表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
爛れた心に口づけを。狂愛の魔帝と、殺せぬ魔女の物語。R15  作者: 島田まかろん三世


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/61

失格者

 血の匂いのする空間転移を経て、セレスは自室へと帰還した。  

 待っていたのは、赤子を抱き、落とさぬように必死に抱き締めていたイリヤと、泣き叫ぶ坊や。


「セレス様――」


 セレスは無言で、イリヤの腕から、我が子をそっと抱き上げた。  

 産後の体には、その僅かな重みさえも鉛のように響く。

 セレスは赤子の柔らかな頬に顔を埋め、その匂いを存分に吸い込んだ。何度も、何度も、壊れ物を慈しむように、その背をなぞる。


 赤子は段々と、眠りに落ちていく。


「――坊や。私の坊や」


 そう言うとセレスは、憑き物が落ちたような顔で、再び我が子をイリヤの腕の中に預けた。


「この子を連れて、私の隠れ家へ。今すぐに」


 唐突な断絶に、イリヤの思考が停止する。


「……何を、仰っているのですか」


「この子を託せるのは、世界で貴女だけ。だから、死んでも護り抜きなさい。私の、坊やを」


「――!? そんな……それならば、セレス様ご自身が坊ちゃまと共に行かれるべきです。今ならまだ――」


「いいえ、イリヤ。私はこの国の皇后です」


 セレスの唇が、冷酷な弧を描いた。  

 それは民への慈愛ではなく、魔帝ヴェラルク=ザハ・ヴェルグという男と、地獄の底まで連れ添うという、血塗られた契約の証明だった。


「坊ちゃまにとって、母君はセレス様、ただお一人なのです! 捨てないでください!」


「ええ。……陛下と私の、たった一つの大切な希望。だから――さあ行きなさい、イリヤ――!!」


 まただ――と、イリヤは絶望する。また、イリヤはセレスに送り出されるのだ。

 なんて身勝手な主だろう。最も過酷な役割を「信頼」という名の鎖で縛り付け、押し付けて来やがるのです。


 イリヤは赤子を強く抱き直した。


 溢れ出る涙を拭うことさえ許されず、強制的に開かれた転移の門へと、イリヤは赤子を抱いて、飛び込んだ。


 ◇


 部屋に残されたのは、静寂と、肩に止まった一羽のシマエナガだけ。  

 セレスはその鳥を見つめ、指先でその小さな頭を弾いた。


「名は返してあげる。……もう、私を見なくていいわ」


 命名の契約を解除し、セレスは窓を開けた。


 「さあ、自分の巣へお帰り」


 名もなき鳥は、夜空へと飛び去り、見えなくなった。


 セレスは独り、鏡の前に立った。

 乱れた衣服を整える。それから、鏡に映る自分へ向かって、にっこりと笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