答え求めて深淵に迫る
2017年07月20日(木)15時29分 ＝旧文野宅＝
「それで、結局光ちゃんはどうするのさ。」
約1時間もの間俺たちは言葉を交わし合い、離合集散しながら語り合いはしたが結局のところ答えは出なかった。
「どうするもこうするも、どっちに行っても光ちゃんには毒だ。だから、光ちゃんは俺らで守り抜くべきだ。」
「いや、少なくとも今の鈴埜宮は光ちゃんのことを育てていた。鈴埜宮に帰すべきだ。」
「正直僕としては烏丸が怪しすぎるからどちらでもいいんだが、個人的には鈴埜宮に帰してもいいんじゃないかな。もし光ちゃんが問題ごとを起こしたとき僕たちには対応できない。」
「でも、最初私たちが光ちゃんを見つけた時、あの子倉庫の隅で縮こまっていたのよ。そんな子を元の場所に返せと？」
「じゃあ何故鈴埜宮の家から遠く、離れなかったんだ？別に道路の反対方向に逃げれば街中に入ってより離れた場所まで行けるはずだ。」
「貴方は幼女を分かっていないのです！幼女の世界は狭いのです！遠くへ遠くへと逃げようと考えても大人と幼女の距離感は大きく異なるのです！それ自体をちゃんと理解してくださいなのです！」
「黙れロリコン。いくらお前の言い分が正しくてもキモイぞ。というか論点はそこじゃないでしょ、光ちゃんの今後を決めるんだよ。」
「私はレイちゃんと同じかな。烏丸家はちょっと、信用できないかも。」
「そうね、少なくともあそこは選択肢から外れるかしらね。」
遼太郎さん、燈樫さん、伶さん、波留さん、桧さん、彩花、鴻さん、桃花さん、そして歩さん。みんなそれぞれの考えを持ち、意見を出す。
少なくとも、聞いている分には最初に光ちゃんを保護した二人以外は鈴埜宮へ帰すべきと言う意見でまとまったようだ。
俺としては正直、何とも言えない。鈴埜宮陸や近衛さん自体は悪い人ではなさそうだが、それで奈穂さんたちと対立してしまっては元も子もない。
それに、光ちゃんをこの目でまじまじと見たのは聖夜前災以来だが、あの時に感じた威圧感などは微塵も感じられない。はっきり言って当時の存在とは姿以外何もかもが違う。
俺たちはまだ、光ちゃんについて知らなさすぎる。
話は長引きに長引き、さらに数十分が経過しただろうか。急に、ピンポーンとこの部屋の呼び鈴が鳴る。
遼太郎さんと波留さんはその音にいち早く反応し、玄関の扉へ注意を向ける。
しかし、それを邪魔そうに避けながら文野が玄関の方へ向かおうとする。
「おい、行って大丈夫なのか？もしかしたら追っ手かも...。」
「うるさいなぁ、お前ら今何時だと思ってるの？4時半！私、何も食べてないの！宅配ピザ頼んだから、受け取るの！」
「ああ、確かに私たちも朝から何も食べてませんでしたもんね。」
「でも僕は空腹ではないから君たちで食べてもいいよ。」
「んー。私もレイちゃんと同じで要らないかな。」
「俺は...一切れだけもらおうか。」
「なんでお前らの分も頼んでると思ってんだよ、まあ少し多めに頼んでおいたけどさ。」
ぶつくさ言いながら文野は3枚のピザを受け取る。そして、何も置かれていない広めのローテーブルの上にピザの箱を開封して広げる。そこから一切れをとって一口をほおばってからこちらに問いかけてくる。
「それで、これからの方針はどうするか決まったの？」
「とりあえず光ちゃんを鈴埜宮のもとに返すかこのまま保護するかの二択で平行線のままだよ。」
そう伶さんが言うと、文野はつまらなそうな表情をする。
「ふぅん。ま、どっちでもいいんじゃない。まあ、もし決まらないっていうのであれば...。」
その続きの言葉を口にする前に、食いかけのピザを食べきって、一拍開けて文野は、
「聖夜前災の爆心地に行ってみればいいんじゃない？」と言った。
「爆心地...って、もうすでに復興してるから埋め立てられているでしょう？」と反論すると、
「ああ、そうだね。」とあっけなく肯定される。しかし、文野はそれにさらに言葉を繋げる。
「でも、地下にある研究施設はまだ稼働中だよ。」
「えっ、でも立ち入り調査をしたのであれば稼働なんでできないはずじゃ...。」
「それがね、別に会社自体は問題がないから書類送検された奴ら以外特に摘発ができてないんだよね。だから、その研究所もそのままだよ。それに、その光ちゃんが居ること自体が何よりもの証明だと思うけど？」
確かにそうだ。聖夜前災の時も元をたどればあの研究所で生み出された存在、であればその第二研究所があるか、研究所を復興したかの二択になるのは必然ではある。だが、どうやって侵入するか...。結局のところ地中にあるわけで、修復されているから穴という穴もない。どうしたものかと考えながらピザに手を伸ばす。
少し早いがこれを夕食とすることにしよう。
