This dog kills racist(5)
背後で、ドアが強くノックされた。
「入れ」とマルティンが許可を出すと、構成員が憔悴した顔でやってくる。
「どうした」
構成員は焦りながらも話し始めた。
部屋の外からガラスが割れる音が聞こえた。ほとばしるような殺気を感じてドニは思わず身震いする。構成員がドアを閉めて鍵をかける。続いて、怒号と銃声。構成員の様子から、なにか不穏なことが起きているのは明らかだ。誰かに襲撃されているのだろう。
「敵か」とマルティン。「一人というのは間違いないのか。意力使いであることも」
構成員はうなずいた。
「フム、シュダーガートの衛兵たちは買収済みだが……どこの者だ、なにが目的だ。わたしを殺そうとでもいうのか、面白い。キョッヘッハーッ」
マルティンの顔に狂気の笑みが浮かぶ。
「トビアス、迎撃しろ。マックスくん、きみもだ」
「入って早々仕事ですか」とマックスはやる気なさげに言った。「先輩の仕事振りを拝見してから、じゃあ駄目ですかい」
「申し訳ないが、先ほども言ったように、われわれには熟練の兵士がほとんどいなくてね。意力使いもトビアスだけだ。他の支部に援軍を頼んでいるが、まだ届いていない。きみの力が必要なのだよ」
トビアスが、やはりアルマーニュ語で何か言った。マルティンは苦笑する。
「自分だけでも大丈夫、か。そう思いたいが、万が一のことがあってはいかんからな。貴重な意力使いを死なせるわけにはいかないんだ。む」
通路からまた銃声が響いた。連続したそれらに悲鳴が混じる。かなり、近い。ドア一枚隔てた向こう側では殺し合いが行われていることを、ドニは意識する。また、人が、死んでいる。なぜ人は人を――他者を殺すのだろう。
「わたしはここを離れる。トビアス、マックスくん、頼んだぞ。兵を掌握し、援護に向かわせるからそれまで持ちこたえてくれ。他の者はわたしと一緒に来るんだ」
マルティンは席を立ち、隣の部屋へ向かう。構成員たちもそれに続く。
ついていくべきか、ドニは迷う。
そのとき、マックスがドニを一瞥する。チャンスだ。そう言っているような気がした。ドニはファニアの顔を見る。彼女は小さくうなずいた。トビアスという意力使いがマルティンから離れるのだ。好機だ。護衛は意力使いではないらしいから、ドニとファニアでも制圧は不可能ではない。
胸にわだかまりを抱えたまま、ドニはマルティンたちに続いた。そうするしかない。ここで戸惑いを見抜かれ、怪しまれてはならない。マルティンを捕縛し、ドワーフへ引き渡す。そして列車に乗ってドワーフ自治領へ行く。旅をここで終わりにするわけにはいかなかった。
それはわかっていても、マックスと離れるのは不安だった。強く、気高く、堅固な意志を持った人。自分がいま感じている不安や、疑問の答えを、彼ならきっと持っているはずだ。ドニはそう思う。誰が相手でもマックスは負けはしないだろう。それはわかっている、でも、頼むから、こんなところで死なないでくれ。
ドニの肩に、ファニアの手が触れた。彼女は小声で囁いた。
「あいつのことだから、きっと大丈夫。それよりわたしたちは、わたしたちにできることをしましょう」
ドニはファニアに向けてうなずいた。できることをするしかない。心地いい言葉だった。たとえそれが、マルティンが告げた命題――生き物の本質は邪悪であるという、そのことを考えずにすむための口実にしかならなかったとしても。
◇
マルティンたちが部屋を出ていってから、トビアスは施錠されたドアの横に張り付いた。外の気配を窺っているようだった。太い眉をしかめて息を殺している。構成員たちの抵抗はまだ続いていたが、戦況は芳しくないようだ。突破されるのは時間の問題だろう。
この意力使いが本格的な戦闘訓練を受けた者でないということは、マックスにはよくわかった。彼は銃を持っていない。いくら意力に優れていても、それだけで敵を倒せるとは思わないほうがいい。少なくとも、自分はそのように教えられた。また、銃を持たないということは敵に自分が意力使いであることを教えるようなものだ。情報は可能な限り秘匿すべし。それが正しいものである限りは。
