魔女の卒業試験
一進一退の攻防が続く中、伝令の声が悲鳴のように響いた。
「北の城門が――! 食い破られています!!」
「私が行きます」
セレスは魔帝の言葉を待たず、黒い風となってその場から転移した。
辿り着いた北門は、文字通りの阿鼻叫喚だった。
屈強な魔族の兵たちが、赤色の影――吸血鬼たちの牙によって、紙細工のように八つ裂きにされている。石床は瞬く間にどす黒い血に濡れ、絶望が城壁を侵食していた。
セレスは無言でオリハルコンの杖を薙いだ。
奔った黒い衝撃波は、吸血鬼たちを肉片へと変え、死の淵にいた兵たちが驚愕して見上げる。
「セレス様!!」
「皇后陛下……!!」
「負傷兵の手当てを。ここは、私が引き受けます」
セレスの視線の先。月明かりに照らされた草原に、一人の男が立っていた。
すらりとした長身。麦畑のような金色の髪。湖の底のように静謐で、感情を失った瞳。
――モルヴァン伯爵だった。
セレスは彼の目の前に、羽毛が落ちるような静かさで降り立った。
「……どうして」
震える問い。だが、答えは夜空から降ってきた。
魔術で練り上げた白い翼をはためかせ、光の粒子を撒き散らしながら降り立つ、聖者。
「――やあ」
ヘルミスだった。
その穏やかな微笑みが、戦場の血生臭さの中で異様なほどに浮き立っている。
「地下で見つけたんだ。これを」
「先生が、杭を抜いたのですか?」
「そうだよ、セレス」
ヘルミスは、無表情で立つ伯爵の首筋に、白く細い指先を這わせた。
「これは、僕の血を少しばかり吸って、以前よりずっと強くなった」
聖母のような微笑みを浮かべ、ヘルミスは愛弟子を見つめる。
「やはりきみには、卒業証書を渡すべきではなかったんだ。きみはまだ、何もわかってはいない。……さあセレス。最後の試験の時間だ。これに勝って、僕を絶望させてごらん」
ヘルミスが両腕を広げると、背から白い翼が開いた。




