闇精霊の先輩
「其方は余の忠実な下僕よ。そうだな?」
「……っ……!」
違う、そんなわけないでしょう、と言いたかった。
だって私はあなたの敵。あなたに殺された。
それなのに、言えなかった。魂が私の叫びを否定する。魂が、私のもののはずなのに他人に握られている――そんな感覚だった。
そう、私は闇精霊。精霊は主の命令に逆らうことが出来ない。もし逆らったら――待ってるのは死だ。
「――返事は無いのか?」
「…………」
したくない、できるわけない――。
「……ほう、おもしろいな」
闇のような深い瞳は、私の抵抗心を弄ぶように見つめている。
……私は、こんなところで生きなきゃいけないの? こんな恐ろしい魔王に生殺与奪の権を握られながら?
ルーカスは今どこにいるの? 会えなくてもいいけど、あなたが幸せに過ごしてたらいいな……
「リリア。其方には今日からカルミアの教育係を命じる」
「かしこまりました」
そう答えたのは魔王の側にいた赤髪の闇精霊。教育係……。私の師匠ということ……!?
『――カルミア、リリアの教えに従うように』
従うわけないでしょ、だって私は従いたくない。
――それなのに。胸の奥に熱が走った。
契約が、私に命令を刻みつける。
「もちろんです、ご主人様」
気づけばそう答えていた。私の声なのに私の意思ではなくて。脳が拒否しているのに魂がそれを受け入れてくれない。
魔王はただ静かにこちらを見ていた。その瞳に映る私は、魔王の所有物でしかない。精霊は主に逆らえない――あれは命令だ。こちらの意思なんて尊重されることなく発せられる。さっきまでの会話は冗談、お遊び。魔王に私が聖女だったって知られれば私は殺される。それだけの力を魔王は持っている――そう実感させられた。
***
「カルミア、よろしくね」
「…………よろしく、お願いします」
魔王の間から出ると、リリアさんと2人きりになった。一見優しそうだけど……闇精霊なのよね。
闇精霊に良いイメージは無い。残虐な殺し方、殺人を快楽とするその生き様……“悪魔”とさえ呼ばれているほど。
……前世でも闇精霊との戦闘はきつかったな……。すぐ転移魔法使われるし、攻撃当たったと思ったら再生するし……。擬態魔法で味方に紛れ込まれたこともあったし。闇精霊は強い上に卑怯なんだよね。
リリアさんは優しそうだけどどうなんだろう……?
「……ご主人様のこと、嫌いなの?」
「へ!?いや、えっと……」
リリアさんは観察力が鋭い? どこでわかった? 彼女は闇精霊の中でも知能が高いのかも。
「隠さなくていいわよ。……あの方は少し不器用なのよね。仲間想いで優しいお方なのだけど」
優しい……? あの魔王が……? 冷酷で心のない魔王でしょう。1度殺された私にはそうとしか思えない。やっぱり闇精霊として生きるのは無理かも……。
「私はいいけど、他の子には言わないようにね。痛い目見ることになると思うから」
「……!?痛い目、ですか……?」
「ええ。ご主人様に叱られるから殺したりはしないわよ。でも、ご主人様のことが嫌いだなんて言ったら無事ではすまないと思うわ。拘束して、火で炙るとか水に沈めるとか……? 痛いだけで死にはしないけどね。あの子達ならやりかねないわ。とにかく、今のあなたには危険なのよ」
火炙り、水責め……?一応仲間ですよね? 仲間にも容赦無いの怖すぎるよ。助けて、ルーカス……。
「だから、あなたも戦い方を覚えましょ!」
「……はい、リリアさん」
もう、逆らう気になんてなりません。闇精霊怖いよ……。
「リリアで良いわよ。堅苦しいもの」
「リリア、さん……?」
「ふふっ。慣れたらでいいわよ」
とりあえずリリアさんは優しめではある……? でも、その瞳の奥に何を隠しているのかは分からない。油断したらだめだよ、私。
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