不浄の猟犬と炎の鳥 - その1
2017年07月21日(金)1時03分 =住宅街呪い屋近郊=
「流石にもう辛いんじゃない?」
「どうだかね。」
俺たちが戦っているこの道は、狭間による糸と塀などが崩れた瓦礫で覆われてきてしまっている。だが、当の本人である狭間はぼろぼろにはなっているが、それでも威勢は保っている。
鴻の何らかの力で何らかの制約を受けているみたいだが、それでも2対1で未だ善戦を続けているのを見るに思った何倍も化け物だな。
そして、再び狭間が攻撃を放とうとした途端、その手を止めた。
奴は俺らじゃない方に視線を奪われていた。
俺らもその視線を追う。
そこには瓦礫の礫があった。
何の変哲もない普通のコンクリートブロックの欠片。わざわざ視線を送る必要すらないだろうそれに、なぜか目を奪われる。
ふと、周囲の空気に違和感を覚える。鈍重で、限りない圧迫感に苛まれる。
ふと、つんと異様な匂いを鼻腔が捕える。刺激的で、嫌悪的な匂いだ。
悪意にまみれた粒子が連なり、集まり、そして、現れる。
青い汁を滴らせ、悪臭を放ち、そして、鋭角からその怪物は現れた。
「ティンダロスの猟犬...何でここに!?」
狭間は後ろへと大きく飛び、その怪物と距離を置く。鴻は剣を握りしめながらその怪物に相対する。
「来るとは思っていたが、ここで襲ってくるとはな。賢い犬っころだなっ!」
そうやって剣を振りかぶる。それはその怪物の前脚らしき部位の表面を切り裂き青黒い液体を滴らせる。その液体は粘性を持ち、ジュワァと道路のコンクリートを溶かすような音を立てながら蒸発する。
「おい蜘蛛野郎!ちょっと盾になってくれないか?」
「嫌に決まってるだろ!というか、いつの間に時を戻りやがったんだ?」
「教えるわけねぇだろ!」
化け物そっちのけで口論している二人をよそに化け物は俺の方へ襲い掛かってくる。
丁度いい、居待月でカウンターを入れてしまえば...。
そう思いカウンターの姿勢をとろうとした途端、首根っこを引っ張られる感覚と共に視界が端の方からぼやけ始める。そして、カツ、カツとヒールで道を歩くような音が聞こえる。
「死にたくなければ眠っていろ。眠って起きたら、君はまた何の変哲もない日常に戻れる。」
そう言う彼女は俺を地面に倒して前へと歩み出す。彼女は白いワンピースに赤いヒール。そして、炎のように赤々とした長髪をした少女のようだった。
ふと、周囲を見渡してみると漆黒が俺ら二人を包み込んでいた。そして、俺ら二人の前にモニターの様に俺が先ほどまで観ていた光景が映っている。
「ここは...それに君は?」
そう尋ねると、彼女は振り返らずに答える。
「ここは君の深層心理の奥底。私は鳥羽朱里...今の私は、君の二重人格みたいなもの。ほら答えたよ、満足したなら眠っていな。もしくは、ここで外を見ていな。代わりに主導権は借りるけどね。」
そう言って、あのモニターに彼女は触れる。
〚炎荒〛
炎が舞う。
炎はあの化け物を包み込む。
化け物は苦しみの感情を纏わせた叫びにも近い呻き声をあげる。
〚炎帝〛
炎は勢いを増す。
赤々とした炎は青みを増し、更なる高温で怪物を焼き尽くす。
そして、あの四足の化け物は塵となり、霧散した。
「おい、遼太郎...?お前...。」
鴻が肩を掴もうと伸ばした手を弾く。
「触るな無礼者。私はお前を快く思ってない。」
狭間はその場で目を見開き、そいつを恐怖の目で見開く。
そして、か細い声でそいつの名を零した。
「い、壱級職員...の、鳥羽...朱里さん、なんですか...?」
「・・・なるほど、君も対神課なのか。面倒だな...消すか?」
〚気炎万...
炎で自身の部下を燃やし尽くそうとしていたのだが、彼女は別のものに気をとられていた。
そこに居たのは...光ちゃんだった。
どうやら呪い屋から逃げ出したようだ。後ろから桐藤さんと燈樫さんが居るから津雲の奪還には成功したんだろうとほっと胸を撫でおろす。だが、それ以上の問題が起きてしまった。
逃げ出してきた光ちゃんはその場でうずくまり、浅い呼吸を繰り返す。まるで何か良くないモノを観たかのようだ。一歩、光ちゃんに手を差し伸べようと体が前進したとたんに、それは起きた。
空間が割れたかのように目の前にあるブロック塀とアスファルトが切り裂かれる。ブクブクと泡立つように光ちゃんの背中の輪郭が変形し、玉虫色の触手が現れた。
それに対して体は焼き尽くそうと言わんばかりに光ちゃんに向けようとしている。
どうにかしたいが体の主導権をどうやら彼女に奪われているようで一切動かせない。俺は...一体どうすればいいんだ...?




