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終わりなき理想郷  作者: DDice
空よ哭け、地よ呻け、空虚な夢物語は終わりなく
31/61

凍てつけ、深く遠くまで - その5

2017年07月20日(木)11時22分 =(まじな)い屋裏口=


 目標物(あの子)を背負っているのが確か桐藤(きりふじ)波留(はる)ちゃんで、こっちが狛凪(こまなぎ)遼太郎(りょうたろう)。どこかで聞き覚えがあると思っていたけれど、狩助(かだす)市の災害に巻き込まれた子達ね。

 であれば、こっちの子(遼太郎)には鳥羽(とば)ちゃんが手を加えたはずだけど、まだ起きないわね。まだ、火種が弱いかしら。

「それにしても()()()()()好戦的ね。だから、()()()()()のよ?」

「は?」

「まあ、あなたは覚えていないかもね。でもね、波留(はる)ちゃんは覚えているんじゃない?」




 ああそうだ。こいつ(遼太郎)狩助(かだす)の一件で一度命を落とした。私の、盾となって...。クソッ、せっかく忘れられたっていうのに...。

「・・・で、それが一体何だって言うんですか。そうだとしても、今彼は生きているじゃないですか!」

()()()()()()()の間違いじゃないかしら。ねぇ、波留(はる)ちゃん。あなたは憶えているでしょう?」

 ・・・ああ、憶えている。だとしても、今それを思い出す必要はない。目的は時間稼ぎか、それとも...。

「まさか、朱里(あかり)さんを起こそうと...?」そう言葉を零すと、彼女は不敵な笑みをこちらへ向ける。背筋が一瞬氷漬けにされたように冷えるが、(ひかり)ちゃんの体温で一瞬で解凍される。

 鳥羽(とば)朱里(あかり)狩助(かだす)での一件でお世話になった対神特務課(たいしんとくむか)壱級職員(いちきゅうしょくいん)の方だ。そして彼女は今、遼太郎(りょうたろう)の中で()()()()()

 にしてもだ、どうしようかなぁ。まだあいつが気付いていないからマシだけど、もし思い出しでもしたら不味いぞ...。私以外(ひかり)ちゃんを守るものが無くなってしまう。だからと言って、何か私にできることは...ないのか?

 そう脳内で打開策を練っていると、バリィーンと大きな音と共にスーツ姿の女性が出てくる。そして、壁に刀を突き立てたかと思うと遠心力を利用して割れた窓から再び侵入する。

奈穂(なほ)ちゃんも無茶するわねぇ。それにしても、周りすら確認しないってことは奈穂(なほ)ちゃんと戦ってるのは(まじな)い屋の店主さんかしら?」

 ・・・一向にあっちから仕掛ける気配はない。何かを待っているのか、それとも...。

「さっきからぺちゃくちゃと、五月蠅いぞ。」と、さっきまで口を綴んでいた遼太郎(りょうたろう)が口を開く。だが、その(まなこ)には赤い炎のようなものが垣間見えた。


狛凪流(こまなぎりゅう)(いん)  (ついたち)


 遼太郎(りょうたろう)が薙いだ刃先から赤い炎が顔を出す。そしてそれは、謎の障壁らしきものを透過して彼女の元へと近づく。しかし、当たる直前に握った拳銃の銃口で弾き距離をとる。流石に舘にそのような仕事をしている分だけあるって感じだろうか。

 ただ、これはいったいどうなんだ?彼女が目覚めたのかとも思ったが、それなら彼女の同僚に切っ先を向けるのは合点がいかない。だとしたら...、無意識的に力を解放しているってこと?

「たとえどんな小細工を使おうが、俺は何が何でも(ひかり)ちゃんを守り切る。」


狛凪流(こまなぎりゅう)(いん) 奥義(おうぎ)  幾望(きぼう)


 私たちと彼らの間を隔てるように炎の壁がそそり立つ。私は(ひかり)ちゃんを守るように遼太郎(りょうたろう)の背後へと下がる。そして、いつでも逃げ出せるように後ろを振り向いた瞬間、

「どちらへ行こうとなさるのですか?」と、スーツの男が逃げ道を塞ぐように立っていた。いつの間にか囲まれていたようだ。

「別にその子を殺すつもりはありません。ただ、彼女は()()ですから我々が保護するだけです。我々とあなた方が対立する必要はないように思えますが。」

「あなた達が仮に保護したとして、(ひかり)ちゃんは今後どうなるのよ。」

「さあ?少なくとも命じられているのは彼女の保護であって、それ以上も以下も存じ上げません。」

「じゃあ(ひかり)ちゃんの明け渡すことはできないね。」

 とは言っても、遼太郎(りょうたろう)はあっちの二人でいっぱいなわけで...かと言って(ひかり)ちゃんを背負いながら戦うのは流石に難しいよなぁ。

 そう考えていると、(ひかり)ちゃんに肩をゆすられる。そして、指を指した先の道路に視線をやると、奥から大きめの黒いワゴン車が走って来る。そして、その車が近づいてくると公安の彼ら全員が驚きの目を表す。