「意力使いとの戦いは初めてか」とトビアスが聞く。
「ええ、初めてが最後にならなきゃいいんですが」
「俺もだ」
「そうですか。お互い死なないように気をつけたいもんですな」
模擬戦闘を含めれば数え切れないほどだが、それは言わない。
「この部屋を目指して近づいてきているみたいだな。やはり目的はマルティンさんか」
マックスは背中からライフルを下ろした。弾倉を確認し、安全装置をはずす。
敵の目的はマルティンではないだろう、とマックスは考える。居場所がわかるんならいちいち騒ぎを起こす必要はないはずだ。こっそりと忍び込んで始末すればいい。殺害が目的なら自分もそうしただろう。
では敵はなにがしたいのか、というと、それはマックスにもわからない。いや、心当たりがないわけではなかった。ファニアを追う影の兵という可能性。いや、だがしかし、ここまで尾行されてはいなかったはずだ。足跡を辿る? それも無理がある。でなければにおいか。ああ、面倒くさいったらない。
「そういえば、おまえはなぜポリクラブに入ろうとしたか、聞いてなかったな。マルティンさんの代わりに聞いてやる。生きているうちに、話せ」
「理由はいろいろありますがね、ドワーフとかはもともとあんまり好きじゃあありやせんでしたし、ポリクラブは結構羽振りが良いって話を聞いたもんでね。傭兵やってると金払いが悪い雇い主ばっかりでさあ」
嘘八百もいいところだが、それを信じたのかトビアスは苦笑した。
「ずいぶん現実的な理由だな」
「そういうあんたは、どうしてですかい」
「マルティンさんは恩人なんだ」険しい表情を崩さず、トビアスは話し始めた。「俺は、昔から意力を使えた。ひょっとしたら、生まれつきかもしれない。ただ自分が他人と違うことだけはわかっていて、だがその意味まではわからなかった。それを知りたくて、力を振るったよ。主にドワーフに向かって。人間が作った国なのに、なんでドワーフどもがのうのうとしてるんだってな」
早口でトビアスは続けた。マックスは黙って聞きに徹する。
「あの頃はひどかった。ドワーフにいい顔する人間も一緒にぶん殴ったり、ぶん殴られたりした。撃たれそうになったこともある。そんなときだ、マルティンさんにスカウトされたのは。あの人、俺を見てなんて言ったと思う? 『きみの暴力は、目的のない暴力だ』って。少しカチンときたけど、その通りだった。俺は目的もないままに、ただ力を振るうことしかできなかった。あの人にはそれが、わかっていたんだ。その時思ったんだ、他の奴がくれなかった、俺に力が与えられた意味を、この人はくれるんじゃあないか、ってな」
「へえ、あの人が。ただものじゃあないってのはつい先ほど嫌というほど思い知ったけど、そういうところもあるんですなあ」
「マルティンさんは……おまえも見たとおり、ちょっと変なところもあるが、いいところもあるんだ。俺たちはそれをよく知っている。だから、役に立ちたいと思う。自分の人生を無意味なまま終わらせたくない。人間として当然の欲求だ。違うか」
なら、もっと別の形で自分の力を誰かの役に立てたいと思わないのか。マックスはそう言いかけて、やめる。まだこいつとは表向きは仲間なのだから。きっと短い付き合いになるだろうが。
もちろんいまここでその付き合いを終わらせることもできるのだが、マックスにそのつもりはなかった。誰かの役に立ちたい、自分の力を無意味なままにしておきたくない、というトビアスの言葉は、理解、というよりは共感できるものだったから。
共感か。マックスは内心で一人ごちる。敵にそんなものを抱くべきではないのに。
