不浄の猟犬と炎の鳥 - その3
2017年07月21日(金)1時16分 =萌葱町警察署正面玄関=
【霞城流 煌々流転】
鋭角から現れた怪物を奈穂さんは切り裂いた。
だが、あの化け物は一匹、また一匹と姿を現す。そして裕に100を超えるような数が俺らを取り囲んでいる。まるで、狩りをしようかと言わんばかりだ。
「奇妙ね...でもまあ、とりあえず殲滅しちゃいましょうか。」
【霞城流 奥義 神樂破城】
刀を振り回し、ばっさばっさと切り伏せる様は時代劇の勧善懲悪みたいだが、猟犬どもの抵抗によってボロボロだった刀に限界が来たのだろう、刀の柄に近い部分から刀が折れてしまった。
「しまっ...!」
これを好機だと見た猟犬どもが丸腰となった奈穂さんを襲おうとする。俺らが介入しようとしても奈穂さんとの距離が離れていて介入するには僅かに足りない。
「バンッ。」
奈穂さんに噛みつこうとした猟犬は突如としてその肉体が崩壊して霧散した。
香苗さんが撃った弾丸が猟犬を貫いたのだろう。だが、次から次へと猟犬は襲い掛かって来る。俺が戦っても負けるのは目に見えている...であるのなら。
「奈穂さん!」
呼びかけて、俺は奈穂さんに投げ渡す。
「...ふっ。わかった、しっかり頭は回ってるみたいね。」
奈穂さんは俺が投げた刀をしっかりと掴み取り、襲い掛からんと押し寄せる猟犬共に向かって駆け出していき、
【霞城流 奥義 柳暗花明】
多くの猟犬の悉くを塵とした。
それこそ、数匹は取り逃してしまったが圧倒的な力を前に次元の狭間に逃げ出していった。
奈穂さんは一瞬そいつらの後を追おうかと逡巡していたが、深追いを辞めてこちらに戻ってきた。
「奈穂ちゃん、ちょっと腕が落ちちゃったんじゃない?」
「いや、文野の攻撃が刀に結構なダメージを入れられてしまったからな。それで刀が折れちゃったかな。でもまあ、ナイスタイミングだったよ、凩君。」
ニッと笑顔を見せてくる。そして、
【霞城流 竜胆閃】
【細胞機械 試作品 6号】
「逃がさないわよ。」
鋭い眼光が文野を捉える。
「正直、私とあなたの仲だから見逃してもよかったんだけどね、ここまで拒絶されちゃ悲しいわね。私だって人間なのよ?」
オヨヨと泣き真似をしてはいるが、多分、悲しんでいるというよりはおちょくっているという方が要素的には大きいだろうな。
「まあ、そんなことは置いておいて。見逃してもいいってのは本心なんだけどね、ここまでの被害出されてはいそうですかで解放することはできないのは分かってるわよね?」
文野はバツの悪そうな顔をしながらどうにかしろと言わんばかりにこちらに視線を送ってくる。
流石に奈穂さんや他の方々を相手取ってどうにかできるほどの技量は俺にはない。首を横に振り手の打ちようがないことを理解した文野は両手を挙げ降参の意思を示そうとする。
「命令ノ更新ヲ確認 個体名『文野徠』ノ護送 開始シマス」
その音声を聞いて俺や奈穂さんだけでなく、文野も驚きの表情を露わにする。
そして、あの機械は大きく姿形を変え俺たちを見下ろすような巨大な鴉のような形となり、空へと羽ばたきだす。
奈穂さんらがその場から離れようとするそれを止めようと動き出す。しかし、一振り羽を羽ばたかせた風圧で全員が吹き飛ばされてしまう。
にしてもあの機械、文野が使っていたやつと同じものだよな。と考えると必然的に元の持ち主ってあの時体をまさぐられていた風倉さん...だったか?
つまり、間に合ったってわけか...。目的を達成したという感慨深い喜びもひとしお、逆に今から俺に降りかかる火の粉をどう振り払おうかと現実に目を向ける。
三者共々俺の方を見て答えを待っている。
「あー、まあ、ですよね。んーっと、何処から話すべきでしょうかねぇ...。」
薄っぺらい笑顔を張り付けながら言い訳を考えていると、
「大丈夫よ。別に、大体わかったから。」と奈穂さんに言われる。
えっ?と疑問の混じった表情で奈穂さんの方に目線を送る。
「多分、文野たちと合流してから何かしらがあって津雲巡が必要な状況に陥ったのでしょう?まあ、あなたもあの機械に関しては何も知らない感じだけど...。そうね、一言助言するなら、もう少し表情筋を固くするのをお勧めしておくわ。あなたは感受性が豊かだからすぐに顔に出ちゃうわね。」
なんか、冷静に分析されるとなんというかむず痒いな。だけど、そんなに俺って顔に出やすいのか...。
もう少しそれに関しては修行あるのみ、だな。




