表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
爛れた心に口づけを。狂愛の魔帝と、殺せぬ魔女の物語。R15  作者: 島田まかろん三世


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/60

魔帝の視線

「杖が折られた?」


 竜人族の杖職人の親方は、セレスの話を聞き終えると、太い腕を組み、大きく息を吐いた。

 工房には、火と金属と、竜人特有の乾いた魔力の匂いが満ちている。


「どうする? 二度と折られたくないなら、オリハルコンで作る手もあるが。相当値が張るぞ」


「かまわないわ」


 即答だった。

 親方は片眉を上げる。


「……オリハルコンはな、持ち主の命を喰う。魔力を増幅させる代わりに、魂に絡みつく金属だ」


「人がいつ死ぬかなんて、誰が知っているの?」


 セレスの声には、迷いも、恐れもなかった。

 それを合図にするように、背後に控えていたイリヤが一歩前へ出る。


 彼女は無言で袋を開き、拳二つ分ほどの宝石を、親方の前の卓へと置いた。

 ――ことり、と。

 鈍い音。だが、その重さは空気を変えた。


 親方は眉をひそめ、宝石を手に取る。

 指先で角度を変え、光を当て、内部の輝きを読む。


「……確かにいい品物だ。だが、これでは足りない」


 相手が支払い能力のある金持ちだと知って、吹っ掛けているわけではない。


「わかっています。これは前金です」


「なるほど――オリハルコンの価値と、俺の技術力。その両方を理解してくれているのだな」


 親方は頷き、炉の方へ視線をやった。


「出来上がりは……半年か……一年はかかる」


 魂を込めて作るのだ。

 金属をただ鍛えるのではない。

 持ち主の命に馴染ませる。


 セレスは頷いた。


「その間、これを使うといい」


 渡されたのは、アダマンタイトが素材の杖だ。前金の宝石は、これを貸してもらえるだけの、信用があるという証拠だった。


 ◇


 セレスはイリヤを伴って、オペラや演劇の鑑賞を楽しんだ。

 ホテルのサロンでは、夜ごと舞踏会が開かれていた。

 見学に足を運べば、必ず紳士たちが声を掛けてくる。


 断る。

 また断る。


 ――面倒。


 だから、セレスは決めた。


「さあ、踊るわよイリヤ」


「ですがセレス様――!」


「陛下と婚約中の私に、ほかの殿方の手を取れと言うの?」


「まさか――」


「だったら、ね?」


 セレスは不敵に笑い、困惑するイリヤの手を取った。

 サロンを埋め尽くす男たちの、値踏みするような視線を、優雅なワルツの旋律で切り裂く。


「イリヤ。もっと強く、私を抱きしめて」


 イリヤは一瞬、目を丸くしたが、すぐに慈しむような、あるいは諦めたような微笑を浮かべた。

 二人の影が、シャンデリアの下で重なり、溶けていく。それは美しい光景だったが、同時に、決して誰も入り込ませない「魔女と従者」の強固な結界でもあった。


 セレスの囁きに、イリヤの腕が一瞬、強張った。主人の命に従い、その細い腰を引き寄せる。だが、どれほど力を込めても、セレスの瞳に宿る「渇き」は癒えない。


 イリヤの温もりは人肌のそれだが、彼女が求めているのは、魂を焼き尽くす魔帝の、あの「暴力的な熱」なのだ。


 肩の上のシロが、じっと二人を見つめている。その黒い瞳の奥に、帝都の執務室で椅子に深く腰掛け、グラスを傾けながらこの光景を「聴取」している魔帝の薄笑いが、見える。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