回帰せよ、我ら真実を追い求める者
2017年07月20日(木)13時27分 =萌葱山麓 鈴埜宮家=
紆余曲折はあれど、最終的に俺たちは鈴埜宮さんの家へと辿りついた。
萌葱山の森林を背にしながらが建てられており、ながら、大財閥の長の家にしては何ともこぢんまりとした家屋だ。田舎とかに行けば疎らに立っている邸宅などとさほど変わらないように見受けられる。
そう言えば結局、連絡を送ってないけれど家の中に入れるのか?
「そういえば...。」
そう聞こうとした瞬間、後ろから何者かの気配を感じる。
「すみません。どちら様でしょうか。」
振り返ると茶髪、にしては色素が薄い髪色をした中性的な人がレジ袋を片手にこちらを鋭い眼差しで見定めていた。
「そちらこそ、誰ですか。こちらの家の方に用があるので、そうでなければ回れ右して帰っていただきたいんだが。どうだい?」
そう言って、俺たちとあの人物の間に鴻さんが割り込むように立ち塞がる。
「それでは帰るので、そこをどいてください。」
「だから何度も言わせないでくれ。用があるのはこの家の人だって、「俺がこの家のものです。御用があるならどうぞ。」...うぇ?」
「聞こえませんでしたか?御用があるのであればどうぞ。」
「えっ、えーっと...。ちょいタイム!作戦かーいぎ!」
そういうと鴻さんは、目にもとまらぬスピードでこっちに駆け寄り小声で話し始める。
「ここってりっくんの家であってるよね?」
「いや、知らないが。」
「知らないです。」
「たぶんあってるとは思うのです。だから、家族の人じゃないですか?見たことないですけど。」
「だよなぁ...。」
そう言って、そそくさと再び鴻さんは割り込む位置に立つ。
「それじゃあ君はアレか?りっくん...あー、鈴埜宮陸くんの親族かい?」
「いえ違います。」
「はい、タイム!」
再び鴻さんは駆け寄り、小声で話す。
「おいおいおいおいおいおいおいおい。違うじゃねーか!俺が恥をかいただけじゃないか!」
訂正、全然デカかった。
そんな大きな声で適当に返事をした彩花さんの胸倉を掴み、前後へ激しく揺らす。それに対し、徐々に顔色を悪くする彩花さんはバンバンと鴻さんの腕を手のひらで叩き限界を伝えようとしている。そして、それを傍から見ていたあの中性的な彼はその光景を見て「ブフッ」と吹き出した。
「いや、申し訳ない。フフッ。あー、いや、話には伺っていましたが、ククク、愉快な方ですね、ハハッ。」
先ほどまで仏頂面だった彼の顔にはその面影はなく、腹を抱えて鴻さんの滑稽な姿を笑っていた。そして、粗方彼の笑いのツボが引いたとき、
「変に試すような真似をしてすみません。私は近衛。鈴埜宮家のハウスキーパーをしています。まあ、会社の業務もお手伝いはしていますがね。」
「そのようなお手伝いさんの存在なんて聞いたことないのです。」
「そりゃ、雇われたのはここ数年のことですから。お知りになられていないのも無理のないことですよ?」
怪訝な目をしながら近衛さんの瞳を覗く彩花さんだったが、結局何も得るものはなかったのだろう。ため息を吐いて、何事もなかったように視線を戻した。
「まあまあ、ご質問も多いでしょうが。とりあえずはこちらへ。お話は伺ってますから、調べに来たんでしょう?光ちゃんのことを。」
そういう近衛さんの眼には光はこもっておらず、どこか心の奥底を撫でまわすように見つめるような視線に不快感を感じる。どこか、人間とはかけ離れているように思えるのは気のせいだろうか。
ただ俺たちは、そんな近衛さんの後をされるがままついて行った。
あの時で俺の力を使ったのはまずったかな。どこかこの男、胡散臭いんだよな。それに、彼から放たれるこの違和感。そして、不愉快な匂い。あの時と同じだ。海上研究要塞、メルクリウスの崩壊の時に立ちふさがったあの、忌々しき存在体たち。
そう、ホムンクルスだ。
だが、彼はそれとはどこか違うように感じる。その答えを得るまでは、彼を野放しにしておこう。もしその答えが、彼が敵対の道を進むのだというのであれば...。
再びこの手を、汚すことになるかもしれない。




