幸せな女子会
セレスとミレアは、台所で並んで夕食を作った。
かつての学生寮でそうしたように肩を並べ、野菜を刻む。
食卓には、ルキウスとイリヤも加わった。
お土産だと称してセレスが差し出したのは――ヴェルの部屋にあったので、丁度いいと「勝手に」――持ってきた、年代物のワインだ。
コルクを抜くと、ルキウスは一瞬、畏怖に顔を強張らせた。
ほろ酔いになった頃、セレスとミレアは同じ寝室へ向かった。
扉を閉める際、ルキウスが何とも言えない恨めしそうな、あるいは守るべきものを奪われたような視線をセレスに投げたが、彼女はそれを優雅な流し目で一蹴した。
「……前より、ベッドが広くなってる」
部屋に入ったセレスが呟くと、ミレアは少しだけ頬を染め、布団を急かした。
「ほら、そんなことより早く入って。冷えるわよ」
二人は一つのベッドに潜り込む。隣り合う体温。
セレスは、闇の中でミレアの横顔を見つめた。
「彼とは、そういう関係なの?」
――『堕ちるわよ』と言っていたミレア。
「そうよ」
「先に言ってくれたら、私が別の部屋で寝たのに」
「いいの。あなたとこうして、学生時代みたいに、手を繋いで寝たかったの」
ミレアが差し出した手。セレスはそれを、壊れ物を扱うように握りしめた。
「それで、ミレア。彼とは、結婚するの?」
「するわ。それで、彼の子を産む」
セレスは息を呑んだ。
人族の女が魔族の子を産む。それがこの戦時下でどれほどの禁忌を犯し、どれほどの地獄を招くか。けれど、その危険をすべて飲み込んだミレアの横顔は、セレスが見たどんな魔術儀式よりも、凄絶で、輝いていた。
「彼に似て、耳が尖ってたら、絶対に可愛い。尖ってなくても、可愛いし、細長い尻尾が生えてたら、それも絶対可愛いわ。でしょ?」
「そうね」
セレスは、自分がかつて信じ、乗り越えられなかった「正しい世界の理」の壁を、ミレアの無垢な愛が、いとも簡単に、悠々と超えていくのを見た。
「でも、村のみんなはどうなの? ここはテリア領よ。問題にならない?」
セレスの問いに、ミレアの瞳が僅かに伏せられる。
「この村には、若者がいないのよ」
ミレアの声色が、落ちる。
「みんな戦争に取られて……。残された老人たちは、自分の息子がどこで死ぬかも分からない不安の中にいるわ」
ミレアは静かに笑った。
「ルキウスのことは、みんな最初は怖がっていたけど、どこどこの屋根の補修に人手が足りないとか、畑の水撒きとか、そういうのを手伝い始めて。……今じゃみんな、彼を孫か息子みたいに思ってる」
ミレアは続ける。
「通報を受けてやって来た役人に、村長が『見間違いだ』って頭を下げてくれたわ。通報した人だって、ルキウスに謝りに来たの。……魔族が、こんなに愛される存在だなんて、私、知らなかった」
セレスの胸の奥に、熱い塊が込み上げる。
「私もよ……ミレア。中には、恐ろしい存在もいるけど……それは、人族も同じ。彼らは――愛らし、くて。それ、から……」
セレスの瞼が、重くなる。
けれど、微睡みに落ちないように、握った手に、ほんの少し力を込めた。
ミレアが、それに応えるように問う。
「ねえ、セレス」
「……なに?」
「あなたは、逃げられるでしょう」
それは質問ではなかった。
転移魔術。
魔帝の庇護。
選べる未来。
「ええ」
セレスは、嘘をつかなかった。
「……そう」
ミレアは、それ以上、何も言わない。
今はただ、微睡みの中だ。この夜が、特別だとは、誰も言わない。




