Prologue
アルチョムは昔よりもずいぶん長くなってしまった首をもたげ、巨大な氷の上で天を振り仰いだ。
感覚の目で、空よりもなお高い場所を行く飛翔体を知覚する。
あちこちから、数え切れないほど飛んでくる。
流れ星のように。
その様を眺めて、アルチョムは目を細めた。
遥か昔から囁かれてきた黙示録の日が、今日この時であることを悟ったのだ。
それは有史以前から形を変えつつも、しかし、まるで黄金のようにただの一度も変質しなかった人類の或る営みの最終形態であり、その他の営みを等しく灰燼に帰すものでもあった。善きも悪しきももろともに。
誰によって、どのようにしてこの黄昏が引き起こされたのか、アルチョムには与り知らぬことであった。
ただ一つだけ分かっていることは、自分が生きてきた世界に別れを告げねばならないということだけだった。
寂しさがないわけではない。
もはやその中で生きることのかなわぬ身になれど、かつての面影をわずかに残す故郷の街が、温もり溢れる灯火が消えてなくなることをアルチョムは悲しんだ。
影響は世界の果てであるこの地にまで及ぶだろう。
このまま地上に留まれば、いくら自分でも大きな痛手を受けることは間違いない。
生きる意味なぞとうの昔に失ってしまったアルチョムだったが、従容と死を受け入れる気分にもなれなかった。
そうだ、だから俺はこんな姿を晒して、未だに生きながらえている。いままでがそうだった。そしてきっと、これからも。
吹きすさぶ風雪を打ち払い、アルチョムは力強く羽ばたき―――
ほどなくして、世界は滅亡した。