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終わりなき理想郷  作者: DDice
時を駆け、聖夜に舞い降りる
9/33

新たに見据えるは、一陣の風

 15時25分、僕たちは現場を囲むトラックのさらに外側、その四方を取り囲むように立っていた。あの爆発を真正面から受け止められるのは多分(まもる)さんと奈穂(なほ)さんぐらいだろう。であれば、それよりも強度の低い僕たちはどうするべきか、答えは一つ。威力を別の方向へと受け流してしまえばいい。ただ、受け流す方向も考え物だ。左右に流そうものならそのまま二人の範囲外まで出て後ろの家々が薙ぎ払われてしまう。ならば上方向しかないだろうな。そして、後ろ方向への被害を最小限にするには凹の形に曲線を描くようなイメージで「▤▨❖☒▥▤☒」と唱える。

 指の先からスゥーと音を立てるように何かが流れ出るような感覚がする。少し、体が気怠く感じるが弱音を吐くわけにはいかない。掌で形を整えるように動かす。

 さて、そろそろだ...。いっそう固く、強い壁をイメージしろ。地面を強く踏みしめた瞬間、振動が足を伝って知らせてくる。


 その瞬間、目の前の地面がバキバキと大きな音を立てて隆起し、爆ぜた。


 粉塵は僕の張った障壁に沿って上へと昇って行った。左右の噴煙も問題なく防げているみたいだ。一番気になるのは和葉(かずは)の方だが、まあ今は大丈夫だと思っておくしかない。

 数秒経ち、ある程度粉塵が落ち着いた頃。急に粉塵が左の方へと流れ出る。確かそっちは奈穂(なほ)さんが居たはず。なら攻撃を始めたのだろうか、であればもう僕たちはここに居る必要はないだろう。既に僕たちが手出しできる状態じゃない。

 そうやって現場を背にし立ち去ろうとした瞬間、後方からガスの爆発する音のような爆発音が鳴り響いた。瞬時に後方を確認した僕は、トラックが大爆発を起こし奈穂(なほ)さんとあの化物が宙を舞っている姿が見えた。奈穂(なほ)さんは爆発によって服がボロボロとなっており、額からは血が流れ出ている。しかし奈穂(なほ)さんは刀の鞘を持ち構えを崩さずにアレに狙いを定めていた。そして、



霞城流(かじょうりゅう) 最終奥義(さいしゅうおうぎ)  双別時廻(そうりじかい)!】



と叫んだのと同時に鞘から抜刀する。その瞬間、あの化け物諸共その背後にあった(まもる)さんの障壁を巻き込み、更にその後ろに広がる住宅街を薙ぎ払うように斬撃が飛んでいく。なんだよこれ、あの化け物よりもそっちの方が十分化け物じゃないか?

 しかしそう感じたのも束の間、あの化け物は何事もなかったように下半身を()()()()

 そして、最終奥義を打ちバランスを崩した奈穂(なほ)さんは(くう)に脇腹を貫かれる。まるでそこに空間を削り取る何かがあるように。そしてそのまま奈穂(なほ)さんの肉体は重力に引っ張られ、『ぐちゃり』と言う耳障りな音と共に地に落ちた。

 目の前で、人が、死んだ。さっきまで、何事もなく、会話していた、あの、ヒト、が、。

 呼吸が荒くなるのを感じる。心拍数が上がる。ドクンドクンと心臓が鳴らす音が煩わしく感じるほど脳内を反響する。

 大丈夫だ。(まもる)さんが戻してくれる。戻してくれれば何事もなく生き返るんだ。何事もなく、な。

 頭を両手で強く押さえつける。痛い、痛い、痛い、でも、これが心地いい。怖くない。怖いことを考えなくていい。


『パシィィン!』

 痛い。頬を(はた)かれた僕はいつの間にか地面に尻をついていた。

「大丈夫か、奏介(そうすけ)。」そう言ってボロボロな和葉(かずは)君は手を差し伸べてくれている。

「大丈夫なわけ、ないだろっ。目の前で、死んだんだぞ。さっきまで喋っていた人がだぞ。わかってる、ループすれば何事もなく巻き戻せるって。でも、でも...。」

 僕は、その手を取ることができなかった。

「・・・なあ奏介(そうすけ)。俺は口が達者じゃないからうまくは言えないんだけどさ、この人たちは命を賭けて俺たちを守っているんだ。だからな、いずれ死ぬかもしれないってのは念頭に置いてるんだと思う。俺たちは、弱い。だからそんな人たちに守られてる。でも、今の俺たちにはそんな人たちも助けることができるんだ。だったら今するべきなのはここで立ち止まるんじゃなくって進むべきなんじゃないかな。それに、」

「私を、勝手に、殺すな...。」

 地面に落ちて亡骸になったはずの奈穂(なほ)さんは血が滴る脇腹を抑えながらもそこに立っていた。

「えっ、なっ、なんで。」

「急所は外した。まあ、落下のダメージは、逃し切れなかったから、その痛みに、悶えては、いたけれどね。」と呼吸も絶え絶えの状態で返答していた。

「にしても、良いこと言うね(こがらし)君。そう言ってもらえると、守ってあげる側としては嬉しくなっちゃうな。」そう言いながら奈穂(なほ)さんは再び化け物の方へ歩いていく。

「いや、何やってるんですか。無茶ですよ、そんな状態じゃ。」

「だったら、誰が時間稼ぎをするって言うの。今、(まもる)君がヘイトを買っている。その状態じゃ時を戻すことはできない。だったら、時を戻すための一瞬の時間稼ぎは必要なの。それに、後二回は打てるからね。だから、私の前には立たないでね。」

 そう言うと奈穂(なほ)さんは納刀した刀の柄を握って構えながら(かす)かに見える化け物に狙いを合わせる。そして、大きく息を吸い込んで、吐いて、また吸い込む。そして、


霞城流(かじょうりゅう) 最終奥義(さいしゅうおうぎ)  双別時廻(そうりじかい)


と言いながらまたもや抜刀をする。すると次もまた化け物の身体を両断し、更にその後ろに鎮座する街のシンボルである萌葱山(もえぎやま)の頭頂部を切り落とした。数拍置いて巨大な音を立てながら土砂崩れが起きたことを告げた。そしてそれと同時に(まもる)さんが居るであろう方向から一発、銃声が鳴る。


 そのまま、僕たちの視界は暗転した。

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