【小短編】気取りじゃない
「藍ちゃーん」
私は友人の、藍ちゃんの元へ行った。
「ん?」
彼女は大きな目をパチクリさせて私を見た。
「ちょっと、ここの式なんだけどさ」
「あぁ、そこ難しいよね。ここね、意外と簡単で……」
優しくて、なんでも教えてくれる優等生な彼女のことが、私は好きだった。恋愛的な意味じゃない。「友達として」だった。
「ありがとう。藍ちゃん。これで、期末はくぐれるよ」
「ちょっとは勉強しなよ」
藍ちゃんは誰でも笑顔にするような顔で笑った。
「するよー。絶対ね」
「うん、約束ね」
異変に気づいたのは、数日後だった。
「あれ……」
筆箱に入れておいたネコの付箋がない。
おっかしいなー。無くしたかなと思っていた。でも、筆箱を開けっぱなしにしてた私が悪いかーと思っていた。
しょうがない。お小遣いが入ったらまた買お。
「藍ちゃん。ごめん。ここも教えて」
「いいよ。どれかな?」
いつも通り、元気な笑顔で彼女は言った。
「あ、ねぇ、藍ちゃん」
「ん?どうしたの?」
ほんとにごめんね。疑っちゃって。
「付箋がね、なくなちゃったの。知らないかな?藍ちゃんって、私と席が近いじゃん」
ピクリと、藍ちゃんに体が震えた。
「し、知らない」
ガタガタと彼女は震えていた。
「ん……?大丈夫?寒い……?」
「いや、だい、丈夫だよ」
「藍ちゃん?」
「……………………ごめん」
藍ちゃんは小さく言う。
「なに?どうしたの?」
藍ちゃんは、自分のポケットから、私の付箋を取り出した。
「ごめんなさい、ごめんなさい…………」
「何やってんの⁉︎」
驚いてしまった。それで、大きな声を出してしまった。怒ってなどいなかった。今じゃ、弁解するような場所はない。
「その、盗癖で……」
私は乱暴に付箋を奪い返した。
「…………」
「…………」
しばらく、無言だった。
「優等生ぶってたの……?」
思わず、そう聞いてしまった。
「…………ごめん。なりたい自分になってた。ダメだよね。友達の物を取って……信じてたのに…………アアーーーーー‼︎」
藍ちゃんは、沈んだかと思ったら、頭を抱えて大きな声で叫んで何かを吐き出しているようだった。袖から見えたのは、いくつもの切り傷。
「藍ちゃん……………」
藍ちゃんはカバンさえ持たずに、帰ってしまった。
残ったのは、私とカバンだった。
藍ちゃんのカバンを持って帰ってしまった。土曜日は勇気が湧かなくて、届けれなかったけど今日は持っていける決意ができた。
インターホンを鳴らすと、藍ちゃんのお母さんが出てきた。
「あ……藍のお友達?」
妙に沈み込んだ顔をしている。
「どうかされましたか?」
「あの子ね、何回も自傷してたの」
目線は私に向いていない。
「でも、昨日……睡眠薬を大量に飲んで、首を吊ってたの」
「そんな……」
もう、どうしようもなかった。
もう一回だけ藍ちゃんに会いたかった。
お話をしたかった。
あと1日早ければ、藍ちゃんは救われたのだろうか。
でも、私が言ったところでダメだったのだろうか。
そんな考えが巡っていた。