戦闘においては鋭敏でありながら愚鈍であれという矛盾したことを教えられたものだ、と過去を思い出す。それはようするに、敵の動きや小さな変化を見落とさず、しかし敵の内面を慮ってはならないという警句だった。敵を殺害するとき、敵を自分と同じ人間として認識する必要はない。敵にも家族、友人がいるのだろうかと考えていては、敵を殺せない。
そのときが来たら、自分はこいつを撃てるか、とマックスは自問してみる。大丈夫だ、撃てる。なにを言おうと、こいつも種族差別主義のクズには違いない。
数え切れないほど殺してきた自分も、傍から見れば同じようなものなのだろうな、と自嘲しながら、そう思った。
トビアスが手振りで、敵の接近を知らせた。
ドア下の細い隙間から、敵の影が見える。真正面に立っている。マックスは素早くライフルを構えた。ドアごと撃ち抜くつもりだった。ライフル弾は木製のドアを容易く突き破り、肉に食らいつくだろう。
発砲する直前、マックスは足下をすくわれた。文字通りに。室内の家具が音を立てて倒れる。本棚が中身を床にぶちまけ、机も、椅子も、ひっくり返る。足が地面から離れ、宙に浮いたような感覚。天井が見える。仰向けに倒れそうになるが、手をついて体勢を立て直す。トビアスは反応できずに転倒する。苦悶の声。
なんだ、これは。意力攻撃か。ドアの下の隙間からなにかが引っ込んでいくのが見えた。ロープを操って足を引っ掛けたのかとマックスは疑ったが、引っ掛けられたような感触はなかった。ロープが入ってくるところも見ていないし、それで室内の家具全てを引きずり倒せるとも思えない。どういう意力の使い方だ。
いや、いまはそんなことどうでもいい。考える前に撃て。撃ってから考えろ。マックスはライフルを構えなおし、今度こそ発砲した。銃弾がドアを貫く。しかし手ごたえはない。体勢を崩しかけたときに、敵はすでに射線から逃れていたようだった。
「くそ、が」
トビアスが倒れたまま手を振る。ドアの上半分が音を立てて粉々になった。その穴からなにかが投げ込まれる。手榴弾だ。マックスは飛びずさって倒れた机の裏に隠れる。くぐもった爆発音が耳朶を打つ。普通に爆発したのではない、とすぐにわかった。破片が飛んでこない。
机の裏から顔を出すと、トビアスはまだそこにいた。意力をどう使ったかは知らないが、爆発を防ぐことには成功したらしい。
「おぉ、切り抜けたか。やるじゃん」
乾いた拍手と共に、楽しんでいるような声がした。
「その発音は、獣人か」立ち上がり、トビアスがうめくように声を絞り出した。「ドワーフの次に薄汚い種族が、なんの用だ」
「いやあ、ここって、あれだろ、人間至上主義団体、ヒューマニス・ポリクラブのアジトだろ」声の主は姿を見せぬまま続ける。「おまえらには用はないんだがな、クソ人間ごときが粋がってるのもムカつくし、お仕事ついでにちょっといじめてやろうかな、って思っただけだよーん」
「構成員を、仲間を殺したのか」
「ああ、手ごたえのない連中だったぜ。さっくり殺してやったさ。へんてこなロボットには面食らったが、一体ずつならどうってことないな」
「貴様」トビアスの顔にはっきりと、怒りの色が浮かんだ。
トビアスが手を突き出す。ドアの枠が抉り取られてはじけた。だが敵に当たったわけではない。こいつの意力は視界外の目標を直接攻撃できないようだ、とマックスは分析する。
「おぉ、怖い怖い」とおどけた声。
「おまえ、さっき仕事ついで、と言ったか」とマックスは聞いた。
「言ったよ。言ったがどうした」
「本来の目的は、なんだ」
「いまから死ぬ奴に教えてもしょうがないと思うんだけどな。ま、死ぬんなら教えてもいいか。ある女が持ってるブツを回収しに来たのさ。女は殺してもいいっていうから、引き受けた。報酬もよかったしな。そんだけ」
「影の兵か」と忌々しげに、トビアス。
「そのとーり」なにが面白いのか、敵は楽しげな口調を崩さない。
こいつはファニアを追ってきたのか。予想はしていたが、現実になるとは。嫌な読みばかり当たるものだ、とマックスは思った。まぁ、世の中はそんなものだ。
