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爛れた心に口づけを。狂愛の魔帝と、殺せぬ魔女の物語。R15  作者: 島田まかろん三世


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居場所

 イリヤが用意してくれた風呂の湯は、以前と同じ温度だった。

 熱すぎもせず、冷たすぎもしない。指先を沈めた瞬間に、細胞が「正しい」と安堵する温度。


 それなのに――。

 セレスは、息を整えるのにほんの少し、時間を要した。


 湯に身を沈める。

 水面が肩まで届き、耳元で小さく音を立てた。皮膚を撫でる感触は柔らかく、疲労も緊張も、確かに溶けていく。

 けれど、胸の奥に溜まった何かだけが、湯に混ざらない。


 沈まない澱のように。


 湯気の向こうで、自分の輪郭がぼやける。

 ()()に戻ってきたはずなのに、どこか、足場が定まらない。


 湯を上がり――用意された寝衣は肌に優しく、ベッドは身体を過不足なく受け止めてくれる。横たわれば、自然と力が抜けた。


 安全だ。

 守られている。


 そう言い聞かせるほどに、胸の奥の冷たい芯が疼く。


 目を閉じれば、瞼の裏にはあの男の瞳があった。

 この世で最も美しい『魔帝』。

 あの眼差しを独占する。その代償として、自分は何を差し出すのか。


 ――ここでなら、穏やかでいられる。

 ――ここは、私を受け入れてくれた世界だ。


 この場所を護るために。

 ヴェルの隣に立つために。

 私には、どこまでの覚悟があるのだろう。


 肺の奥を深く、瘴気で満たす。


 けれど、答えに辿り着く前に、意識は沈んでいった。

 深い水底へ落ちるように。


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