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爛れた心に口づけを。狂愛の魔帝と、殺せぬ魔女の物語。R15  作者: 島田まかろん三世


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可能性

 シロは飛んだ。


 ◇


 世界セレスが、死んだ。

 月が欠けるように。

 だが、時がそれを成したのではない。

 明確な殺意と、故意の暴力によって、世界セレスは死んだのだ。


 ――俺を置いていくことは知っていた。

 だが、これではない。こんな終わりは、断じて許さない。


「どうせ人間は、先に死にます」


 ロカの無機質な声。それは、魔帝を現実へと繋ぎ止めようとする唯一の、そして冷徹なくさびだった。

 魔帝は、動かぬセレスの前で、崩れ落ちるように両膝をついた。


「違う」


 魔帝は、己の命の源泉である「魔核」を握り締める。


「陛下――」


 その腕を、ロカが強く握る。

 魔帝の呼吸が荒くなる。


「だめだ」


「――ご自分のお立場を。わかっておられますか」


 ――知っている。と、魔帝は思った。自分が消えれば、魔族はどうなる。この国はどうなる。

 だが。

 セレスのいない世界を、俺は世界とは、呼ばない。


 禁忌魔術。

 己の存在を消滅させる代わりに、他者に命を与える。それは、本当に可能なのだろうか。


「叶うとは――思えません」


 ロカが止める。その声は、震えていた。


「だが――0とは限らないではないか」


 魔帝は、悲しげに眉を下げて微笑んだ。その表情は、魔帝の威厳を脱ぎ捨てた、ただの恋い焦がれる男の顔だった。


「陛下――」


「許してくれロカ。だめなのだ。俺は――だめなのだ」


 セレスのいない世界を歩けるほど、自分は強くはない。

 その決定的な「弱さ」を認めた瞬間、魔帝は最強であることをやめた。


「陛下――!!」


 止めるロカの手を振りほどき、ヴェルは、セレスに、自分の魔核を埋め込んだ。


「陛下――!!」


 セレスの体から、黒い炎が立ちのぼる。ヴェルの命の熱が、記憶が、奔流となって、その内に、流れ込むのだろうか。


「陛下――」


 ロカが太く、息を吸った。

 それは、喉を切り裂く慟哭。


「俺を置いて行くな――!!」


 絶叫したのは、ロカだった。

 その瞬間。

 魔帝の体は、淡い光の粒となって、大気に溶けて消えた。

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