神性を顕現せしは何が為
正直に言ってこれは無理ゲーとしか言い表せない。
あれは人間というにはあまりにも異質すぎる。姿かたちこそ人間らしい容姿をしているが、まるで害為すものすべてを薙ぎ払わんとするあの強大な力のせいで近づくことはおろか、防戦にすら持ち込むことができるわけもなく避けることで精いっぱいだ。
そして極めつけに、体のあらゆるところからぼたぼたと臓器のような何かが落ちたかと思えばうねうねと命のある存在のように動き出す。某ゾンビゲームでもここまでえぐい敵は出てこないぞ。
俺や奏介はアレから逃げることで精いっぱいだし、坂下さんは有効打がないのかちまちまと持っていた拳銃で牽制をしている。しかし、弾丸の一発や二発程度で怯むわけないのはあの外見からでも容易く理解できるわけで、何事もなかったようにこちらに攻撃をかけてきている。
交戦に入ってから30秒がやっと経過しただろうか、坂下さんの表情に陰りが見え始めた。どうやら、残りの残弾に余裕がないのだろう。そして、一瞬こちらに視線を移して、
「これからループに入る。だから、後で俺に電話をかけてくれ。そん時に作戦会議をしよう。」と言いながら坂下さんは自身の蟀谷に銃口を突き付けて、引き金を引いた。
「いやぁ、何度もやっているけど痛みには慣れないんだよなぁ。」
そう愚痴をこぼしながら、内ポケットに入っているタバコとライターを取り出し、一服をする。今俺は萌葱町の警察署にいる。本来は任務が終わったため本部に帰還する必要があるのだが、新たな事件のせいで戻れないというのが現状だ。そして、ここには俺と同じ一級職員が一人いる。彼女は元々こちら側の管轄なのだが、前回の任務の際に同行してもらったため今ここにいる。
「・・・それで、なんで私を呼んだんですか?」と、無理やり引っ張り出してきた奈穂は聞いてきた。
「一つ、いや二つ聞きたいことがある。まず一つ、本体から分離して動かすことのできる存在を生み出すことができる神話生物ってなにか知ってるか?」
「うーん、ぱっと出てくるものとしてらショゴスでしょうかね。あと違う系譜であれば、分身ではなく雛を生み出すとしてアイホートなどもあるとは思いますが...。」
ショゴスとアイホート。どちらも特徴として見受けられる部分は確認できている。となると、少なくともどちらか一方の性質は保持しているとして考えてもいいだろう。
「じゃあもう一つ、現時点で神性を宿すことのできる素体を生み出せてかつ、稼働している機関はどこがある?」
神性を宿すことができる素体。約100年前、ミスカトニック大学のテスカ教授によって生み出された禁忌。今まで話や報告書の文面でしか見たことのないそれは、あの存在を考える際に大きな決定打になると思われる。
「なぜそんなことを...。えーっと、まずはミスカトニック大学ですが、テスカ教授の失踪後新たな素体を開発したという報告はありません。次にバベッジコーポレーションですが、自社では特に開発をしていませんが近年外部との提携が多いため外部に生産技術を流している可能性があります。そして最後にDEM社ですが、こちらも現在自社生産を行っておらず海上研究要塞メルクリウスの建築に注力を注いでいるようです。」
ミスカトニック大学は最近は自国での活動がメインのだから日本にまで手を出すことはないから弾くことができる。同様にDEM社の連中もメルクリウスの建築には確か外国企業の参入も多いため、他に回す余力もないだろう。そうなると必然的に導き出されるのは、
「バベッジコーポレーションか。奈穂、萌葱町の企業の中でバベッジコーポレーションと取引を行った企業はあるか?」
「・・・、確か去年から提携を結んでいる企業が一社だけ。」
今回の事件、9割方その企業が関わっていると考えていいだろう。しかし、なぜあんなものを生み出したのか。理由がわからない。もしくはあんな仰々しいものを生み出す予定ではなかったのかもしれないが、とりあえずは目前の問題について解決しなければならないわけで、
「どの企業だ?」と奈穂に問うと、
「鈴埜宮コーポレーテッド、中でも鈴埜宮重工と技術提携を組んでいますね。」と返された。
鈴埜宮、あまりここら辺を知らない俺でも知っている。国内でも有数の加工技術を用いて大量生産で莫大な利益を上げた企業だ。そこから様々な事業に手を出したことにより民衆からは鈴埜宮財閥と言われている。
「奈穂、戻る前にもうひと仕事だ。」
「・・・はい?いや、仕事っていったい、いえ、もしかしてなんですけれど、いや、杞憂だったらいいんですけれどさっきまで素体の開発元とかを聞いていたのってもしかしてなんですけれど、まさかですよね?」
疑問にまみれた彼女の顔を見て、少し気分が紛れたのかにやりと俺は口角を上げて、
「そのまさかだ。」と言い放った。それを聞いた彼女は頭を抱えるようなしぐさで色々思案を巡らせているようだった。
吸い終わったタバコの吸い殻を灰皿に投げ捨てて彼女に話しかけようとした途端、俺の胸元にしまってあった携帯電話から着信音が鳴り響いた。
「もしもし、俺だ。」
「もしもし、青木です。こっちですが、文野はハッキングでアレを流せないかと模索するらしいです。」
ハッキングか、まったくなぜこんな堂々と犯罪行為を犯そうとするのだろうか。
「・・・一応俺も警察官なんだが、まあ緊急事態だし大目に見るとするか。それでお前はどうする?」
「僕は今ですね、何やら怪しいトラックが走って行ったので後ろをバイクで行っています。」
なんでまあ報告の前に行動するのやら。まあ、自発的に行動してくれるのはありがたいか。
「ちなみにそのトラックがどこの奴なのかってのはわかるか?」
「えーっと、ですね。あの黄色の奴は、多分ですが鈴埜宮系列の奴ですね。黄色に鈴と、なんだろう、フラスコ?みたいなマークがあります。」
フラスコ、たしか鈴埜宮重工は鈴と歯車だったはずだ。
「奈穂、鈴埜宮系列でフラスコのマークってどこだ?」と、頭を悩ませている奈穂に聞くと、
「え?えーっと、鈴埜宮でフラスコですよね。であれば鈴埜宮ラボだと思います。」
「ありがとう。ということらしい、すまないがそのまま追跡してもらってもいいか?」
「わかりました!じゃあいったん電話切ります。あとで報告しますね。」
そういうと青木は電話を切った。
「あのー、その人は一体?」と奈穂は電話の相手に対して興味を示していた。
「あー、まあ今回の協力者かな。あと3人いる。」
「はぁ。」
腑に落ちたような、落ちていないような顔で奈穂は返答した。まあ、第一に手を貸してもらうのが同僚じゃないというのは確かに業務上気になるところではあるか、と思いつつも結局のところ奈穂はいちいち試行回数を増やして考えるタイプじゃないというのも知っている。というかこいつ、馬鹿火力すぎて変に小細工で解決するんじゃなくって全てを切ったほうが早いで本当にやれるからなおのことタチが悪いというかなんというか。
そう心の中でつらつらと思うことを発していると、また電話がかかってきた。
「もしもし、こちら坂下。」
「も、もしもし。連絡遅れてすみません、少し離れたところまで移動してました。俺たちは何をしましょうか。」
何をするか、一番気になるトラックに関しては一応青木が今見てくれているし、文野も作業中だ。であればいま必要なのはアレに対抗できる戦力だよな。
「あー、だったらだけどね。君たちに会わせたい奴が居るんだ。」
ようやくクトゥクトゥしてきたなぁ