「でもおかしいんだよなあ。なーんでポリクラブのアジトなんかにいるんだ? 人間以外はみんなゴミクズのように思ってるんだろ、おまえら。処刑するつもりだったってんなら話は別だが」
「なんの、話だ……」
トビアスは話をよく飲み込めていないのか、当惑している。
「気づかないおまえらが間抜けってだけさ」と嘲笑うような調子で、敵は言う。「これだから鼻が利かない人間は――」
敵が言い終わる前に、マックスは手榴弾のピンを抜いて、投げた。トビアスが吹き飛ばしたドアの穴へ。意趣返しのつもりだった。
破裂音。いや、防がれた。音がおかしい。爆発する前に、なにかに包まれたような音だった。
「やりやがったな」
ドアの穴から銃だけを出して、敵が発砲した。機関拳銃。マックスはすぐに頭を下げる。
しかし着弾音がしない。どういうことかと訝って遮蔽から顔を出すと、弾丸は空中で止まっていた。運動エネルギーを完全に殺され、ぽとりと床に落ちる。トビアスが意力を使ったらしい。意力障壁を離れた場所に出すことができるのか。せいぜい利用させてもらおう。マックスは冷静にそう考える。
マックスは盾にしていた机を蹴り飛ばして、ドアの残骸にぶち当てる。蝶番がはじけ飛んでドアが完全に吹っ飛ぶ。それから即座にトビアスが通路に躍り出た。
「けぇっ」
「ぬぅっ」
二つの叫びが絡み合い、トビアスが意力発動を完了させるより早く、その身体に薄い、布のようなものが覆いかぶさるのが見えた。あれが敵の攻撃手段か、とマックスは思ったがそれは違った。トビアスはそれを軽々と、片手で払いのけてみせる。負傷した様子はない。
マックスは半身だけを出し、左撃ちの姿勢でライフルを構えた。わずかに離れたところに、犬頭の獣人が膝立ちで床に手をついていた。その目には殺戮の愉悦が渦巻いている。
狙いを定める必要もない、撃てば当たる距離だ。引き金を引く、三発。
しかし、弾は当たらなかった。獣人の足下の床が大きくめくれ上がり、壁になって銃弾を防いでいた。
それで、マックスは敵の意力を理解する。こいつは床の表面を操ることができるのだ、と。さっきは床を布のようにして引っ張り、こちらを転ばせたのか。テーブルクロスを抜き取るように。トビアスに投げつけたのはその名残だろう。
めくり上げた床の裏から、敵が再度銃撃を加えてくる。乾いた銃声が連なる。意力を込めているようだが、拳銃弾程度なら自分とトビアスの意力障壁を貫くのは困難だろう。事実、トビアスに襲いかかった銃弾は全て止まっていた。マックスはわざわざ意力障壁で止めることはせずに、遮蔽に隠れてやり過ごす。
「かーっ、そいつも意力使いかよ。こりゃかなわん」
その隙に、敵が脱兎のごとく駆け出した。床をめくり上げて作った遮蔽から飛び出し、通路の角を曲がって離脱する。
「追うぞ、マックス」服についた埃を払いながら、トビアスが叫んだ。「奴に同胞を殺した報いを受けさせてやる」
その視線の先には、複数の死体が転がっていた。銃弾で貫かれたもの。胸から下が潰されて、半分ほどの厚みになっているものもあった。そのそばには返り血を浴びてどす黒く染まったロボットの成れの果てが横たわっている。
「奴の意力は、脅威だ。挟み撃ちにしよう。俺が直接奴を追うから、おまえは右から回りこめ」
了解、と小さく答えて、マックスはその場を離れる。トビアスもほぼ同時に動き始めた。
マックスはこの階の構造を理解しているわけではなかったが、獣人が逃げたのは階段の方向ではない、というのはわかって、つまり奴はあくまでもこちらと戦う気なのだ、と判断することができた。
だから、自分たちがいる限り、敵がドニやファニア、そしてマルティンに危害を及ぼす可能性は低い。その点は安心していいだろう、とマックスは考える。あちらで問題が起こらなければ、の話だが、それは心配しても仕方がない。
前方、角の向こうから走る音が聞こえる。敵だ。うまく敵の進行方向へ回りこめたようだ。足音が止まる。敵もこちらに気づいたか。マックスは角に張り付く。