 彼らが何か行動を起こす前にワゴン車の扉が開き、背丈の高めの女の子が手をこちらへ伸ばしてくるので片手で遼太郎(りょうたろう)の襟首をつかみ、もう片方の手で彼女の手を取る。爆速で走る車の空気抵抗で腕が持っていかれそうになるが、火事場の馬鹿力というもので耐えきる。何とか私と(ひかり)ちゃんが入り込んだのち遼太郎(りょうたろう)を入れようとするが薙刀が上手く入らない。

 しかし、そのまま落とすのも良くないため、少し離れた空き地に薙刀を投げ込んで遼太郎(りょうたろう)を引き込んだ。命辛々、津雲(つくも)さん以外の3人はあの場から離脱することができた。


 何とか乗り込んだ私は(ひかり)ちゃんを下ろしてから遼太郎(りょうたろう)の方を確認する。すると、遼太郎(りょうたろう)はいつの間にか眠りこけていた。揺すっても起きる気配はないため、

「ありがとうございます。助けていただいて。」と一先ず助けてくれた方々に感謝を伝える。

「いえいえ、困ったときはお互い様というものです。あ、自己紹介しておきましょうか。私は星宮(ほしみや)桃花(ももか)って言います。」と、私たちに手を差し伸べてくれた子が自己紹介をしたため私も、

「私は桐藤(きりふじ)波留(はる)って言います。それでこっちの寝ているのが狛凪(こまなぎ)遼太郎(りょうたろう)って言います。そしてこっちの子が...。」と自己紹介をしていると、

(ひかり)ちゃん、ですよね?」遮られる。

 というか、(ひかり)ちゃんのことを知っている...?

「な、なんで(ひかり)ちゃんのことを...?」

「まあいろいろある、最初から話そうじゃないか。私は灰色のあら「レイちゃんです。」...風倉(かぜくら)(れい)だ...。」と、食い気味に星宮(ほしみや)ちゃんに遮られる。

「それと私たちが岩崎(いわさき)(あゆみ)と、「(ひのき)だ。」まったく、愛想がないんだからぁ!」と助手席に座っていた(あゆみ)さんが自己紹介をし、運転席で運転している(ひのき)さんが簡素に自己紹介をする。多分恋人...、いや夫婦かな?

「あの...それで、どうして(ひかり)ちゃんのことを知っているんですか?」

 もう一度そう問いかけると風倉(かぜくら)ちゃんが話し始める。

「そうだね、大体3時間前のことから順に話そうか。僕たちが烏丸(からすま)家に行った時の話だ。」




「逃がしてしまいましたけど、追いかけます?」

「いや、いいわ。ここまで情報の開示をして鳥羽(とば)ちゃんが起きないどころかあの子の力の一端を使いだしていたってことは変に手を出すと焼き殺されちゃうかもね。」不敵な笑みを狭間(はざま)君に送ると『そんな縁起の悪いことを言わないでくださいよ。』と言いたげな目で熱い視線を送って来る。

「それじゃあ一旦撤収って感じですか。それじゃあ一旦平凡な見せかけは切ります?」

「そうねぇ、奈穂(なほ)ちゃん次第かしら。」

「だったらもう解いていいわよ。」背後からスタッと軽快な着地音を鳴らして赤髪の男を小脇に抱えた奈穂(なほ)ちゃんが現れる。

「それが、(まじな)い屋の店主さん?」

「ああ、古代魔術も使ってきたから多分そう。とりあえず、コレだけ持ち帰って尋問かしらね。」

「そっかぁ。そうだ、鳥羽(とば)ちゃんのことだけど...。」

 そうして、私たちは情報を共有しながら一旦警察署へと帰還するのだった。

報告書20151003-狩助市の龍 第壱頁


報告担当者    御剣 海斗


事件担当者

公安対神性特務課壱級職員 御剣 海斗

公安対神性特務課壱級職員 鳥羽 朱里

公安対神性特務課弐級職員 霞城 優芽


事件対応総被害

市民 283 名死亡 561 名行方不明

建造物 2394棟 倒壊もしくは沈没

鳥羽朱里 殉職[特性上、休職として扱う]

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