伝播の波に乗って
「あのさぁ、どうしてもやらなきゃだめかい?」と僕は彼女に聞いてみるが、
「ここまで来て帰るとかいう選択肢があるわけ無いですよ。それに、次に繋ぐための重要なバトンですからね。何が何でも成功しなければ別行動している彼らに顔向けできませんよ青木さん。」と一蹴されてしまった。
僕らは二手に分かれて行動をすることにした。坂下たちは爆発の起こった現場を確認。そして、僕ら二人はこの街の端にあるテレビ局を襲撃しに来ている。まあ、あまり気は乗らないのだが。
「そろそろ着くところだし、これでも付ける?」と文野はポケットから狐のお面を取り出してきた。
「顔を見られないようにするにはいいとは思うが、何でこんなものを持ってるんだ?」とお面を受け取りながら聞くと、
「発明家の私だよ?常日頃から都合の悪いものには感づかれないようにするためにはこういうのが必要なのさ。」と答えた。どう考えてもこのお面を付けている方が不審者だけども、まあ背に腹は代えられないか。そう思いお面を装着する。
そして、そうこうしているうちにテレビ局の前へとやってきた。
「それじゃあ、一仕事しますか。」バイク用のグローブを指先までしっかりと装着して、僕たち二人はテレビ局の内部へと侵攻するのだった。
「君たち、いったいここに何の用なんだ?」
僕らを警備員の見知らぬ兄ちゃんが征く手を阻んでいた。まあそうだよねぇ、居ない方がおかしいもんねぇ。
「ちょっとした検証、それとまあいろいろだ!」と言いながら僕は彼の股下から勢いよく右足を振り上げ彼の玉にクリーンヒットさせた。
痛みからか地面にうずくまった彼の首から掛けられている社員証を奪って僕らはテレビ局のセキュリティを突破し奥の方へと走り出す。
「あんた、男としてそれはどうなの?」と軽く文野が引いているがフル無視で目的の回線センターを目指す。
映像を中継するためにはほとんどのテレビ局で回線センターを経由している。つまり、回線センターを掌握することで他の映像を中継させることが可能だ。まあ、全て文野が言っていたことなんだけどもな。
ふと、何で文野はそんなことを知ってるんだと疑問に思ったので聞いてみる。
「そういや何で回線センターに行けばいいなんて知ってるんだ?」と聞いてみると普段通りの表情で、
「この間、暇つぶしとしてこのテレビ局をハッキングしたときに外部とのデータを管理している部門があったから調べてみたらそこが回線センターだったってだけだよ。」と何事もなかったように犯罪を犯したことを自供した。
「お前、思ったよりもヤバい奴だな。あと、テレビ局さんドンマイです。」と誰も居ない空間に言葉を投げつけた。
「ゼェーハァー。3階の一番奥とかクソ遠すぎだろ!」
回線センターの前までやってきた僕たちだが、既にスタミナ切れで果てかけていた。僕は今回に置いて一つ教訓を得た。『文野には道を尋ねない』ということだ。理由は、言わなくても分かるだろ。そんなこと考えてるほど脳のリソースは有り余ってるわけじゃないんだから。
「にしても、まったくと言って警備員が居ないって言うのは不気味だな。」
息が整ってきたので、さっきから疑問に思っていたことを吐き出すと、
「まあ祝日だからね。家でゆっくりでもしてるんじゃない?」と返された。
「それなら働きに出てきてもらったほうが嬉しかったかな。でも、そうするとこっちが面倒になるのか。いやぁ、もどかしいね。」
ため息を吐きながら、指の関節を鳴らして体を温める。そして、回線センターのドアノブに手をかけようとした途端、僕たちが来た道の方から4名ほどの警備員がやってきた。
「あらら、もう来ちゃったか。じゃあ、中は私が何とかするからそいつらの相手は任せた!」と言って、文野はドアノブを回して回線センターへと入って行った。
「さーってと、ちょっとイライラしてるから憂さ晴らしになってもらうよ!」
普通に考えて4対1とかは愚行も愚行だが、何でか分からんが勝てる気がする。
まずなんか宣っている最前の警備員に対して鳩尾に強めのキックをかました。モロに食らった奴は壁に叩きつけられて小さく呻いた。とりあえず一人無力化だ。
「次は誰だ?」そう言うと、警棒を持ったおっさんが一歩前に出た。
同じように鳩尾を狙うがさすがに警棒で弾かれる。だが、衝撃を緩和しようとした奴の頭部の頭髪らしき何かが少しずれた。このおっさん鬘か。申し訳ないが、その弱点使わせてもらう。
奴の頭部に手を伸ばしてそれを掴み取り、背後の方へと投擲する。それに気を取られた奴の伽藍洞な腹部に鋭い一突きを蹴り飛ばしてやったらきれいに背後の二人を巻き込んでぶっ倒れた。そこにはらりと奴の鬘がおっさんの顔面へとピットインしてしまったのには笑わざるを得なかった。
「さて、他にやって来る奴は居ないのか?」と問うてみると、
「貴様!さっきはよくも!」と勢いよくさっきの兄ちゃんが走りこんできた。
とても単純に真正面から走りこんでくるもんだから足を引っ掛けてやるときれいにすっ転んだものだから、もう男としての尊厳を取り戻せない程に強く股間を蹴り上げてやった。何か、人間として一皮剥けたような気分がした。
全員をいなした僕は文野がどうしているかが気になったので回線センターの室内を覗いてみると、中に居た全ての職員が縛り付けられて部屋の片隅に雑多に追い寄せられている。警備員の尊厳を踏みにじった僕がなんとも言えないが、少なくとも僕は人間として扱ってはいるから彼奴よりはましだと信じたい。
「どうだ、そっちの方は。」と文野に問いかけてみると、
「もうちょっとで完了かな。あと5分ぐらいは足止めしておいてね!」と言われた。
まあ仕方ないか。何かがあってもいけないし、誰が来てもいいように気を引き締めるべきだな。それにあと5分だけ回線センター前の通路を死守すればいいんだからな。それぐらいは、やり切って見せるさ。