠牲か。素晴らしい。だがな、そういう奴ほど他人の痛みに弱いものだ……ギュンター、そいつの指を落とせ」
「はいさ」
恐怖で顔を歪め、這って逃げようとするグラスランナーの右手の甲にナイフが突き刺さった。ギュンターが懐からナイフを抜き、投げたのだ。床に手を縫い付けられ、グラスランナーは涙と鼻水と喚き声を撒き散らした。
「あぐうぅぅ、痛い、痛いいいいいいっ」
「おいおい」ギュンターは苦笑した。「ついさっきは俺たちを殺そうとしたくせに、自分がやられる番になったらこれかよ。根性ねえな」
もう一本、ナイフを投げてグラスランナーの左手も縫い止める。そしてギュンターは、突き刺さったそれを、ぐりぐりとかき回すように動かした。傷口から肉が裂けていく。
「あいええええええっうああああっああっあああああああっ」
床の上でグラスランナーは絶叫した。背筋を限界まで反らして、口から泡を吹きながら。
「どっちからがいい? 右手か左手か。親指からか、小指からか」
大振りのナイフを手に、ギュンターは問うた。顔にはやはり邪悪な笑みが浮かんでいる。グラスランナーはくしゃくしゃの顔を横に振って「やめてくれ」と懇願するだけだ。
「しょうがない、俺の好みでやらせてもらおう。右の小指からいくか」
「や、やめろっ」駅長が叫ぶ。
「喋る気になったか」
「残念もう遅い。そりゃザックリ」
ナイフの刃が、無理やり開かせたグラスランナーの小指に沈んでいく。一思いに切断せず、ゆっくりと、じっくりと。途中で骨に当たる。鋸のように前後する刃。ごりごりと嫌な音を立てて、それでも刃は指の中に埋まっていく。
「がああああああああっ」
「そりゃっ、小指一本いきましたー」
切り離した小指をギュンターは誇らしげにつまんでみせる。グラスランナーはその足下でひくひくと痙攣していた。
「よし、せっかくだから全部やっとこう」
同じように、右手の指を、それが終わったら左手の指も全て切断してしまった。作業の間、グラスランナーの悲鳴は途絶えることはなかった。
「まだ殺すなよ」
「わかってますよ。次はドワーフの方をやってもいいですか」
「そうだな。先ほどからやるなら自分を、と言っていたことだし、願いをかなえてやろう」
逃げられない。冷酷な四つの瞳に射られながら、駅長はそう痛感した。グラスランナーを助けることもできまい。最初から、殺す気だったのだろう。自分には何もできないのか。クズどもにされるがまま、殺されるしかないのか。
いや、こいつらが喜ぶようなことなど、決してしてやるものか。これ以上無様な叫びを上げるまい、と駅長はゆっくりと歩み寄るギュンターを見据えながら、そう決心した。それがこいつらに対するささやかな抵抗なのだというように。
「アンドリューさん、俺に任せてもらっていいですか。ちょっと試したいことがあるので」
「よかろう」
「では、お言葉に甘えて。暴れられちゃ面倒だから、まずは足から」
ナイフが閃いた。駅長には途中で刃が消えてなくなったかのように見えたが、実際には数十個に分割されていた。一つ一つは小さいが、牙のように尖っている。
分かたれた刃は嵐となって駅長の両膝を舐めるように切り刻む。肉片が飛び散る。膝から少し下の部分が削ぎ落とされ、糸のような肉で繋がるだけになる。それも切られる。駅長の視界が苦痛に歪み、食いしばった歯が軋んだ。切り離された両足がごろりと転がる。
いつの間にかギュンターの持つ柄に鉄片が寄り集まり、ナイフの形を取り戻していた。表面は血まみれだ。それを弄びながら、ギュンターは脂汗が浮いた駅長の顔を覗き込む。
「喋ろうぜ、駅長さんよ。すっきり話せば命だけは助けてやる。ま、ここまでぐちゃぐちゃにしたら、よっぽど腕のいい治癒師にかからない限り、足はもうくっつかないけどな」
「こと……わ、る……」
知っていても、絶対に話すものか。
「そうこなくっちゃ」
冷笑。瞬間、ギュンターの腕が霞んだ。二度、細く、高い風切音が鳴る。
股間に激痛が走った。
駅長は声にならない唸り声を上げた。砕けそうなほどに歯を食いしばる。眼球が飛び出さんばかりにせり上がる。そして駅長は荒く息をつきながら、恐る恐る、首を動かして視線を下げた。
服ごと、駅長の男性器は十字に切り開かれていた。
根元までばっさりと。裂けた肉がだらりと垂れ下がっている。血が太腿を濡らし、ぼたぼたと湿った音を立てて床に赤い水たまりを作っていた。
「うぐ、むううううぅっ」
