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爛れた心に口づけを。狂愛の魔帝と、殺せぬ魔女の物語。R15  作者: 島田まかろん三世


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感情

 膨大な魔術式。

 莫大な魔力。

 圧倒する詠唱。


 抑えなくともよい。


 自分の中心に在る感情が、髪の毛一本ほどの道筋を照らしている。


 命令ではない。

 解放したとして、追放もされない。


 ――選んだ、のでもない。


 ただ、残った。

 あるがままを。

 あらゆる枝葉を削り落とし、世界が許す、最後の一点。


 セレスから溢れる魔力が、ごおおおおおおと夜空を歪ませる。


 その只中で、師であるものの視線だけが、動かなかった。


 ――ああ。降る。


 降るのだ。


 もう、名乗ることすら許されない戦場の赤い命を、何千、何万、何億と、消費するための星が。


 ◇


 外の狂乱とは裏腹に、そこには、じめじめとした静寂があった。  

 戦場の後方に設営された、テリア国王の仮設テント。


 中には親衛隊が数人、国王を囲むように控えていた。


 ミレアの顔は、ひどく腫れ上がっていた。

 可憐な顔立ちは歪み、口の端には乾いた血がこびりついている。腕は背後で無慈悲に縄で縛られ、その端を握っているのは、ルキウスだった。


 ルキウスは平然とした顔で、テリアにいた。  

 若き国王は、冷ややかな目で、差し出された「供物」を眺める。


「なるほど。……それを差し出す代わりに、こちらに寝返りたいと?」


 ルキウスは深く、恭しく頷いた。  

 その視線は、自分の子を宿し、はち切れんばかりに膨らんだミレアの胸と腹に向けられる。かつて愛でたはずのその肉体を、彼は今、通行証として見下ろしていた。


「はい。この女は魔女セレスティアの唯一の弱点。これを盾にすれば、()()()を止めることも、魔帝の首を獲ることも容易でしょう」


 ミレアは、声も出さずに国王を見ている。

 若き国王は、薄笑いを浮かべて剣の柄を叩いた。


「もともと、用意していた生贄だ。逃げられて、どうするべきか考えあぐねていたところだ」


 その言葉に、ミレアは反応しなかった。

 泣きもせず、俯きもせず、ただ静かに、そこに両膝をつけている。


 国王は、ミレアを「モノ」としてしか見ていなかった。

 それ以上の役割を、()()に想定する必要が――ない。


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