「ちっくしょうが」
悪態をつきながら、敵が射撃を開始した。拳銃弾が壁に当たって跳ねる耳障りな音に耐えながら、マックスはふと気づく。床の表面を操れるなら、壁も操れるはずだ、と。
そう思ったときには、すでに身体が動いていた。壁から背中を離した瞬間に、壁の表面がずれて角の向こうへ引き込まれていく。あと少し遅かったらバランスを崩し、無防備な姿勢で敵の眼前にさらされていただろう。
今度は足下が動く気配を感じた。すぐに上へと跳ぶ。床の表面が皮を剥くようにずるりと流れていく。
かわせたか、と安堵する間もなく、マックスは強い殺気を感じ取った。床の表面が、せり上がってくる。前後に二つ、山のように。このまま着地しては、まずい。腕を突き出す。天井へ。拳を突き込んで身体を引き上げる。すぐ下で二つの山がぶつかり合い、砕け散った。身体を潰された死体はこの攻撃によるものだろう。こういう意力の使い方をする奴は油断ならない。戦い慣れしている証拠だ。
着地し、角から応射する、が、やはり床がめくれ上がってそれを防ぐ。近寄ってぶん殴れば壁ごと吹き飛ばせそうだが、そのまま接近してはリスクのほうが大きそうだ。
マックスは敵を倒す手段を考える。こういう物質、というよりは環境を操作する手合いは、しかし弱点も多い。意力の一般法則として、すでに意力を通された物質は――
「撃てっ」
思考をめぐらせ始めたところで、敵が作った壁の向こう側、すなわち敵の背後からトビアスの怒声が響いた。傍らにロボットを二体引き連れて。異常事態を感知してやってきたものだろう。
ロボットの身体の一部が両開きに開いた。レンズ様の物体が顔を出す。あれは光学兵器だ、とマックスは気づく。レーザーといったか。強力な光を一点に向けて照射する武器。意力で同じことをやるアデプトから教えられた知識だった。
不可視の攻撃が敵に向かっていく。敵は自分を包むように床をめくり上げ、壁が天井まで繋がって通路の真ん中に太い柱を作り上げる。トビアスの意力とレーザーがその表面を削る。破片がぱらぱらと床に降り注いだ。
「身動き取れまい。薄汚い獣人が」トビアスが手を振りながら叫ぶ。「その柱ごと削り殺してやる」
トビアスが手を振るたび、柱がわずかに、しかし確実に抉り取られる。
柱の中の敵は、対抗する手段を持っていないように思えた。反撃がこない、いや、柱の中にいては反撃手段がないのかもしれない。だがそれはおかしい、とマックスは不審に思う。意力をあれだけ多彩に使いこなすほど戦闘慣れした奴が、手も足も出ない状況に自らを追い込むだろうか。
「こいつで終わらせてやる」
一際大きく手を振り上げ、トビアスが吠えた。ありったけの意力を叩きつけようとしているのだ。マックスは痛いほどの殺気を感じる。自分の意力障壁を全開にしても、あれだけの攻撃は防げないだろう。
「死ねっ!」
轟音が響いた。
マックスは見た。突如巻き起こった爆風が、トビアスの身体をずたずたに切り裂くのを。圧力がトビアスをうつぶせに押し倒す。振り上げていた腕は肘の辺りでもげ、赤黒い断面を晒している。そこからあふれる血が床を汚す。背中には無数の金属片が突き刺さっている。そばにいたロボットたちも爆発に巻き込まれて機能を停止していた。
弱弱しい嗚咽を吐きながら、トビアスは床の上でもがいた。破れた脇腹から腸がこぼれる。表面はぬらぬらと、嫌悪感を煽るように光っていた。
敵の攻撃は、手榴弾によるものだった。天井の裏を通して、手榴弾を背後に送り込んだのだ。トビアスの後ろの天井が剥がれ、そこから手榴弾が転げ落ちたのを、マックスはその目で見ていた。
「お、お、おおっ……」
床面が音を立ててめくれ上がる。トビアスが顔を上げた。持ち上がった床材が斧のように振り下ろされた。頭蓋と、背骨と、肉を押しつぶす。足が大きく跳ねあがり、それから幾度か痙攣した後、完全に動かなくなった。
敵の酷薄そうな笑い声が、奇妙な形の柱から発せられた。




