戦闘ぎらい
「あら、起きたかしら?」
あれ、寝てた……?
「あの後、そのまま倒れちゃったのよ」
「え……」
指先が冷たい。握ろうとしても、力が入らない。喉の奥に、まだ鉄の匂いが残っている気がする。
あの後――あの惨状を見たときだ。
ばらばらの、死体、血にまみれる景色――。
「カルミア、大丈夫?」
「…………っ」
私は、戦闘に慣れていると思っていた。でも、あんなの見たことない。……当たり前だ、私は勝利した戦闘にしか参加していないのだから。あれを、あの光景を見て正常でいられる人間などどこにいるのだろう? 無理だ、少なくとも私には無理。
身体が、震える。恐怖が、私を支配する。
「……カルミア、ごめんなさいね」
その瞬間、少し意識が遠のいた気がした。ぼんやりとした、まるで毒にでも侵されたような。
「……落ち着いたかしら?」
「あ……」
私は気づいた。リリアさんが精神干渉をして私の恐怖を和らげてくれたことに。
「……ありがとうございます」
「良いのよ。……本当は、あまりするべきではないのだけどね」
それはそうだ。精神干渉は――薬にもなるけど、本来は毒。精神力の弱い人間だったら、壊れる可能性だってある。闇精霊は例外なのだろうけど。……それでも危険なのは同じだ。
……でも、あのまま恐怖に呑み込まれていたら? それよりは、全然いい。今は心が凪いでいる。さっきまでの恐怖が存在しなかったかのように。
……リリアさんには申し訳ないことしたね……。
「……ごめんなさい、取り乱してしまって」
「はじめて実戦を見たのだもの。仕方の無いことだと思うわ」
……はじめてではないんだけどね。
「……ルシエルは闘い方が派手なのよ」
「あれが普通ではないのですか、?」
「あれはやりすぎよ。まあ、ああいう戦い方を好む闇精霊もいるの」
良かった……。あんなことしなくていいのね?
「カルミアは戦闘が嫌い?」
「……出来ることならしたくないです」
嫌い。戦闘なんて大っ嫌い。
「そう。それでいいのよ」
「え……?」
闇精霊は闘いが好き。違うの?
「忘れたら駄目よ。……私はもう無くしてしまったから」
リリアさんは諦めたように笑っていて、私にはそれがちぐはぐな印象に思えた。リリアさんも、昔は戦闘が嫌いだったってこと……? 闇精霊でも、人によって違うのかな?
「ご主人様もね、戦闘が嫌いなのよ」
「え、ご主人様が?」
あの魔王が戦闘嫌い?
「ええ。誰よりも平和を望んでいるお方よ」
「……そうなのですか?」
「そうは見えないのかもしれないわね。……でも、あの方がいるから大きな争いが起こっていないの」
……そうなのだろうか。
私は、魔王のことを何も知らない。知らないけど、それでも信じられない。魔王は私を殺した。人を殺すのが、平和を望む者がすること?
……やっぱり私は魔王のことは信じれない。
「カルミア。戦闘が嫌いなら、強くなりなさい。強ければ、あなたも相手も傷つけることなく決着をつけれるのよ」
嫌いなのに、強く――。皮肉だ。
「弱いと、あなたが負けるか相手が苦しむことになるから。それが嫌なら、努力するの。あなたならできるわよ」
……一理あるとは思う。相手に勝てないくらい弱ければ、私は死ぬ。前世みたいにすぐ死ぬかもしれないし、ちょっとずつ痛みにもがきながら死ぬ可能性だってある。私が勝てたとしても、弱いと一撃で殺せないのだ。時間が経てば経つほど相手を苦しめることになる。
それなら、強くなった方がいいのだろうか。それは、どちらかといえば人道的な道なのかもしれない。
でも、そう合理的に考えてしまう私が憎い。私は人間だったはずなのに、少しずつ闇に染まりかけている私を許せない。
……ルーカスには、こんなところ見せられないね。




