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爛れた心に口づけを。狂愛の魔帝と、殺せぬ魔女の物語。R15  作者: 島田まかろん三世


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幸せな女子会

 セレスとミレアは、台所で並んで夕食を作った。  

 かつての学生寮でそうしたように肩を並べ、野菜を刻む。


 食卓には、ルキウスとイリヤも加わった。


 お土産だと称してセレスが差し出したのは――ヴェルの部屋にあったので、丁度いいと「勝手に」――持ってきた、年代物のワインだ。


 コルクを抜くと、ルキウスは一瞬、畏怖に顔を強張らせた。


 ほろ酔いになった頃、セレスとミレアは同じ寝室へ向かった。

 扉を閉める際、ルキウスが何とも言えない恨めしそうな、あるいは守るべきものを奪われたような視線をセレスに投げたが、彼女はそれを優雅な流し目で一蹴した。


「……前より、ベッドが広くなってる」


 部屋に入ったセレスが呟くと、ミレアは少しだけ頬を染め、布団を急かした。


「ほら、そんなことより早く入って。冷えるわよ」


 二人は一つのベッドに潜り込む。隣り合う体温。  

 セレスは、闇の中でミレアの横顔を見つめた。


「彼とは、()()()()関係なの?」


 ――『堕ちるわよ』と言っていたミレア。


「そうよ」


「先に言ってくれたら、私が別の部屋で寝たのに」


「いいの。あなたとこうして、学生時代みたいに、手を繋いで寝たかったの」


 ミレアが差し出した手。セレスはそれを、壊れ物を扱うように握りしめた。


「それで、ミレア。彼とは、結婚するの?」


「するわ。それで、彼の子を産む」


 セレスは息を呑んだ。  


 人族の女が魔族の子を産む。それがこの戦時下でどれほどの禁忌を犯し、どれほどの地獄を招くか。けれど、その危険をすべて飲み込んだミレアの横顔は、セレスが見たどんな魔術儀式よりも、凄絶で、輝いていた。


「彼に似て、耳が尖ってたら、絶対に可愛い。尖ってなくても、可愛いし、細長い尻尾が生えてたら、それも絶対可愛いわ。でしょ?」


「そうね」


 セレスは、自分がかつて信じ、乗り越えられなかった「正しい世界の理」の壁を、ミレアの無垢な愛が、いとも簡単に、悠々と超えていくのを見た。


「でも、村のみんなはどうなの? ここはテリア領よ。問題にならない?」


 セレスの問いに、ミレアの瞳が僅かに伏せられる。


「この村には、若者がいないのよ」


 ミレアの声色が、落ちる。


「みんな戦争に取られて……。残された老人たちは、自分の息子がどこで死ぬかも分からない不安の中にいるわ」


 ミレアは静かに笑った。


「ルキウスのことは、みんな最初は怖がっていたけど、どこどこの屋根の補修に人手が足りないとか、畑の水撒きとか、そういうのを手伝い始めて。……今じゃみんな、彼を孫か息子みたいに思ってる」


 ミレアは続ける。


「通報を受けてやって来た役人に、村長が『見間違いだ』って頭を下げてくれたわ。通報した人だって、ルキウスに謝りに来たの。……魔族が、こんなに愛される存在だなんて、私、知らなかった」


 セレスの胸の奥に、熱い塊が込み上げる。


「私もよ……ミレア。中には、恐ろしい存在もいるけど……それは、人族も同じ。彼らは――愛らし、くて。それ、から……」


 セレスの瞼が、重くなる。

 けれど、微睡みに落ちないように、握った手に、ほんの少し力を込めた。

 ミレアが、それに応えるように問う。


「ねえ、セレス」


「……なに?」


「あなたは、逃げられるでしょう」


 それは質問ではなかった。


 転移魔術。

 魔帝の庇護。

 選べる未来。


「ええ」


 セレスは、嘘をつかなかった。


「……そう」


 ミレアは、それ以上、何も言わない。

 今はただ、微睡みの中だ。この夜が、特別だとは、誰も言わない。

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