表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
爛れた心に口づけを。狂愛の魔帝と、殺せぬ魔女の物語。R15  作者: 島田まかろん三世


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/58

愛を喰らう者たち

 魔帝は、伯爵を見据えたまま、動かなかった。

 沈黙が、先に場を支配する。


 伯爵の唇が、愉悦に歪む。


「ふぅ~ん……そこまで惚れているのに、セレスはきみのことを、そんなふうには言っていなかったなぁ」


 魔帝から目を逸らすことなく、伯爵の鼻先が、セレスの首元に沈む。

 それだけで、空気がひび割れる。


「さては――相手にもされなかったのかな?」


 伯爵はわざと軽やかに、追い打ちをかけるように笑った。


「魔帝ともあろう()()が、女ひとり、ものにできないなんて。――冗談みたいだ」


 魔帝の視線が、僅かに揺れた。

 それを見逃さず、伯爵は笑う。


「だけど、そうだね――」


 空間が、崩壊し始める。

 だが魔帝は踏み出さない。

 踏み出せない。


「こうして、セレスを腕の中に抱いている限り……きみは僕に、手を出せない。けど、それは――」


 伯爵の青い瞳が細く笑む。


「――つまらないか」


 そう言うと伯爵は、セレスを抱き上げている腕の力を緩めた。

 その足元――セレスはうつ伏せに、床に転がった。


 魔帝の怒りで、周囲が黒い霜に覆われ始める。

 

 だが、伯爵の周囲には及ばない。

 伯爵は、歩み出る。

 一歩目――セレスを踏んで。

 二歩目――セレスの前に出た。

 まるで、セレスを護るように。

 そして、朱に変わった瞳が、魔帝だけを映した。


「さあ――宴を始めよう。ヴェラルク=ザハ・ヴェルグ!! きみの血潮で、僕の器を、存分に満たそうではないか!!」


 声だけが、夜を這うように低く響く。

 伯爵の足元からは、無数の蝙蝠が羽音を撒く。

 それらは愛が形を成すように、そして、伯爵の欲望を映す影のように、大気まで赤く染め上げていく。


 魔帝は、重たい一歩を、踏み出した。


 第一撃――空間ごと伯爵を押し潰す「断罪」の重圧。

 刹那、拳と拳がぶつかり合う。それはまるで、二つの星が衝突したかのようだった。衝撃波で天蓋が砕ける。そして、豪雪の夜空へ、黒い双星が舞い上がる。


 息を吸う間もなく、第二撃が走った。空中で、二つの影が再び重なる。指を絡ませた掌で押し返し合い、瘴気と魔力が渦を巻く。閃光が弾けた。額と額がぶつかり、互いに退かない。純粋な――力比べだ。

 だが魔族同士のそれは、筋肉が裂けても、骨が砕けても、終わることはないだろう。


「今、俺は、あんたのせいで、胸が張り裂けるほどの痛みを覚えている」


「いいことじゃないか。揺れ動く感情は、生の火種だ」


 ふたりの背筋がしなり、再び力がぶつかり合う。

 降りしきる雪片が、紅い瘴気と黒い魔力に焼かれ、音もなく蒸発した。

 大地が呻く。ふたりの間に、世界の境界を揺るがすほどの、破壊の渦が巻き起こった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