それでも駅長は悲鳴を必死で押し殺した。どれだけ切り刻まれようと、何も喋らない。そう決めたのだから。
「しぶといな」とアンドリュー。「ここまでやっても言う気にならんか。本当に知らないのかもしれん」
「もう少し続けましょう。次は、そうですね、グラスランナーの指でも食わせてやりますか。生きたまま生皮剥がしの刑ってのもありますよ」
「……言う、言うから、もう、やめて、くれ」
言ったのはグラスランナーだった。言うな、と叫ぼうとするが、ギュンターの手が口を塞ぐ。どちらにしろ殺されるだけだ。拷問するような奴らが慈悲を見せるなどありえない。
「マルティンは、今日、列車に乗せて、自治領に送った。護衛は三人。流れの、傭兵、だ。何者なのかは、知らない。本当に」
「それだけか」
「嘘臭いなあ。ほい」
「があああああああっ」
小さな輝きがグラスランナーの右目を掠めた。苦痛に閉じた目蓋の隙間からどろりとした液体が流れ出し、頬を這い伝っていく。
「本当かー? 本当に本当かー? 嘘だったらキンタマ微塵切りだぞ」
「本当、だ」
「どうやら、事実のようだ。ドワーフの顔を見ればわかる」とアンドリューが冷えた声音で言った。
駅長の苦痛に耐える決意は徒労に終わってしまった。脱力感が痛みと一緒に全身を支配していく。
「参りましたね。いまから追いかけても間に合わない」とギュンター。
「ここから自治領へ向かうとなると、ファンクファートで一度停車するだろう。今日はそこで列車襲撃の予定があると聞いていたが」とアンドリューが返す。
「ヒンケルが上手くやってくれることを祈りますか。足止めぐらいにはなるかな。最悪、自治領に入ったところで奪還作戦を展開することになるかもしれません。そちらを前提に動いた方がいいでしょう」
「正規軍に保護される前に取り返したいところだな」
「はい、さすがに兵の質も、意力使いの層も違いますからね。自治領の自警団だけなら何とかなると思いますが。さて――」
ギュンターは片手に一本ずつ、大型のナイフを構えて駅長を一瞥した。
「情報提供、ありがとさん。俺からお礼をさせてもらうよ。ドワーフとグラスランナーの友情を称えるオブジェだ」
返す言葉もなく、駅長は呆然とギュンターを眺めている。もう、何もできない。ああ、あああ、なぜ、なぜ喋ってしまったのだ。せめて耐えることで一矢報いようとしていたのに。
そこで駅長の思考は強制的に中断させられた。
「ごおっ」
先のない両手をナイフが貫いた。椅子の肘掛も一緒に、串刺しになる。
そして腹部にナイフが深々と突き刺さった。刃先はドワーフの厚い脂肪を貫通し、腹壁まで届いていた。そのまま、横一文字に切り進む。ぞぶぞぶ、ぞぶぞぶと。緩慢な動作で腹を開かれていく。
「ぎいやああああああああああぁぁぁぁぁっ」
それが誰の叫びなのか、駅長にはわからなかった。叫んでいるのは自分なのか。考えを巡らせることも、できない。苦痛と、腹壁を切り進むナイフの感触だけが駅長の内側を占めている。
「ごふ、ごふっ、やめ、やめてくれええええぇぇぇぇ、あぎいいいいいいぎぎぎぎ」
血の塊を吐き出しながら、駅長は叫んだ。足は落とされ、手は椅子に固定されているため、暴れることもできずに身体と喉を震わせるのみだ。
割った腹から零れた腸を、ギュンターが掴み出す。それを引きずりながら、グラスランナーに歩み寄る。駅長はその背中を虚ろな表情で眺めている。目に薄膜が張ったように、はっきりとしない。視界が霞む。ひどく、眠い……
すぐにグラスランナーの悲鳴が聞こえた。仰向けにした彼の腹を裂いているのだと、辛うじてわかる。ギュンターが先ほどしたように腸を引きずり出し、駅長のそれと結ぶ。
駅長とグラスランナーは、腸で繋がった。
「ご覧ください。二つの種族の友情を端的に表した芸術作品です」
面白がっているような、声。しかし駅長からは怒るだけの気力も失せていた。呼吸がつらい。逆流した血のせいだ。やるなら、早く、楽にしてくれ。
「お遊びはそこまでにしろ。ファンクファートに戻らねばならないんだからな」とアンドリューが咎めるように言った。
「では、これにて」
芝居がかった仕草でギュンターはナイフの切っ先を駅長とグラスランナーに向けた。金属の煌き。刃の欠片が胸に、首に、頭に、無数に突き刺さる。
駅長が得た最後の感触が、それだった。目の前が暗くなっていく。失意のまま、駅長の意識は闇に落ちた。




