走れ走れ、見据える先は鈴の音
鈴埜宮ラボ、確か鈴埜宮財閥の研究部門だったけ。いつもだったらそこまで気にしないけれど、何台も何台も見かけるもんだから気になっちゃうよねぇ。
そういうことで俺は今バイクを走らせてあのトラックを追っている。ただ、あちら側も跡をつけられていることには気づいているのかはわからないが、曲がり道などを使って僕のことを撒こうとしているように思える。そこまでして撒きたい理由でもあるんだろうか。そう思いながらもバイクを走らせる。
にしても、まさかこんなことに巻き込まれるとは微塵も思っていなかったからそこまで燃料は残っていないが何とかなるだろう。何とかなるよな?
「結構簡単にできちゃった。前も思ったけどザル警備過ぎない?」
私だけ、たった一人以外誰もいない部屋の中でぽつりとつぶやいた。
あっけなくテレビ局をハッキングできた私は、前回やる必要のあった行動をすべて終わらせちゃったので結構暇をしていた。実際私ができることとすれば、ハッキングとドローンを用いた偵察ぐらいだからねぇ。情報戦が終わってしまえば仕事はないに等しいわけです。
「どうせやることもないわけだし、ドローンでも飛ばして状況の確認でもしてみようかな。」
思い立ったが吉日とは言ったものだし、窓を開けてドローンを飛行させることにした。
ドローンを飛ばしてみて分かったこととすれば、多くの人々が町の外へと出ていくのに対して、数台のトラックが住宅街の方へと走り出しているのが見える。それと、その後ろに一台の見知ったバイクがつけているのも見えた。
「なにか尻尾でもつかんだのかな。どうせこれ以上やることもないし、このまま追跡してみようか。」
一人で面白そうなことをするだなんて。まったく、悲しいじゃんか。私も混ぜてほしいよねぇ。
そんな感じで、にやにやと薄暗い部屋の中で私は画面を見つめていた。
あれ、絶対に文野のドローンだよな。なんでこっちを見てるんですかねぇ?
テレビ局のハッキングの方は、まあ周囲を見ていたらわかるか。何人もの人が家から出て歩いて行っている。あの時の災害のおかげか避難がスムーズに進んでいるようで、良かったような悪いような。まあ、詳しくは考えるべきことではないしいいか。
「おい、聞こえてんだろ。もしかしてだが暇してんのか?」とドローンに向かって大声で伝える。結構な速度出しているからこれぐらいは出さないとマイクに反応してくれねぇだろうな。
運転に集中しているとドローンに内蔵されているスピーカーから
「そだよー。というかトラックのストーカーとかどんな神経してたらできるのさぁ。」と、小馬鹿にしたような音声が流れてきた。マジで一発殴っても許されるだろ。
「それじゃあ一つ聞くが、ほかの車とかが町外への方向を走っている中で逆走しているトラックが何台もあったら気にならないのか?」
「んー、でも今さっき流したばっかりだから気づいてないだけかもしれないよ。それに、ラジオしか聞こえないのかもしれないじゃない?」
なんでこいつは否定的な意見しか出さないんだ。というかどう考えても僕のことをおちょくりたいだけだろこれ。なんだろう、そう思うと無性にイライラしてきた。なんでこんな奴のために喋ってやってるんだという気分になってきた。
「おや、イライラしてきているみたいだね。運転中のストレスの貯めすぎはだめだよ、運転に支障が出ちゃうからね。」と、イライラしている表情を読み取ったのかさらにそう畳みかけてきた。イライラの原因がなんか言ってるわという気分で聞き流しながらバイクの燃料残量を確認してみるともう残り僅かとなっていた。ひっじょーにまずい。
本当に不本意なのだが、残量的にも追い続けるには難しいのでここはあのドローン野郎に手を貸してもらうしかなさそうだ。本当に不本意だ。
「文野、すまないが燃料がもうないから代わりに追跡してもらえるか?」とドローンの向こう側にいる奴に投げかけてみると、数秒間ドローンからは空を切る音だけが流れる。少しの逡巡があったのだろうかその後、
「いいよ。面白そうだからね。」と回答が返ってきた。だったら即答してくれよと少し文句はあったがまあいいだろう。
そして僕は任せるとハンドサインで示してから離脱して、近場のガソリンスタンドへと移動した。
いやはや、任されちゃうとは。いやー文野ちゃんは働き者で困っちゃうなー。
「まあ、任されることがいやってわけじゃないんだけれどね。」と呟きながらドローンでトラックの後をついていく。結構な速度を出していたトラックだったが我がドローンの速度に勝ることはなかったのだー。
なんだろう、この虚無感。
まあ気を取り直して、トラックを追いかけていると住宅街のある一角でトラックは止まった。周囲には同じようなトラックが並んでいたけどロゴがそれぞれ違うのが見て取れる。
鈴にフラスコ、鈴に歯車、鈴にタイヤ、鈴に銀行の地図記号、そして鈴に剣。さしずめ鈴埜宮系列の会社を総動員しているのだろうね。だとしても、なんでこんなところにトラックを集めているのかな。
ここはあの爆発の中心地のはず。そうなると、ここが破壊されてしまうのはすでに織り込み済みの可能性?
考えても考えても決定的な答えが出てこないばかりだなぁ。そういう時はいったん、逆に考えてみよう。
あの規模の破壊が起こると予測していなかった、そう考えるとこのトラックはあの爆発から何かをしたかったのではないだろうか。
そういえばあの爆発の時、爆心地に何らかの人影があったはず。とすれば、このトラックを使って鈴埜宮の奴らはアレを捕えようとしていたのか?




