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爛れた心に口づけを。狂愛の魔帝と、殺せぬ魔女の物語。R15  作者: 島田まかろん三世


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信仰

 上空。ヘルミスは戦場の喧騒から切り離されたかのように、虚空に練り上げた光の椅子に鎮座し、静かに二人を見下ろしている。

 その瞳は、盤上の駒を眺める愛好家のそれだ。


 セレスは、伯爵と対峙していた。


「……意識は、あるのですか?」


「ああ」


 その返答に、セレスの喉が、微かに鳴った。

 呼吸が一瞬だけ、深くなる。


 伯爵の唇は、不格好に吊り上がった。


「……燃えるようだ」


 その瞳が、血の色に変わる。


 地を蹴る衝撃で、草原の土が爆ぜた。

 視界から消えた伯爵が、衝撃と共にセレスの眼前に現れる。


 セレスは瞬時に防壁を展開する。透明な硬質の膜に、伯爵が獣のような指先を突き立て、不快な摩擦音を立てた。

 割れない。  

 セレスの鉄壁の防御を前にして、伯爵は狂ったように笑い、その障壁へ自らの額を叩きつけた。


 ドッ、と鈍い音が響く。何度も。

 目を剥き、額からドロリとした鮮血が溢れても、彼は瞬き一つしない。ただ、壊すことだけを望む飢えた獣の眼差しで、同じ動きを繰り返す。


 パキ、と防壁にひびが走った。


 笑う伯爵の足元。

 セレスはそこに、氷の魔術を作り出す。


 氷が彼の両脚を、深々と大地に固定する。

 同時にセレスは障壁を解き、転移魔術で彼の背後へと飛んだ。


 だが伯爵は、氷に固定された脚など存在しないかのように、上半身を無理やり反転させる。メキメキと骨が砕け、肉が裂ける音。

 伯爵の、腰から下が置き去りにされ、ボトリ――と地面に落ちた。


 セレスは、ほんの一瞬だけ、息を止めた。


 伯爵の断面から血管が這い出し、絡まり、肉を編み上げる。

 そうして、あるべき場所に、再び脚が生まれた。


「……きみは……僕が信じる、唯一の神だ」


 伯爵の視線が、粘つく蛇のように、セレスに絡みつく。


「全部……全部、壊してあげる……」


 セレスは、オリハルコンの杖を構え直した。

 その頬に、血がみなぎ火照ほてるのを、セレスは自覚し、恍惚とした。


「――ああ、伯爵。それは正解だわ」


 笑む。


「バラバラになってもすぐに治るのなら、遠慮はいらないものね。……いくらでも、バラしてあげられる」


 セレスは、歓喜に満ちていた。


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