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爛れた心に口づけを。狂愛の魔帝と、殺せぬ魔女の物語。R15  作者: 島田まかろん三世


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それぞれの愛

 若き国王は、見世物を品定めするような下卑た目で、ミレアに歩み寄った。


「それにしても。魔女というのはみな、それなりに美しいと思っていたが。これは余程醜い。……豚か?」


 王は嘲笑を続ける。


「なにを喰えば、そんな体になれるのだ」


 妊婦――という存在を、この男は知らないのか。

 無知ゆえの冒涜。


「腫れあがっているとはいえ――元の顔はどうだ? ん? やはり豚に似ているのか? まさか――オークとの混血ではないだろうな」


 ミレアの顔を覗き込み、さらに蔑もうとした瞬間、王の目が見開かれた。

 自分の視界の端で、銀色の閃光が走ったことに気づく。

 首に深く刺さっているのは、何だ。


 ミレアは、隠し持っていたナイフを国王の喉笛に深く突き立てた。グイ、と体重を乗せて力を込め、中を抉り抜く。そして――一気に引き抜いた。


 血が。

 美しい弧を描いて、天幕を真っ赤に染め上げた。


「がぁ……はぁ……」


 王は自らの喉を両手で押さえ、言葉にならない絶叫を漏らしながら崩れ落ちる。


 ミレアは、腹を立てていたのだ。

 親友を傷つけた、この男に。ずっと。


 遅れて動いた親衛隊。だが、彼らが剣を抜くより早く、ルキウスの刃が閃いた。

 数条の銀光。並んでいた親衛隊の首が、音もなく同時に宙を舞った。


「ミレア」


 ルキウスは倒れ込むミレアを抱きかかえ、黒い羽を力強く羽ばたかせた。血の海と化したテントを突き破り、二人は夜空へと舞い上がる。


「大丈夫? ミレア――!?」


 消え入りそうな声だ。あれほど冷徹に人を斬る男が、ミレアの命の灯火だけを恐れて揺れている。


「……平気よ。薬草の毒は皮膚以外には効果はないし、そのうち消えるわ。……ほら――!!」


 ミレアは、腫れた瞼で笑った。


「蹴った――!!」


「ミレア」


 耐えられそうにない――嗚咽を含んだルキウスの声が、風の中に溶けていく。


 ◇


 敵国を率いる王は死んだ。

 伯爵も死んだ。

 だが、セレスは魔力を使い果たそうとしていた。

 星は、地上に降り注いでいた。


(世界など。燃えて、灰になってしまえばいい。人族も、魔族も。すべて)

(世界には――私と、ヴェルと、坊やだけ)


 なんて身勝手な女だろう。


 そしてセレスは杖を抱き締め、ただ、後方へと倒れた。

 ドサリ――と。


 夜空に手を伸ばす。


「ヴェル」


 視界がぼやける。


「ヴェル」


 涙が、頬を伝って落ちた。


(ヴェル。私の故郷すべて。私の人生たましい――)


 そこに、ヘルミスが降り立つ。


「セレス」


 ヘルミスは、セレスを抱き上げなかった。

 伸ばす手を取ることもなく、くうを見詰めるその胸に、手を充てる。


「愛していたよ」


 魔力を帯びたその手は、セレスの心臓を止めた。


 その光景を、一羽の小鳥が見ていた。

 名を返され、今はただの、フロストシマエナガへと戻った小鳥だ。

 そして小鳥は飛んだ。シロとして。伝令として。セレスの伝令としての責任を、果たすために。

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