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爛れた心に口づけを。狂愛の魔帝と、殺せぬ魔女の物語。R15  作者: 島田まかろん三世


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模倣する殺意

 静まり返った廊下に、再び音が走った。

 今度は──ひとつではない。


《カタ……カタ……ギィィ……》


 足音とは異なる、歪な機械音。

 金属と有機物の境界を曖昧にした()()が、通路の奥からぞろりと姿を現す。


 五体。否、六体か。

 すべてが違う形状。

 四脚で這うもの、巨大な鉤爪を備えたもの、半身が浮遊するもの……

 いずれも、明確な殺意だけをその身に宿している。


「多脚型と飛行型……バランス型も混ざってる。まるで……小隊編成ね」


 分析する声は、静かだった。

 全くもって感情が乗っていない。


 ――セレスは選んだのだ。

 迷わないと。


「イリヤ。前衛二体を潰して。残りは私が纏めて始末する」


「承知しました」


 イリヤは即座に走り出し、先頭の突進型を横合いから蹴り飛ばした。

 動きが止まった瞬間、飛行型が跳ね上がる。だがそれも予測済みだ。


拘魔式火環リガス・フェニアル!」


 セレスの詠唱が響くと同時に、床に魔法陣が展開された。

 燃え上がる三重の火環が、中央へと迫るように回転しながら、ホムンクルスたちを飲み込む。


 爆ぜた火環が、一瞬で視界を焼いた。


 ギィッ、と焦げた金属の悲鳴。

 だが、燃え尽きたのは三体までだった。

 残りの一体が、炎をすり抜けるようにセレスに向かって跳ぶ。


「面倒ね……」


 杖を構え直し、セレスは結界を即時展開する。


結晶花フロース・ヴィエナ


 ホムンクルスの刃が空気を裂いたその瞬間、透明な魔力の壁が、音もなくそれを受け止める。


 だが、結界の強度を測るかのように連打が始まる。

 まるで、セレスの戦術に適応しようとしているかのように。


 ――やはり、()()がある。


 セレスは、結界越しにホムンクルスの無機質な瞳を見据えた。


 ただの学習機能ではない。この人形たちの奥底に、無理やり「生」を繋ぎ止められた何者かの、悲鳴にも似た適応本能が脈打っている。


 思考が走る中、背後で爆音がした。


「片付けました」


 イリヤが跳ねるように戻ってきた。その手には、ホムンクルスの残骸がぶら下がっている。

 セレスは前方の結界を解いた。

 その瞬間、イリヤの一撃がホムンクルスを床に叩きつける。


「沈め」


 拳がめり込む重たい音が弾けたあと、再び静寂が戻った。

 施設はまた、沈黙を始めた。

 だが、その沈黙の奥には、更なる()()が待っている気配があった。


「……これは、ただの警備じゃないわ。誰かが、ここに()()()()()()を選んでる」


 セレスは呟いた。

 それが錬金術師の遺した命令なのか、あるいはホムンクルスたち自身の《《進化》》なのか──


 答えは、この先にある。


 ◇


 最深部の扉を開けた瞬間、鉄を焼くような匂いと、生温い血の気が鼻腔を突いた。

 中央に並ぶ拘束椅子。そこに、グリードの部下たちが「資源」として接続されていた。  

 彼らの血は、ホムンクルスという名の維持装置に吸い上げられ、生きたまま濾過されている。


「侵入者ヲ 排除スル」


「セレス様、来ます。数……八体」


 イリヤの声が静かに響いた。

 セレスは短く息を吐く。


「まずは、こいつらを片付けるしかないわね」


 ホムンクルスの一体が跳躍した。

 刃の腕を振り下ろし、一直線にセレスの左胸を狙う。


 だが、次の瞬間には空を切っていた。

 イリヤが踏み込み、拳を真横から叩き込んでいたのだ。


「一体目、排除」


 金属の体が壁に叩きつけられ、鈍い音とともに崩れる。


 すぐさま、左右から二体が回り込む。

 この施設の個体は、連携している。単なる暴走ではない。

 動きが論理的で、かつ容赦がなかった。


断魔刃陣カルネオ・スラスト!」


 セレスの杖が閃き、床に刻まれた陣から赤い光の刃が噴き上がる。

 旋回するように、複数のホムンクルスを切り裂き、炎の残滓を撒き散らした。


「四体目、停止確認」


 イリヤはひとり、縦横無尽に飛び回り、急所だけを狙って撃破していく。

 セレスの術と交差するように動き、無駄のない連携で次々と敵を減らしていった。


 だが、敵も進化していた。


「セレス様、最後の個体、こちらの動きを模倣コピーしています――」


「……厄介ね」


 最後の一体は、倒されたホムンクルスの動きとセレスの術式の軌道をなぞるように行動していた。読み、避け、攻撃を最適化していく。


「イリヤ、時間を稼いで」


「拒否します」


 イリヤは敵の背後に回り、拳を叩き込んだ。時間を稼ぐ気はない。殺す気で放った拳だ。だが、敵は身を翻し、それを避けた。イリヤの軌道に合わせ、全ていなしていくホムンクルス。


 そして――セレスは、詠唱を終えた。


「イリヤ!!」


 呼ばれてイリヤは後方に跳ぶ。

 その瞬間、セレスは膨大な魔力を一気に放出した。


拘魔式火環リガス・フェニアル・改式――散乱展開!」


 三重の火環が拡散し、室内を旋回しながら敵の行動ルートを焼き潰す。

 模倣も回避も不可能な軌道。それでも、敵は身を捩り避けた。

 刹那、ホムンクルスの核を、イリヤの拳が貫いた。


 ──沈黙。


 破片が床に散らばり、焼け焦げた匂いが広がる。

 セレスは、ゆっくりと深呼吸した。


「……終わった?」


「はい。すべての敵性反応は消失しました」


 椅子に拘束された兵士たちが、虚ろな目で微かに体を震わせている。彼らはまだ、助けられる段階にあった。

 セレスは駆け寄り、肉体修復の魔術を兵士たちに施した。そしてすぐに拘束具の解析に取りかかる。その間に、イリヤが腕に繋がった管を外していく。


「死に損なったわね」


 そう言って、拘束具を指でなぞる。幾何学模様のような術式が、金属の拘束具の上を走った。

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