霧深く、やがて刻限は迫りくる
「それで、その人が同僚という人ですか。」
俺たちは喫茶店から離れ、住宅街の中にある公園で坂下さんと、その同僚とかいう霞城奈穂さんと合流した。というか、奈穂さんが腰に携えているものってジャパニーズカタナでしょ。いや、侍かよ、今平成だぞ?
ちなみに言っておくと、この奈穂さんは生きて体験していないのかと疑問に持つ者もいるかもしれないから言っておくが、この人は一番酷い惨状を見ていないから除外してはいるだけだ。ただ、解決のための立役者だということは理解しておいてほしい。
「そう。まあ、大方分かっていると思うがうちははっきり言ってしまうと表舞台に出てこない組織だ。中では手を汚すことすらある。その中でも随一の腕を持つのが彼女だ。」
そう紹介された彼女は首元をポリポリと掻いて、むず痒そうな表情をうっすら浮かべながらも平然を保っていた。多分だが、この人褒められ慣れていなんだなと直感でも理解できた。
「そうなんですか。ちなみにどれぐらい強いとかわかります?」と横にいた奏介が聞くと奈穂さんは後ろに生えている一本の木に近づいて、携えている日本刀の柄を握ったと思った瞬間、バウムクーヘンのようにきれいな断面がコンニチワしていた。刀の切れ味も凄いがそれ以上にあの速度の抜刀術、どんな速度で刀を扱ったら一瞬で木を切り倒せるんだよ...。
「まあ、ざっとこんな感じね。」と当の本人は満足そうに笑みを浮かべている。非常に末恐ろしい限りでございます。
「んで、今回お前たちに奈穂を会わせた理由なんだがな。」
そういうと坂下さんは一拍開けて告げる。
「あの化け物を捕獲、ないしは殺害する。」
この人の脳のねじは外れ切っているのか?
「いやいやいや、縦んばあの爆発を耐えきったとしてアレの討伐って某ゲームのハンターとかじゃないんですよ俺たち。それに奈穂さんみたいな攻撃力があるわけでもないんですから勝てなくないですか?」と早口でまくし立てると、
「あーあー、わかっているとも。別に全員が全員戦うってわけじゃない。というか君たちを戦力と数えれるとは思っていない。第一、君たち自身は一般人であって俺らみたいな専門の人間じゃない。君たちに対して求めているのは初撃の破壊の規模を抑えることだからな。でだ、俺と奈穂で二方向は防げる。そしてここにちょうど二人いる。」
・・・ちょっと待て、戦力外カウント自体はいいんだがそれってもしかして。想像がいやな方向に働いていたのは俺だけじゃなく奏介も同じだったようで、
「まさかとは思いますが、例の防護の呪文で二方向を防げと?」と思った通りの答えを出してくれた。
そして、それに対して坂下さんはそうだと言わんばかりに縦にゆっくりと首を振っていた。自ら死地へ赴けとか何を言ってるんだこの人、と思ったが今までのことからもう何も言うまい。そう、俺は一種の諦めの極致というものに達していた。わかりやすく言うとするなら、『もうどうにでもなれ』というやつだ。
「それで、どういう配置でやるんですか?」と坂下さんに呪いの込めた死んだ目で話すと奏介はマジで言ってんのかという表情を浮かべたがお前も諦めろ。どれだけ頑張ろうと現状取れそうな行動はそれぐらいしかないんだから。
「そうだな。二人には現場に通っている大きめな通りの少し離れた地点でやってほしい。側面は俺らが担当する。少しでも離れれば多少は威力の減衰も起こるだろう。まあ、多少だろうがな。」と少し嫌な付け加えもあったが大体は理解した。その意を示すために小さく頷いでおいた。そして、奏介も渋々ながら頷いていた。
「それじゃあ、実際に現場に向かおうか。」と坂下さんが言い出した途端、坂下さんの胸ポケットから着信音が流れ出した。流れるようにスムーズな動きで坂下さんは携帯電話を取り出し、「もしもし俺だ。」と言うと携帯電話からは聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「もしもーし、文野ちゃんだよ。青木君の代わりに例のものを追っていたんだけどね、終着点はどうやら現場のようだったよ。ただね、一つ問題があって。ここにあるトラック全て鈴埜宮の傘下の会社っぽいね。人影は見えないんだけど多分彼らここでスタンバってるんだと思う。」
鈴埜宮、たしか国内で上から数えた方が早いぐらい有名な大企業じゃないか。確かに本社は萌葱町にあったはずだが、なんでそんな場所に。いや、言い方的に今回の件に関わっているのか?
「でね、ここからは推論なんだけれど。彼ら、爆発が起こること自体は織り込み済みと考えるとある程度筋が通るのね。多分彼らはね、あのよくわかんない存在を捕えようとしているんじゃないかってね。そうなると、その下に多分アレに関するものがあると思うんだけどトラックに囲まれているから調べようにも調べられなさそうでね。何とかできそうだったらそっちで調べてくれないかい?」と彼女は申し訳なさげに聞いてくる。まあ、彼女としても実質的に無理難題を押し付けるのは心苦しいのだろう。ただ、確かに下からやってくるのであれば下側に何かがあるというのは理にはかなっているか。
「まあ、余裕があればやろう。こっちとしてもアレに関して色々調査する必要があるからね。それに今回に関してはさらに強力な助っ人もいる。とりあえず、次があると考えて今回も検証のターンとする。それじゃあこっちは移動するから何かあればまた連絡をくれ。」と言って坂下さんは電話を切った。
「それじゃあ3人とも。行こうか、再戦をしに。」